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-分かっていますか?何が問題なのか-
第66回 ウルトラファインバブルに飛びついた! -チャレンジ精神で専門分野外にも取り組んでみる-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.06.01

1.はじめに

 今、我が国の社会においてメインとなる話題、トレンドは、生成系AI(対話型人工知能・対話型AIツール)でトップを走る『ChatGPT』(図-1参照)である。
 私が毎日観ているテレビのニュース番組での登場率から判断すると、今年の新年までの3年間、常に上位を譲らなかった新型コロナウイルスに取って代わったのが、『ChatGPT』のようである。私は、社会の扱いも大きく違いのある否が応でもワクチン接種やマスク着用などの対応をしなければならない感染症ウイルスと、個人の選択が許される生成系AI人工知能とは同列の情報として扱うこと自体あり得ないと思う。
 しかし、よくもまあ連日、報道番組などで取り上げる『ChatGPT』叩きにはあきれ返るばかりで、『ChatGPT』を使うのを止めろと言えば言うほど、使ってみようと思い、流行に遅れまいと使う若人は増え続けると私は断言する。特に、宿題やレポート、論文など文章創りを求められる小中学生から大学生にとってこんな重宝なものを使わないわけがない。
 例えば、『ChatGPT』のFunctionを使うと、与えられた課題やレポートなどを作成する時、アイデアや情報を得るために質問したり、文章を改善したりすることが可能となる。また、英語など外国語の学習において、種々な対象言語での対話を通して語彙や文法をマスターしたり、トーキングの練習をしたりすることができるなど、我々が期待する以上に魅力満載のツールであると私は考える。
 種々な機能を持つ生成系AIツールに社会が注目し、今やトレンドである『ChatGPT』を試してみた私の感想は、人工知能との対話がここまで進歩したことに対し一種感動を覚えた。しかしそれと同時に、生成系AIを多くの人々が日々使うことに対し何故か大きな不安を感じたのは何故だろう。確かに、車両の自動運転から『Siri』まで自分の周りには人工知能を使った多種多様の装置、機器やツールがあり、私もその恩恵を受けている一人である。しかし今回、私自身がトライした生成系AI『ChatGPT』は、これまでに体験したICTツールとは明らかに違う何かを私は感じ取った。
 そもそも生成系AIとは、ユーザーのパソコンやスマートフォンを介した質問に対し自然な言葉で回答したり、会話を続けたりできるツールである。この生成系AIの仕組みは、大規模言語モデル(インターネット上の膨大な量の文章を学習することで、知識や単語のつながりを習得するAIモデル)、事前学習と微調整、チャット機能(関連する単語をマイニングによって人工知能が選び出して自然な文章を生成し、回答する)および自然言語処理(NLP)、コンテンツ生成機能、ブラウザとの連携で構成されている。
 生成系AIは、仕事や学業、趣味などで様々な情報やアイデアを瞬時に、そして簡単に得ることができることから、倫理を重視した使い方が必要となる。私は良く講義や講演で「優れた技術者となるには、本来の技術力だけではなく、倫理と、そして想像力が必要である。特に想像力には、創造力と独創力があり、如何にそれらを発達させ、自分の物にするかである」と話している。
 今、話題の生成系AIは、使い方を誤ると、人が本来持っている想像力の芽を摘むことなる、と私は思う。また、我々は、『ChatGPT』などの生成系AIが持っている利便性のみならず、それが人間特有の知性や社会にもたらす潜在的なリスクについても注視し、十分注意を払うことが必要である。
 現在、社会で使われている代表的な生成系AIには、ChatGPT、Google Bard 、Bing・Edge、Perplexity、Sematris、Deepart.io、Generative Engine、Genei、Synthesia、Jasper、YouChat、Chatsonic、Whisper、Buzz、itsuku-Pandorabot、CleoChatなどがある。中でも検索精度の高さと幅広い検索が可能で、人と同じような日本語対話機能から話題となっているのが『ChatGPT』とGoogle Bard、Bing・Edgeである。
 確かに先に示したいずれの生成系AIも本人登録さえすれば種々な質問に対して丁寧に、そして何度も嫌がらずに答えてくれる。現在、社会にある著名な生成系AIに関する私の感想は、使い方さえ間違わなければ、疑問解消のヒントを容易に得られるので素晴らしいと思うし、『ChatGPT』について説明している私も生成系AIの恩恵を少なからず受けている一人である。
 ここで生成系AIがどのような会話をするのか事例を示そう。『ChatGPT』に「道路橋のメンテナンスの主なポイントは?」と問いかけると、以下の回答が返ってきた。

