道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第66回 ウルトラファインバブルに飛びついた! -チャレンジ精神で専門分野外にも取り組んでみる-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.06.01

2.ウルトラファインバブルの洗浄効果に飛びついた!

 私が今回話題提供する『ウルトラファインバブル』に着目したのは、今から2年前の春である。私と『ウルトラファインバブル』の出会いは、私が米国で行っている道路橋洗浄を何とか国内でも実用化できないものかと思い悩んでいた時、ある著名な方から、人工的にそして簡易に『泡』、それも『ウルトラファインバブル』を作り出すとの売り込みしてきた装置(ここでは、Bと呼ぶ)があることを紹介されたのがスタートである。
 当時の私の頭の中での『泡』とは、水中にある『泡』、水に石鹸や洗剤などの界面活性剤が添加されることで形成される、短時間で崩れる『泡』であった。
 紹介された装置Bとは、図-3に示すステンレス製で結構重量があり、その装置から私が知らなかった新たな『泡』、『ウルトラファインバブル』と呼ばれる非常に微小な『泡』を作り出す??との話であった。


図-3 ウルトラファインバブル生成?装置B

 しかし、装置Bを見て手に取った私がそれから2年間、特殊な機能を持つ微小な『泡』、『ウルトラファインバブル』に取り組むことになろうとは、当時の私には思いもよらなかった。
 そもそも『ウルトラファインバブル』が分からない読者も多いと思うので、今回の紹介にあたって先に紹介した『ChatGPT』に興味本位で『ウルトラファインバブル』について聞いてみた。
 すると『ChatGPT』は、「ウルトラファインバブルとは、直径1マイクロメートル未満の非常に小さい泡のことで、見た目は透明です。ウルトラファインバブルは、その小ささゆえに水に長期間留まることができます。ウルトラファインバブルは、ナノバブルとも呼ばれ、直径が100ナノメートル以下の泡のことを指します。ウルトラファインバブルは、その洗浄効果からあらゆる分野で活用されています。例えば、ウルトラファインバブルを発生させる技術で世界をリードしている日本では、最新技術としてさまざまな産業で活用されています」と答えが返ってきた。この答えがどの程度正しいかである。
 私がにわか勉強した『ウルトラファインバブル』に関する解説は以下である。
「水中にあるバブル(泡)には種々あり、一般的な泡とは空気や他のガスが水の中に閉じ込められた小さな気泡を指している。微細な泡、『ファインバブル』には、泡の大きさによって『マイクロバブル』と『ウルトラファインバブル』の2種類に分けられ、『ファインバブル』は、直径100μm未満で1μm(=0.001mm)以上の泡を『マイクロバブル』、それより小さい直径1μm未満の泡を『ウルトラファインバブル』と呼んでいる。先の『ファインバブル』、それを分けた『マイクロバブル』と『ウルトラファインバブル』は国際標準化機構(ISO)で用語規定されている」
 私の答えを読んだ読者の方は、『ChatGPT』の答えと私の解説、どこが違っているか分かりますか?
 先の『ChatGPT』が答えた、『ナノバブル』、そして『ナノマイクロバブル』の用語は、ISOで規定されて以降、当該分野では使ってはいないことになっている。ここに事例として示した違いが「生成型AIを全面的に信用してはならない。答えた中には誤った部分もある」と専門家が指摘していることであるかもしれない。
 次に見た目の違いについて重要な事象を説明しよう。『マイクロバブル』が多数入った水は白濁し、『ウルトラファインバブル』が多数入った水は透明である。ここがポイントで、いずれ後述するが私自身『ウルトラファインバブル水』か『普通の水』かの判定に悩むことになる原点である。
 図-4にファインバブルの定義と特徴を示す。


