道路構造物ジャーナルNET

新たに発刊した「道路橋防食便覧」のポイント

④金属被覆による防食・金属溶射

公益財団法人 東京都道路整備保全公社
一般財団法人 首都高速道路技術センター

髙木 千太郎

公開日:2015.01.01

適切な金属材料と仕様の選定が不可欠

金属溶射による防食原理、適用環境と注意点
 金属溶射による防食は、先にも示しているが溶射皮膜の環境遮断効果及び電気化学的防食作用によって鋼素地の防食を行うものである。金属溶射の防食性能及びその耐久性、並びに適用可能な環境は、溶射に用いる材料の種類によっても異なっている。そのため、金属溶射の採用にあたっては、対象となる道路橋の設置環境及び使用条件等に応じた適切な金属材料と仕様を選定する必要がある。金属溶射材料である亜鉛とアルミニウムを事例として、環境遮断効果による防食作用と電気化学的防食作用について解説することとする。
 亜鉛を主体とした溶射では、金属溶射後の初期段階に亜鉛分が酸化して酸化生成物が皮膜の気孔を充填することによって皮膜が緻密化し、皮膜の環境遮断効果による防食作用が発揮される。被膜の環境遮断効果による防食とは、鋼素地の表面に金属溶射の皮膜を形成し、水を遮断することで防食効果が発揮されることになる。金属溶射では、溶射後初期に通常多少の貫通気孔を有しているため、水滴や水蒸気の透過は容易である。その後時間の経過に伴って、皮膜成分の溶射金属が水分と反応することによって塩基性炭酸亜鉛や含水酸化物を生成し、それらが貫通気孔部を閉塞するため、無気孔状態になって優れた環境遮断効果を発揮するようになる。
 アルミニウムによる溶射の場合は、当初から、表面に形成される酸化膜が環境遮断効果を発揮し、経時変化によって皮膜が局部的に消耗した時や皮膜に傷がついて鋼素地が露出した時から、電気化学的防食作用が機能する。電気化学的防食法は、電位差のある金属同士を電解質溶液中で電気的に接続した場合に、より電位の低い金属が溶出することで、電位の高い金属を卑に分極させて腐食を防止させる方法である。金属溶射による防食は、使用する材料によって次のような特徴を持つ。

 アルミニウム・マグネシウム合金の事例増加

 金属溶射に使われる金属には、これまで亜鉛、アルミニウム、亜鉛・アルミニウム合金及び亜鉛線、アルミ線を同時に溶射して両金属が混在した状態となる擬合金等であったが、近年、より高い防食機能を求めてアルミニウム・マグネシウム合金の使用事例が増加している。溶射皮膜の自然環境での耐久性は、金属の種類によって異なる。大気中の塩分(海塩粒子)が少ない田園山間地域では、腐食因子としては主に降雨水と酸素であり溶射皮膜の表面には緻密な塩基性炭酸塩からなる保護膜が生成し、溶射皮膜の消耗速度は小さくなる。
 金属溶射の適用環境は、都市、田園、山岳などの一般環境や、海岸から遠く(概ね0.3km以上)飛来塩分が蓄積されない箇所においては優れた防食性能を発揮する。一方、飛来塩分が蓄積される箇所や、凍結防止剤を頻繁に散布する場所では、一般に金属溶射を単独で適用することは困難である。このような環境下で採用する場合は、溶射金属の種類によって金属溶射と保護塗装を組み合せた仕様を選定するなどの対策が必要となる。金属溶射は、使用環境を誤ると所定の防食性能が発揮できないだけでなく、早期に不具合が生じるなど耐久性も確保されないことがある。このようなことかあら、注意が必要な環境としては、①構造系に異種金属接触部がある場合、②飛沫帯(スプラッシュゾーン)にある構造物、③自動車・工場などの排気ガスが滞留しやすい場所、④床版からの漏水個所、⑤コンクリートに埋め込まれる場合、ここに示す適用可能な環境と適用にあたって注意が必要な環境を十分理解して上で金属溶射による防食法の採用を決定することが必要である。

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