1.定期的な点検
 定期的な点検は道路橋メンテナンスの基本です。定期的に橋の構造、部品、および状態を点検し、問題を早期に発見します。点検は視覚的な調査だけでなく、非破壊検査やセンサー技術などの適切な手法を使用して行われるべきです。
2.劣化要因の評価
 橋の劣化要因を正確に評価することも重要です。劣化要因には、腐食、振動、荷重、気候条件などがあります。これらの要因を理解し、劣化の進行を予測することで、適切なメンテナンス戦略を策定することができます。
3.予防保全
 予防保全は、問題が発生する前にメンテナンスを実施することを指します。予防保全の手法には、塗装や防水コーティングの施工、定期的な清掃、排水システムの保守、構造物の補強などが含まれます。予防保全は、橋の寿命を延ばし、大規模な修復や交換の必要性を減らすことができます。
4.修理と補強
 劣化や損傷が見つかった場合は、適切な修理と補強が必要です。亀裂や劣化した部分の修復、損傷した部品の交換、構造の補強などが含まれます。修理や補強は、適切な技術と材料を使用して行う必要があります。
5.交通管理と安全対策
 メンテナンス作業中は、交通管理と安全対策が重要です。作業エリアの適切な標識やバリケードを設置し、通行者や作業員の安全を確保します。また、作業スケジュールや交通制限を適切に計画し、交通の流れを円滑に維持する必要があります。
6.ドキュメンテーションとデータ管理
 メンテナンス活動の詳細な記録とデータ管理は、将来の参照や効果的なメンテナンス計画の策定に役立ちます。点検結果、修理履歴、部品交換、使用材料、メンテナンススケジュールなどの情報を正確かつ体系的に記録し、データベースや情報管理システムで管理します。
7.長寿命設計と適切な材料選択
 道路橋のメンテナンスを効果的に行うためには、長寿命設計と適切な材料選択が重要です。耐久性の高い材料やコーティング、補強構造の使用、環境条件に対する耐性などを考慮して設計し、メンテナンスの頻度や費用を削減することができます。
8.緊急時対応の計画
 緊急時の橋の損傷や災害に備えて、緊急時対応計画を策定しておくことも重要です。災害時には迅速かつ適切な対応を行い、橋の被害を最小限に抑えることが求められます。緊急修理チームの組織や手順、連絡先情報、代替ルートの確保などを計画しましょう。
9.技術の進歩と情報共有
 道路橋メンテナンスの分野では、新たな技術や手法が常に進歩しています。最新の技術やベストプラクティスに関する情報を追跡し、積極的に学習と情報共有を行いましょう。業界のネットワークや研究機関との連携も重要です。
10.持続可能性への配慮
 道路橋のメンテナンスは、持続可能性の観点からも重要です。環境への影響やエネルギー効率を考慮したメンテナンスアプローチを進める必要があります。
11.トレーニングとスキルの向上
 道路橋メンテナンスの作業員や担当者のトレーニングとスキル向上は重要です。適切なトレーニングプログラムを提供し、最新の技術やベストプラクティスについて教育を受けることで、高品質なメンテナンス作業が行われます。
12.プロジェクト管理と予算管理
 道路橋メンテナンスは、効果的なプロジェクト管理と予算管理が必要です。メンテナンス作業の計画、調達、予算配分、資源管理などを適切に行い、作業の効率性と予算の最適化を図ります。
13.コミュニケーションと関係者の協力
 道路橋メンテナンスにおいては、関係者とのコミュニケーションと協力が重要です。関係者に対して作業計画や交通制限について明確に伝え、理解と協力を得ることが必要です。地元住民や交通部局、関連業者との良好な関係を築くことが重要です。
14.監視と進行管理
 メンテナンス作業中は、監視と進行管理が必要です。作業の進捗状況を定期的に監視し、品質基準やスケジュールに沿っているかを確認します。適切な進行管理を行うことで、メンテナンス作業の効率性と品質を向上させることができます。
15.モニタリングとデータ分析
 道路橋のメンテナンスでは、モニタリングとデータ分析が重要な役割を果たします。センサーや計測装置を使用して橋の挙動や負荷をモニタリングし、データを分析して橋の状態を把握します。これにより、劣化の進行を予測し、適切なメンテナンス戦略を策定することができます。