図-4 ファインバブルの定義と特徴

 図-4のイメージ図と解説で明らかなように、『マイクロバブル』は水中を非常にゆっくりと浮上し、溶解が進むと収縮して消滅するのに対し、今回着目した『ウルトラファインバブル』は、水中で浮上することはなく、刺激を与えなければほとんど溶解も浮上もしないことから、数週間~数カ月の寿命があると言われている。
 分かり易い状態変化における違いを示すと、一般的な『泡』は浮上するが、『ウルトラファインバブル』は浮上しないのが違いである。これは、『ウルトラファインバブル』が微小なサイズであることと、特殊な表面形状であることが浮上しない理由であり、『ウルトラファインバブル』は水中に沈んでいると表現するのが正しい。
 次に、最も重要な『ウルトラファインバブル』の汚れを落とす原理である。『ウルトラファインバブル』は、先に示したように水中に長時間浮遊する特性を持ち、マイナスに帯電していることから、一般的にプラスに帯電している油分や汚れを引き寄せることにある。特に、狭隘な空間に入り込んだ『ウルトラファインバブル』が吸着した油分や汚れを、付着している面から離脱させる能力、特性が特徴である。ここで説明した原理、特性に着目し、種々な業界で多方面に活用できるとの判断し、製品開発しているのである。
 私が知らなかった事実、新たな『泡』に興味を持った私は、著名な方から紹介を受けた『ウルトラファインバブル』生成する装置Bを販売しているM氏に連絡をとり、会うことになった。私が対面したM氏は、種々な経歴を持つ経営者であるが、経歴に違わず自己で現在の牙城を築き上げた実力が推察でき、行動力が並外れている感じがした。しかし、私が聞いていた学歴から推測できる姿とは違って、肝心の装置Bのメカニズムについては理解度が薄いな、と感じた。
 M氏は初対面の私に装置Bをテーブルに置いて、「この装置を水道メータの内側に付けると、家庭の水全てがウルトラファインバブル水になるのでお米や野菜など水洗するものは美味しくなり、バスの水やシャワーで使うことで髪や肌の艶が増します。また、トイレやバスタブは汚れが付きにくくなるだけではなく、水道管の腐食が減るなど良いことずくめですよ!」との営業的な解説をした。
 メカニズムの詳細な説明(パテントからブラックボックス化か?)が無い装置Bについて、疑念を抱いた私が「ウルトラファインバブルとは何ですか? この装置には、電池か液剤が中に入っていて、そこを通過することで何とかバブルができるのですか?」と疑問ありの発言をするとM氏は、「この装置には、見えない金属内部に特殊な加工がしてあります。髙木さんが指摘された、電池とか溶剤とかが内蔵されていて、それが機能することでウルトラファインバブルを作り出す仕組みではありません。特殊な内部構造でウルトラファインバブルを作る仕組みですので、この装置には寿命は無いのです。この装置をお宅の水道メータから家側、内側の水道管に取り付けるだけで、半永久的に家中の水がウルトラファインバブル水になります。簡単で素晴らしい装置でしょう」と話された。
 それから約30分、『ウルトラファインバブル』とそれを作り出す装置Bについて、M氏と私とのやり取りが終わってM氏が会議室から立ち去ろうとした。その時、テーブルの上に置かれたままの装置Bを見て私は、「Mさん、この装置が持つウルトラファインバブル生成と機能についてのお話しはお聞きしましたが、装置は購入するとは決まっていませんので持って帰ってください。この装置が必要な時には私から連絡します」と言った。ところがM氏は、「髙木さん、これは置いて行きますから、好きなように使ってください。無期限で結構ですよ」と言い残して帰ってしまった。
 私の心の中には良くない悪魔の心が存在し、その陰の心が私に「装置Bを無料で試せる、ラッキー」との邪念を囁き、迂闊にも私はそれに従っていた。その後、装置Bは、私のデスクの後ろ、ロッカーの上に放置され約1カ月が経過した。
 私は毎日、窓際のロッカーの上に置かれた装置Bの箱を否が追うにも目にする日々が続いていたある日、自宅のテレビでシャワーヘッド『ミラブル』の宣伝を見ている時、宣伝しているシャワーヘッドと装置Bに『ウルトラファインバブル』という共通する単語が結びつき、耳に残った。そして私の心の中には、ウルトラファインバブルとその洗浄効果について調べてみようとの気持ちが湧き続け、静まることは無かった。結果的に私は、『ウルトラファインバブル』をインターネット検索し、その魅力に取り付かれ、次のステージに移ることになった。

