道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第66回 ウルトラファインバブルに飛びついた! -チャレンジ精神で専門分野外にも取り組んでみる-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.06.01

2.3 UFB水洗浄への大きな疑問
 UFB水による鋼部材塗膜の洗浄は、今回行った模擬試験体および既設橋を対象に行った結果によると水道水と比較して優れるどころか、劣っている傾向となった。今回の試験結果からは、UFBが持っている特性、汚物等に吸着し、離脱させる機能が全く発揮されていないことになる。
 これについて、今回行った試験施工を現地で確認中に思ったことは、果たして洗浄ノズルとホースの間に装着した装置Bは十分に機能しているのか、期待通りUFBが生成されているかであった。
 M氏に同行してきた、装置Bの製作会社F社の技術担当者であるO氏からメカニズムについて説明を受けた時、装置BのUFB生成原理とUFB個体濃度に疑問を感じていた。しかし、会議室で装置Bの説明を受けた時点の私はUFBに関する知識が全くなかったことから、疑問点についての明確な質問もできなかった。
 その後、私はUFBについて、一般社団法人ファインバブル産業会やファインバブル学会連合のHPからUFB、UFBの特性、UFB生成の仕組みや装置に関する情報を収集し、関連知識を修得している。着目した当初と比較して多少進歩した私は、試験施工を行っている現地で先に示す技術担当のO氏に「装置Bで生成された水が確かにウルトラファインバブル水であるかを確認するにはどうしたら良いのですか?」と聞いたところ、「現地で確認は不可能です。確認するには、装置Bから排出したウルトラファインバブル水を採取し、試験機関でウルトラファインバブル個数を計測する方法があり、私達も同様な手法で行っています」との回答であった。
 私は、さらに「装置Bですが、何かの不都合で、例えば製造時の誤りで正常に機能しなかった場合、微細な泡であるウルトラファインバブルが確かに生成されているかの確認が必要な場合があると思うのですが、その場合、現地ではなく試験機関の回答が来るまで待つのですか?」と問いかけるとO氏は、「これまでそのような事例はこの装置にはありませんが、一般的に生成装置のUFB生成能力を確認するにはそうなるでしょう」との答えであった。
 試験施工が進む現地で、試験施工による効果確認と速報値を見て悩んだ私は、M氏とO氏には伏せて、装置Bを通過した生成水を採取し、試験機関にUFB個体濃度の確認試験を依頼することとした。

①UFB水ブラインドテストの実施
 私は、装置Bによって生成されたUFB水が果たして本当にUFB水であったのか、また装置Bの解説書通りのUFB個体濃度を確保されているのかについて、私の常道であるブラインドテストを行うこととした。私が行ったブラインドテストとは、水道水、UFB水、スチームUFB水を現地で同条件のもと3体を供試体として採取し、採取した液体が何であるかを伏せて試験機関において判定を行う方法である。
 ブラインドテスト用として現地で先に示した3種それぞれの洗浄水を1体ずつ採取し、それをペットボトルに詰めた状態が図-21である。


図-21 洗浄水取得状況:水道水、UFB水、スチームUFB水

 試験機関に資料を送る際は、図-21に示すペットボトルの上段に貼付した内容物表示ラベルを除去し、内容物が何であるかが分からないようにして試験機関Tで確認テストを行った。
 専門機関Tの内容物確認テストは、水中に存在するUFB個数を測る計測機器として一般的に使われているナノ粒子径分布測定装置(SALD-7500nano:島津製作所)によって行っている。ナノ粒子分布測定法には、今回使ったSALD-7500の原理レーザ回析・散乱法、それ以外に動的光散乱法やパーティクルトラッキング法などがある。
 確認テストが終わり、試験機関Tから送付された報告書には、UFB個体濃度(バブル個数の密度)について試料Aは105,528,793個/ml、試料Bは-101,496,912個/ml、試料Cは-288,804,755個/mlとの試験結果が示されていた。試験機関Tによって行ったUFB個体濃度を計測した結果を図-22に示す。


