道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第65回 景観を重視した歩道橋が大変形、なぜ?‐鳥の糞尿が鋼製橋梁の崩落原因となるのか?‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.03.01

4.おわりに

 本連載で私から3度ほど取り上げて説明している2022年1月28日に発生した米国・ペンシルバニア州ピッツバーグ市のFern Hollow Bridgeの崩落事故原因に関するNTSB(National Transportation Safety Board:米国国家運輸安全委員会)から発信された最新情報を提供する。
 Fern Hollow Bridgeが崩落した原因を公的な機関として調査している米国のNTSBは、2023年1月26日に新たな情報を発表した。崩落したFern Hollow Bridgeは、長さ447フィートの耐候性鋼材裸使用のリジッドKフレーム・ラーメン橋である。事故原因を調査しているNTSBは、事故原因と事故メカニズムの双方から分析を行っている。崩壊後にFern Hollow Bridgeの脚部(リジッドフレーム基部)に確認した複数の亀裂について調査を進めているが、特に4本の脚に着眼してそれぞれの脚について3Dスキャナーでスキャニングし、先の亀裂と脚部の詳細、全体について分析を行っている。今回公表された資料から、私が読者に必要と判断した調査内容に絞ってその概要を示す。

(1)類似構造橋梁の調査
 ペンシルバニア州に架かる同一材料・同一構造(Uncoated Weathering steel, three-span, Continuous Rigid “K” frame structure :裸使用の耐候性鋼材を使ったリジッドKフレーム橋)の10橋を対象に詳細な点検を行い、崩落に通じる要素は何かを調べている。図-30にNTSBが行った類似構造橋梁の調査状況を示す。今回提供する写真は、Kフレーム橋の内部詳細が分かるように私が加工している。基部にはかなりの数の補強用リブの存在が明らかである。


図-30 崩落橋梁と同構造の橋梁調査

(2)崩落橋梁周辺の聞き取り調査
 橋梁管理者であるピッツバーグ市、州内の道路橋関連技術を統括・指導するペンシルバニア運輸省(PennDOT)及び、Fern Hollow Bridgeを直接保守・点検・監督に係わっていたコンサルタント会社の職員に聞き取り調査を行っている。
 この調査は、Fern Hollow Bridgeの定期点検、臨時点検、特に、部材の断面欠損に対する措置をどのように判断して決めたのか、また、補修後の機能確認はどのように、誰の判断で行ったのかを調査しているようである。
 ここに示した聞き取り調査結果は、訴訟記録簿に記載されるようである。米国の場合、管理者としての瑕疵責任も問うが、点検・診断を行った専門技術者、措置の設計・施工を行った専門技術者に対しても責任を問い、問題が明確となれば民間の技御術者であっても賠償を求められることになる。ここが日本とは大きな違いがあり、土木系の専門技術者は、社会からの格付けや収入が高い代わりに、誤った行為には大きな罰則が付されている。

(3)関連文書等の収集
 橋梁管理者であり予算要求するピッツバーグ市、予算の取り纏めと分配、技術を統括するペンシルバニア州交通局(PennDOT)、崩落した橋梁の建設とメンテナンスに関係する種々な請負業者から関連する文書を特定し、収集を行っている。
 関連する文書とは、Fern Hollow Bridgeの設計・施工、メンテナンス、検査に関する情報が記載されている資料を指している。関連文書等の収集目的は、Fern Hollow Bridge崩落事故によって亡くなられた家族、傷害を受けた人、損失を受けた企業は既に訴訟手続きに入っていることにある。本件の裁判では、重要な証拠となるのは、関連文書であり、該当する資料、文書を全て収集することが必要となり、正にそれをNTSBが行っているのである。

(4)現地採取した部材の機械・金属試験の実施
 崩落したFern Hollow Bridgeの崩落原因を明らかにする着目部材を採取し、ターナー・フェアバンク・ハイウェイ・リサーチ・センターで耐候性鋼の大規模な機械試験および冶金試験を行っている。図-31は、現地で崩落原因を明かにするために着目していた部材と機械試験の状況を示した。右下の機械試験結果から桁のフランジから加工した引張試験片が赤い楕円で囲った箇所が降伏している状態を示している。


