道路構造物ジャーナルNET

新たに発刊した「道路橋防食便覧」のポイント

④金属被覆による防食・金属溶射

公益財団法人 東京都道路整備保全公社
一般財団法人 首都高速道路技術センター

髙木 千太郎

公開日:2015.01.01

 定期的な点検が必要

5)維持管理と補修
 金属溶射した鋼橋の点検は、溶射皮膜の変化や防食効果の有無を確認するために定期的に行う必要ある。通常は溶射皮膜の外観を近接目視によって観察し、溶射皮膜の劣化程度を把握するとともに、劣化する溶射被膜の補修計画を策定するための情報を得ることが必要である。点検時に溶射皮膜の早期劣化や異常(膨れ、剥離、割れなど)が発見された場合は、詳細点検を行うことが必要である。主桁の下フランジ下面に発生した金属被膜の損傷事例を写真-5に示す。


          写真-5 主桁の下フランジ下面に発生した金属被膜の損傷事例

 金属溶射の知識を有する専門技術者が点検を

 詳細点検では劣化の原因を明らかにするとともに、補修方法の検討を行うことになるが、点検作業を適切に行なうには金属溶射の原理、損傷原因、劣化状態や対策方法の知識を持つ専門技術者が点検することが必要である。点検は、主として、金属溶射被膜の状態を十分に確認ができる近接目視によって溶射皮膜外観について調査する。溶射皮膜の劣化は、橋の形式、部材形状、架橋地点の環境等によって、その進行程度が異なるので、さびの生じやすい箇所を重点的に点検し、見落としのないように注意して行う必要がある。また、劣化の評価は、被膜の劣化程度がどの段階にあるかを目視で観察し適切に評価する必要がある。金属溶射皮膜の維持管理の流れを図-4に示したので参考にすると良い。


図-4 金属溶射皮膜の維持管理の流れ

 以上が金属溶射による防食原理、道路橋への適用環境と留意点、計画、設計、施工、維持管理のポイントである。

 おわりに

 鋼道路橋の採用される防食法には、ここまで示した、被覆による防食法として、塗膜、めっき、金属溶射、クラッド、材料による防食法として耐候性鋼材、換気装置等を使う設備による防食法などがある。
 今回解説した金属溶射は、道路橋の採用としては比較的新しい材料である。金属溶射は、鉄の自然電位より卑な金属(亜鉛、アルミニウム、亜鉛・アルミニウム合金、亜鉛・アルミニウム擬合金、アルミニウム・マグネシウム合金等)を溶融状の微粒子として吹き付け鋼素地を被覆することによって環境を遮断するとともに、鉄の溶解(腐食)に先駆けて、溶射金属皮膜が溶解することで鉄を不動態化し腐食を防ぐ。
 金属溶射法のように耐食性材料の使用による防食は、使用鋼材そのものに腐食速度を低下させる合金元素を添加することで改質した耐食性を有する材料を使用する防食方法である。金属溶射法は、適用環境、金属溶射の機能を十分に発揮できる設計、施工、維持管理を行えば、長期の防食機能を確保することが可能な防食法である。しかし、適用環境やここに示す種々なポイントなどを十分に理解せずに金属溶射法を採用すると短期に損傷が現れ、道路橋本体の寿命を縮めることになるので十分な注意が必要なことは言うまでもない。今回示した金属溶射による防食法の主なポイントを理解され、金属溶射法の採用等に役立つことを期待するものである。

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