図-22 試料A、B、CのUFB個体濃度試験結果一覧

 試験結果報告書を見て明らかなように、水道水(試料A)にはUFBが1億個/ml以上存在し、肝心のUFB水(試料B)およびスチームUFB水(試料C)にはUFBが存在しない結果となっている。
 さらに驚いたことには、試験機関Tから送付された報告書を受け、装置B製造会社が行った判定は、水道水の入った試料AをUFB水と評価し、UFB水(試料B)およびスチームUFB水(試料C)はUFB水ではないと評価し、その結果を文書で示してきたことにある。

②装置Bについての評価とその後の対応
 ブラインドテスト結果を受け、私から試験機関Tに問い合わせた結果が以下である。
 今回の装置BによるUFB水生成個体濃度判定が誤った主原因としての説明は、水道水に含まれるコンタミ(水に混入した異物や汚染物質を指している、コンタミネーション(Contamination))が多いことから含有する『泡』の数を精緻に確認できないとの考察が示された。要するに、ナノ粒子径分布測定装置による判定は、微小な『泡』であるUFBとコンタミを区別し、明らかにする試験ではなく、水に混入し、分散しているナノ粒子の大きさ、個数やバラツキを測定する方法であるとのことである。
 正しくUFBの数を計測するには、UFB生成原水を不純物やコンタミが混入していない清水とし、清水とUFB計測する対象UFB水とを比較し、含有しているナノ粒子・ウルトラファインバブルを差し引いて数える方法で行う必要があると示された。
 考えてみると、今回判定を依頼した試験体(試料)は、水道水、それを原水として装置Bで処理し、車両タンクで貯めて長いホース内を通過させたUFB水を採取している。試験機関が誤判断の原因とするコンタミが、今回採取したUFB水およびスチームUFB水の生成過程から、それぞれに大量に含まれている可能性は大であり、理屈は通る。しかし、今回の報告書を受け、一般の水道水にこれだけ多くの微小な『泡』+コンタミが存在しているとの判定には大きな疑問を抱く。
 それはそれとして、UFBを生成する装置Bを装着していることから、UFBは少なからずとも生成され、コンタミが多数混入していたとしてもそれなりの判定結果(UFB+コンタミ)が出るはずである。しかし、今回の判定結果を確認すると、UFB水およびスチームUFB水ともUFB+コンタミの存在が明確ではない。ここまで進めたUFB水洗浄試験について私が結論付けたのは、装置BのUFB生成メカニズムが原因か、試験施工に使った装置B自体が何らかの原因で期待通りUFB生成ができなかった、2つの理由を考えた。
 私としては、装置Bを製造するF社が公開しているHPの機器説明や性能が100%誤りとは考え難く、装置B自体のトラブルであると、M氏に好意的な結論付けを行い、再試験を検討することとした。

③性能保証を受けた装置Bによる再試験について
 今回行った試験施工におけるUFB水生成は、M氏から提供された試供品であることから、取扱説明書に記載してある性能保証を受けられるものではない。そこで、M氏に対し「先日の試験施工結果でMさんも確認されたように、装置Bによる洗浄効果はなかったように思われます。その原因としては、期待通りのUFB水が装置Bでは生成されたとは考えられません。そこで、私からの提案なのですが、再度装置Bを使って試験施工を行おうと思いますが、ご協力していただけませんか? 再試験の条件ですが、事前に、お借りしている装置Bではなく貴社でUFB生成能力を確認していただいた新たな装置Bを使ってUFB水を作り、それを洗浄水として試験施工を行うことで如何でしょうか。これからが重要です。
 Mさん、申し訳ありませんが、これまでの経緯から当方で再試験経費を出すことは困難です。そこで、装置Bを使った洗浄確認試験を実施するフィールドをお貸しするので、貴社の費用で試験施工を行うことで如何でしょうか?」と話した。
 私の考えは、装置Bはこれまで一般家庭を対象とした使用を目的で商品化したものであり、今回の構造物洗浄の道を開くことは新たな市場、販売拡大に繋がる。特に今回の結果は、装置Bの性能に疑問が付される案件であり、M氏のプライドを保つ再試験は良い条件であると最大限譲歩した考えである。ところが私の意図が分からなかったのか、装置Bを私に託したM氏は、「髙木さん、少しお時間を頂いて回答します。次回行う試験施工費用は当社持ちで、その他の条件は、装置Bの性能確認ですね」との返答が返ってきた。「Mさん、その通りです。よろしくお願いいたします」と話し、その場はお開きとなった。
 1週間ほど経過した後、M氏から電話で回答があった。私の想定とは反してM氏は、「髙木さん、今回のご提案に対し、種々検討したのですが辞めておきます」とのつれない返事であった。私は、折角ここまで行ってきた構造物洗浄試験施工、それも私にとって新たな分野であるUFBによる洗浄をここで諦めるわけにはいかないが、と思いつつも、私自身、残念ながら深入りする根拠がないとの結論に至った。
 M氏の断りを苦々しく思いつつ結論を出して1週間程度経過した時、またまたテレビでUFBシャワーヘッドの宣伝を見て、私自身UFB水洗浄断念の結論を出したが、誤った判断ではなかったのか? との思いが急速に増していった。翌日から、再度UFB関連の記事や資料を読み漁り、私の頭の中では何か根本的な誤りがあったとの考えが多くを占めるようになった。思い悩んだ私は、再度構造物洗浄を振出しに戻し、UFBを使った構造物洗浄について考え直すこととした。
 さて、今回の話題提供も佳境に入り、これからがより重要で興味深い話となるがこれ以降は、次回、「ウルトラファインバブルによる構造物洗浄(その2)」に譲るとする。
 ここまで興味深く読まれた読者の方々、是非、次回掲載予定のUFB洗浄その2がどのような話の展開になるのかを首を長くしてお待ちいただきたい。