図-31 南西脚(B1R)着目部材と鋼部材引っ張り試験状況

 過去に米国内で発生した社会基盤施設の事故のすべてについてNTSBがその原因、メカニズム、技術的背景や関連事項を技術的に調査し、種々な機器類や実験を駆使して分析し、正しい技術情報として必要な数値を含めて社会に公表している。
 今回、NTSBが行っている公開されたFern Hollow Bridge調査の最新情報の概要を説明した。今回の公開情報を見て私は、Fern Hollow Bridge崩落の原因をNTSBが正式に公開するのは今年の春であろうと予測している。NTSBが行った過去の同様な事故分析結果を見ると、計測、実験及び解析等によって定量的で信頼性の高い結論が出されているが、今回も同様で、先に示す機械試験結果も含め、裸使用の耐候性鋼材Rigid“K”frame structureの崩落原因が近いうちに明らかになると思う。
 いずれにしても誰もが納得する精緻な原因究明には、長い期間が必要であることは分かるが、我が国の事故分析とは大きな違いがある。我が国の場合、事故が発生すると正しい事故分析よりも社会に名の知れた学識経験者を集めた委員会設置を優先する。私は、米国の場合と我が国の場合と比較して、我が国の対応や措置について、果たしてこれで良いのかと思っているが読者の皆さんはどうですか? 旧態依然とした対応を変えるのは今でしょう!

 ここで地域の重要橋梁であった、崩落したFern Hollow Bridgeの代替橋について少し説明しよう。Fern Hollow Bridge代替橋は、崩落事故後4カ月経た2022年5月9日に建設工事が始まり、まずは代替橋のケーソン掘削とコンクリートの打設を行っている。その後、7月末には橋脚が完成し、クレーンを使ってプレストレストコンクリート桁架設を行い、道路橋本体は2022年12月には完成している。2022年12月20日に代替橋においてテープカットを行い、道路橋として主体部分の暫定供用を開始している。Fern Hollow Bridge代替橋及び周辺工事のすべてが完了するのは、今年の春との予測である。代替新橋のデザインパース図と11月の建設状況を図-32に示す。


図-32 代替新橋のパース図と建設中の状況

 初代、崩落した二代目は、景観にも配慮した最新技術と材料を使った私も感心した興味を引く橋梁であった。三代目は、非常に残念であるが何の特徴もない普通のPC橋となってしまった。橋梁技術者である私にとって、また何回もピッツバークに通った私にとって、魅力ある米国の象徴がまた一つ無くなった、非常に残念である。

 本連載の最後に、私にとって、そして多くの読者や橋梁に関係する技術者に大きな衝撃となった、とっても悲しいことを話さなければならない。それは、東京大学名誉教授である伊藤學先生(右写真)が先月の2月12日に亡くなられたことである。
 私自身、伊藤學先生からは数えきれないほど多くの教えを受け、直接の学生でもないのにとても可愛がって頂いた、偉大な専門技術者、教育者である。伊藤學先生は、私を「髙木君」ではなく、「髙木さん」と呼び、立場も違うこの若造に対し、事あるごとに適切なアドバイスを頂くだけではなく、本連載を長きにあたり読んでいただき、数えきれないほど助言も頂いた。伊藤學先生は、私が無理なお願いをしても、嫌な顔をせずに何度も応じてい頂き、笑顔を絶やしたことがなかった。伊藤學先生の笑顔と奥の広さについて私は、3人のお嬢様が仰っていた「家では、ただ普通のお爺さんですよ」の言葉からも推測できた。
 伊藤學先生の思い出としては、田中豊先生の東京帝国大学・講義録をコピーして頂戴したり、亡くなられた吉田巌さんや川田忠樹さんなどの多くの方々を紹介して頂いたりした、私の橋梁技術者としての師範、恩人でもある。

 伊藤學先生は、自らを飾らず、自慢もせず、どのような立場の人でも差別もせず、常に相手を思って接し、行動することを常に身をもって私に教えて頂いた方でもある。しかし、私にとって、土木学会、日本鋼構造協会、プレビーム振興会などで、そして道路橋に関する業務等でお会いする度に、あの優しい声で眼鏡越しに「髙木さん、実はね……。あの話の真実はね、髙木さん……」の言葉が聞けなくなったのは、とても悲しいし、とても残念であり、とても辛い。私がここで伊藤學先生のことをこれ以上詳細に話すよりも、公私ともより多く伊藤學先生に接していた方が紹介する機会が数多くあると思うので、これ以上は話すことは止めておこう。
(次回は6月1日に掲載予定です)

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