 ――「これらのポイントを考慮しながら、道路橋のメンテナンスを行うことが求められます」と、私の道路橋のメンテナンスに関するに問いかけに対して、『ChatGPT』は丁寧に答えてくれている。
 私は、『ChatGPT』が答えた文章を読んで素晴らしいとは思わなかったが、適切な回答であると判断すると同時に、人工知能が作成した文章は業務や報告書作成に十分使えるレベルに進歩していると評価した。
『ChatGPT』の凄さを実感したのは、質問に対し答えた中で、より詳細に知りたい語句や文章を選択して再度聞き返すと、瞬時にそれも精度高く適切に、そして何度でも答えてくれた。こうなると人工知能と対話している私の脳裏には聞きたいことは次から次へと浮かび、私と人工知能との会話が弾み、気が付くと約1時間はパソコンに向かって『ChatGPT』と戯れていた。

 現在注目を浴びている人工知能第4世代の種々な製品やツールなどは、高性能なCPUやGPU、メモリ、ストレージ、大容量データとインテリジェントな反復処理アルゴリズムの組み合わせ、機械学習、ブロックチェーンなどを組み合わせ、確実に我々の日常生活に入り込み、多種多様な業務にも活用できるレベルにまで進化している。
 実に素晴らしいことではないか。数年前の、人工知能用語、機械学習、深層学習、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、RPAなどは、理論と仕組みは分かるが日々の生活に入り込み、その機能や能力を一般人が実感することは少なかった。しかし、今回社会のトレンドとなっている生成系AIは、人工知能が如何に優れたレベルまで到達してきたかを、誰もが実感できるはずと私は考える。
 私の読者の方々は、もう既に生成系AIを経験済みとは思うが、未体験の方は、https://openai.com/blog/chatgptにアクセスしてトライし、人工知能『ChatGPT』を体験してほしい。私が敢えて今回、生成系AIを話題提供した趣旨が理解できると考える。それにしても、我々の日々の生活に人工知能を持つ種々な機器、ツールやシステムが急速に拡大しているのが事実である。