4.おわりに

 今回の連載は、読者の方々が興味を持つか分からない、土木とは分野の異なる化学の話、ウルトラファインバブルによる構造物洗浄について紹介した。
 UFBの洗浄効果については、懐疑的に思っている人が多いのかもしれないが、私自身、自分の目で確認した時、その効果に目を見張ったと同時に、他分野への活用が頭に浮かび、それが夢にまで出てきた。私の夢が現実に近い話、正夢に近い話となったのは、歯科医院で歯の治療を受けている時である。
 図-23に示す歯科医院の診療台に座って治療を受け、治療している歯の歯科治療用洗浄ノズル(歯科医療治具、青矢印の先)で治療中の奥歯周辺を洗浄し始めた時、何故かUFBが頭に浮かんだ。


図-23 歯科治療の診療台と診療治具

 そもそも、歯科治療は、虫歯治療、歯肉炎治療、抜歯などいずれも歯や歯肉に付着している汚物や治療時に出る血液を如何に短時間に、そして効率良く除去するかである。通常は、洗浄液の中に、薬用マウスウォッシュ、例えば、コンクールやシステマST-Pなどを希釈して使用しているが、UFBを混入した水であればより効果が高く、口内への影響も少ないはずである。それに加えて、UFB本来の効果である、人の肌が持つバリア機能の向上、細菌細胞の増殖を阻害、高度な洗浄機能などが期待できる。また、歯科治療中に何回も、上記青矢印の先から洗浄水を紙コップで受け、口内を濯ぐことは多くの方が経験していると思うが、あまり快適ではない。
 私は、特殊なノズルで歯肉洗浄を受け、スッキリしない口内をコップで洗浄水を取って口を濯いだ後、脳裏に浮かんだUFB水による歯および口内洗浄プランをT歯科医に話を始めた。私がとても懇意にしている中堅歯科医T氏は、私が提案したUFB水の歯科医療への導入案に多いに乗り気となった。さてさて、構造物洗浄から歯科医療における洗浄と話は移るが、物を洗浄することは同じであり、実現するかは分からないが、歯科医療におけるUFB活用案は現在進行中である。

 社会で動いている事象は多く、自らの持つシーズが何に役立つのかは不明の部分が多いが、想像力さえ豊かであれば、シーズの活用方法は無限大である。私が思うに、最初に話した生成系AIもドローンも使い方によっては、その効果や成果は計り知れない。UFBも同様であり、思いつき、想像力がなければ限界はすぐそこにある。しかし、豊かな想像力があれば、種々なニーズに機能する提案が可能であり、当然持てるシーズや関係する機器、システム等の進歩にも繋がる。
 私自身、高齢者となった今でも柔軟な頭とチャレンジ精神に溢れた想像力豊かな技術者となることを夢見て、それを到達点として目指している。
(次回は9月1日に掲載予定です)

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