2.1 私が経験した構造物洗浄とは
 構造物の洗浄というと、道路に関係する業務の予算説明資料を作成し、財務担当に道路洗浄の業務について説明を行った過去がある。このような経験をしてきた私には、洗浄イコール路面の洗浄となり、図-5に示す道路の路面を回転するブラシで深夜清掃する特殊機械装置と清掃車両群が頭に浮かぶ。


図-5 路面清掃車両と清掃状況

 そんな私であるが実は今から約30前、先に示した夜間に行う道路清掃業務を効率的に進めるかを考えていた時、幹線道路上の橋梁が図-6に示すように車の排気ガスで真っ黒に汚れているのを目にした。


図-6 自動車の排気ガスで汚れた鋼桁塗装面とタイル面

 私は直感で橋梁の鋼桁を洗うことが耐久性向上に繋がると考え、鋼桁の塗装外面を対象に洗浄試験施工を行ったことがある。その時行った洗浄試験施工は、深夜、人通りが少なくなった立体交差橋梁の側道から、主桁側面を対象に高圧洗浄車を使った人力による洗浄である。
 自動車排気ガスの主成分は、一酸化炭素、窒素酸化物、粒子状物質、二酸化炭素である。この中で鋼桁やコンクリート壁面およびタイル等を汚すのは、粒子状物質であるPM(Particulate Matter)であり、主成分が炭化水素、サルフェート、カーボン、硝酸塩、水分、亜鉛などの金属分である。
 試験施工に使った洗浄水は、水道水では排気ガスに含まれるPMが落ちないとの私の考えから、水道水に壁面用洗剤と防錆剤を混ぜて洗浄することとした。洗浄圧力は、5MPa~10MPaの範囲で何パターンかを試験的に行った。
 試験施工の評価は、黒く汚れた鋼桁外面は高圧洗浄の効果が明らかであり、洗浄効果は十分にあるとの結論であった。しかし、試験施工を行った鋼桁洗浄は本採用には至らなかった。その理由は、確かに洗浄効果は確実にあるが、塗装面にチョーキングした部分があったこと、洗浄による周囲への洗浄+汚水の飛散が予想以上大きかったことなどである。
 似通った話にはなるが、水がらみの施工法にウォータージェットがある。ウォータージェット工法とは、コンクリートの斫り、表面処理、穿孔、剥離、切断、洗浄が行える超高圧システムである。ウォータージェット工法の水圧は、100MPa~300Mpaと非常に高く、安易にウォータージェット水流に触れると大けがする超高圧水である。私が最初に試験施工を行ったのは、本四公団を退職されたN氏の紹介でコンクリート面の斫り、表面処理、切断工法として採用できるかの検証であった。
 試験施工の結果は非常に効果的で環境にも優しいとの評価が得られ、本採用することとした。具体的な採用事例を示すと、コンクリート面の斫り、表面処理として落橋防止システムの沓座拡幅工法に採用、そしてコンクリート部材切断は鉄筋コンクリート床版の取替工法への採用である。利点もあるが欠点もある。
 ウォータージェット工法の欠点は、施工時の騒音が非常に大きく、防音仮施設が必要であることと、大量の排水処理が挙げられる。ここまでが私自身が関係した水がらみの洗浄(一部は洗浄ではなく、斫り、切断)に関する試験施工を行った事例であるが、まさかまた、30年ぶりに水がらみの事項に手を出すとは思いもよらなかった。

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