 今回の連載導入で私が提供する次の話題は、図-2に示す『ドローン』である。


図-2 点検用ドローンと叩き点検機能を付加した点検用ドローン

『ドローン』とは、無線で遠隔操作できる小型の無人航空機のことであり、航空法では、無人航空機を「人が乗ることができない飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」と定義している。
 インフラストラクチャーに使用する『ドローン』は、通常本体重量が100gを超えているために無人航空機として航空法の適用をうけることになる。図-2に示す『ドローン』は、今から約10年前、私が機能と性能を目で見て確認しているが、左側は河川上の橋梁を目視点検、右側はコンクリート壁面の叩き点検機能を付加している。
『ドローン』の製造会社は、数多くあるが代表的なのは、「Phantom」シリーズで有名な中国の『DJI』、ホビー向けメインメーカー、「AR.Drone」で有名なフランスの『Parrot』、高性能ドローンと評価が高い「Solo」「IRIS」で有名な米国の『3D Robotics』」である。中でもトップメーカーを数社抱える中国は、世界の『ドローン』の多くを製造しており、ナンバー1企業『DJI』の世界シェア率は70%以上である。対比して、日本製の『ドローン』はシェア率3.8%と低く、技術的にも世界のトップメーカーと比較すると劣っていると言われているが、ソニー株式会社、株式会社ACSL、株式会社SkyDriveなどが代表企業である。
 橋梁などの構造物点検に『ドローン』が使えるか疑問に思っている人は多く、私もその一人であった。しかし、そう言っていた私も最近、『ドローン』が人に換わって点検の主要な位置を占める日が遠からず来ると思うようになってきた。
 その理由は、種々な業務に『ドローン』を活用している事例を目にすることと、とある著名な大学のO教授の影響もある。O教授と飲みながら種々な話をしていた時、何故か『ドローン』の話になった。『ドローン』の性能を疑問視している私が「O先生、道路橋や鉄道橋の点検をドローンで行うのは無理でしょう! 特に現行の近接目視をドローン搭載のカメラでは代行できませんし、桁内となるともっと困難と思います」と話したところ、O教授は即座に私に対し、「髙木さん、それは違うでしょう! 世界のドローン開発技術の急速な進歩を髙木さんはしっかり把握していますか? 世の中には、数年前のドローンと比較にならないレベルまで開発も実用化も進んでいます。車の自動運転技術が想像を超える急速な進歩をしている事実と同じように、多くの人や社会ニーズがあって、それに対応するように企業の持つシーズが進歩する、それはドローンも同じです」。そしてO教授は「近い将来、人がコツコツ点検を行う時代は古の風景となり、ドローンが構造物周辺を飛び回って点検や調査を行う時代が必ず来ますよ。さて、髙木さん、そうなると点検技術者は何を行うのでしょうね?」との発言であった。
 確かに私は、10年前のNEXCO中日本の点検用『ドローン』や戦略的イノベーション創造プログラム・SIP第1期で検討していた『ドローン』の性能や動作状況を見た一昔前の判断であり、O教授に対し軽率な発言をしていたのは事実である。O教授の私に対する指摘は、現在、既に種々な分野で使われている『ドローン』の性能や現状を見て判断していない私の浅はかな判断を、見透かしていた可能性大である。まだまだ学びが足りない私自身を恥じ、赤面する自分がその場にいた。

 機器実用化レベルの判断を行うにはもう一つの方法があり、それは戦争、軍需産業における使用度および開発体制にある。
 例えば、ウクライナにおけるロシアの侵略戦争において、数多くの軍事用ドローンが使われている。ウクライナ軍が使っている『ドローン』(ここでは、無人航空機全てを総称して使った)は、トルコのバイカル・ディフェンス、スウェーデンのサーブ社、ウクライナのUA Dynamics、AeroDrone、米国のジェネラル・アトミックス、ノーズロップ・グラマンなどと幅広い。
 対するロシア軍が使っているのは、自国のカリーニングラード社、イラン製Shahed-136、中国DJIのMatrice300 RTKの『ドローン』などが使われているようである。
 近代戦で、『ドローン』が数多くの戦果をあげている現状から私が『ドローン』を考えるに、想像を超えるスピードで開発が進んでいることが証明でき、そうなるとO教授の話も俄然現実味を帯びてくる。
 過去の戦争による製品やシステムの研究・開発実態をみると、戦争に勝つために科学技術の研究・開発に多くの資源や人材を投入し、イノベーションが促進されている。また、それまで研究・開発した技術の効果や課題を戦争の最前線において、戦争を行っている両国が装備として検証することからその結果、より精度の高い製品やシステム開発へと繋がっている。ここに挙げた『ドローン』の現状を示す軍需産業の事例は、欲深い人間が持つ『陰』を証明する恐ろしい真実である。
 何故私が今回の連載導入に、生成系AI『ChatGPT』と小型無人航空機『ドローン』を題材に話題提供をしたのかは、今回から数回、最近私が取り組んでいるメンテナンス分野の新たな領域について話題提供するからである。
 第1回目に当たる今回は、土木とは全く異分野(?)化学の話、テレビの宣伝でよく目にする、美容シャワーヘッドで話題を振りまいている『ウルトラファインバブル』の話をしよう。

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