道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第65回 景観を重視した歩道橋が大変形、なぜ?‐鳥の糞尿が鋼製橋梁の崩落原因となるのか?‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.03.01

3.鳥の巣の下には塩分がどの程度堆積するか?

 道路橋の箱桁内やI桁下フランジ上や端横桁下フランジなどに鳥が巣を作り、巣の中で生活する鳥の糞尿や餌が原因で腐食が進展し、鋼材の断面が欠損し問題となる事例が数多くある。
 図-20は、以前連載でも掲載した鋼製橋梁の下フランジ上に鳥が止まり、糞が大きく溜まった状況を示しており、対象の鳥は『鳩』である。管理者としては、『鳩』が留まれないような措置を講じたが用を成さなかった事例である。また、鋼製箱桁の上部、歩行者が歩く高欄の外側に鳥が作った巣を図-21に示す。


図-20 鋼桁の上に積もった鳥糞/図-21 鋼桁の上に作られた鳥の巣(高欄の外側)

 歩行者が少ないと、鳥も分かっているのか主桁上部に巣を作る。高欄の外、容易に手の届く鳥の巣、定期点検を行った業者も点検結果を受け取った管理者も放置していた事例である。このような事例は海外にも多くある。珍しい事例として紹介する図-22は、米国・ミネソタ州の道路橋である。


図-22 鋼桁上のRC地覆側面の巣(鳥?、虫?)

 これを見た私は、鋼桁地覆の側面に巣を作ったのが鳥類か虫類であるかを確認しようとは思ったが、その後に起こる事象を考えると怖くて触れなかった、異様な巣が数多く作られた稀有な事例である。私の経験でも、鳥などの生物が橋梁に巣を作り、管理者が巣を撤去しなかったことでその周辺が異常に腐食し、断面欠損した事例には事欠かない。
 また巣や糞ではないが、図-23は、橋台上に溜まった土砂が虫塚となった事例である。私が、溜まった土砂に手を触れると虫が頭を出し、土砂に接触している鋼桁下フランジは、腐食で断面欠損し、手で容易に剥げる状態であった。


図-23 RC橋台上の虫塚と鋼桁腐食・断面欠損

 道路橋の定期点検を義務化して我が国のメンテナンスは進んだと言いている人や組織は、ここに示す事態を分かっているのであろうか?
 私がここで示す状態を確認した場合、私の頭の中で異常事態警鐘がなり、即座に撤去措置となる。しかし、多くの施設管理者は、先に示す『鳥の巣』や『虫塚』などを放置することに抵抗感がないようである。私は、鳥が橋梁に巣を作り生活することを『鳥害』と呼んでいる。
 一般社会では、鳥が巣を作るだけではなく、鳥が電線に停まったり、家屋の軒やベランダに停まったりして糞尿が落ち、人や建物を汚すことや、鳥のさえずりが騒音となったりするなど、これらすべてを総称して『鳥害』と呼んでいる。ここに挙げた以外の『鳥害』には、農作物に関係する種籾や幼苗が食べられてしまうことも挙げられ、公害の対象となる『鳥類』には、カルガモ、スズメ、カワラヒワ、ハト類、カラス類などがある。

 今回の連載では『鳥害』として、鳥の巣と『総排泄孔』から排泄される白色、白黒色、紫色などを示す糞尿による鋼材の腐食について説明しよう。
『鳥の巣』は通常、木の枝や藁、羽毛などの有機物で作られ、これら物質に含まれる水分や酸素が鋼材に付着することで、鋼材が腐食する。また、鳥の糞尿主成分は、尿素、硝酸塩、炭酸塩、カリウム、カルシウムなどのミネラルや、たんぱく質、脂質、糖質などの生成物質である。さらに、強酸性を示す鳥の糞尿は、鋼構造物だけではなく、コンクリート構造物(鉄筋、鉄骨、PC鋼材)においても劣化の原因となる。
 鳥の糞尿により防食塗膜が劣化し鋼材の腐食が発生、進展するには、糞尿のアンモニアが細菌に分解され硝酸塩(アンモニア塩)ができることと「乾湿繰り返し」が必要である。ここで重要なことは鋼材腐食の基本は、読者にとって耳にタコができるくらい私が話している鋼材腐食の3要素、①酸素、②水、③化学反応が揃うことである。鋼材の腐食で重要な事項にもう一つあり、それが「乾湿繰り返し」で、次に示す現象である。
 まずは、鋼材が水と酸素に触れることでアノード反応が起こり、2価の鉄イオンFe2+が溶出し、Fe2++2OHに示す化学反応が起こり、最初の腐食生成物、水酸化第一鉄Fe(OH)2が生まれる。次に、水酸化第一鉄が乾燥すると、暴露している空気による酸化によって価数が3になる水酸化第二鉄、赤色から褐色のFe(OH)3となる。次のステップで水に濡れることでさらに酸化が促進することになり、ここに示す流れが鋼材の腐食における「乾湿繰り返し」である。
 さて、道路橋に巣を作る事例がどの程度あるのかは、調べたことがないので分からないが、私が経験した過去の事例を振り返ってみると結構目にする場面が多かった。

 今回紹介するのは、『鳥の巣』を30年程度放置すると、どの程度の塩分が堆積するのかを調査した事例である。私が今回調査結果を示す橋梁は皮肉にも、定期点検で何度も『鳥の巣』があることを確認しているにも関わらず、施設管理者が『鳥の巣』を撤去しなかったことから今回の調査が成り立った。
 対象橋梁は、架設から約30年経た3径間連続鋼床版箱桁の主要幹線道路を跨ぐ道路橋であり、図-24の左側は平成21年11月、右側は8年後の平成29年11月の『鳥の巣』の状況である。


図-24 道路橋鋼箱桁内に鳥が作った巣の経年変化

 巣の状況から明らかなように、巣及び周辺の汚れは少なく、外部から浸入する雨水が皆無であったこと、巣で生活していた鳥の数が少なかったことから、箱桁内面当該箇所の塗膜、鋼材の腐食はほとんどなかった。この理由は、巣を作った鳥の大きさと雨水浸入量、箱桁内部の湿度が低かったことによる。
 巣を作った鳥は、図-25に示す鋼箱桁下フランジの現場溶接部に設けた微小な穴(スカーラップ)から箱桁内に侵入し、巣作りを行ったのだが、侵入口が小さかったことから、巣作りした鳥は『雀』のような体長が14cm前後の小さな野鳥と推定できる。


図-25 鳥が出入りした下フランジ現場溶接部スカーラップ

 今回、写真に示した巣の塩分量を測定した結果を表-1に示す。塩分測定は、3径間連続鋼床版箱桁橋の道路を跨ぐ中央径間と側径間の3箇所で行った。測定箇所①(図-26参照)は側径間の中央部であり、測定箇所②(図-27参照)と③(図-28参照)は、道路を跨ぐ中央径間の中央部である。


表-1 鳥の巣及び一般部塩分量計測結果

図-26 鳥の巣①/図-27 鳥の巣②/図-28 鳥の巣③

 一般部の塩分量は、①、②、③の順で示すと504mg/m2、628 mg/m2、572 mg/m2であるのに対し、巣を撤去した後の塩分量は、896mg/m2、1842 mg/m2、1248 mg/m2といずれの箇所も巣を作っていた箇所の塩分量が多かった。②と③の塩分量は、約2.8倍、2.2倍と一般部の倍以上の数値を示しているが①の箇所は、約1.8倍となっている。
 ①は、側径間で周囲に人が近寄る可能性があることから巣に滞在する期間が少ないことと、内部排水管とウェブの間に巣作りしたことから巣の下に空間があり、結果塩分の堆積量が少なかったものと考える。
 中央径間の②と③は、道路を跨ぐ径間であることから、人が接触しにくいことから巣にいる滞在期間が長かったのが理由とも考えられる。なお、今回鋼桁内面の塩分量測定は、容易に塩分量を計測できる図-29に示すポータブル式塩分測定器を使用して行った。


図-29 塩分計測器(SNA-3000)

「鋼道路橋防食便覧」(日本道路協会)では付着塩分量50mg/m2以下とすると規定していること考えると、少ない箇所で既定の約10倍、巣を作っていた箇所は最大36.8倍の塩分量となる。今回鳥が巣を作った箇所が箱桁内であり、水分が少なかったこと、乾湿の繰り返しが少なかったことが幸いし、塗膜劣化及び鋼材腐食に至らなかった大きな一因である。しかし、今回の塩分量測定結果から、巣を作ったことによる塩分量が大きいことを定量的に示せたことは、『鳥の巣』を早期に撤去する必要性が明らかとなったと考える。
 話は戻るが、確かに鳥の糞尿による塩分量等が大きいことは分かったが、だからと言って『六十谷水管橋』の鋼材腐食、断面欠損の主原因は鳥の糞尿とは言えない。その理由は、今回破断した部材定点に糞尿が固まるほど集積し、先に示す乾湿の繰り返しがあったとは断定できないし、可能性としては低い。それよりも橋梁が崩落した大きな原因は、管理者が適切な点検・診断を行わず、鋼材格点部に発生していた異常な腐食、断面欠損を放置していたことにある。
 今回の連載の締めとして、米国・ペンシルバニア州ピッツバーグ市で起こった道路橋崩落事故原因について、分析を行っているNTSBから発信された最新情報を紹介しよう。

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