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-分かっていますか?何が問題なのか-
第65回 景観を重視した歩道橋が大変形、なぜ?‐鳥の糞尿が鋼製橋梁の崩落原因となるのか?‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.03.01

2.景観を重視した歩道橋が大変形、なぜ?

 前回話題提供したMorbi bridge(30 October 2022、the city of Morbi in Gujarat, India)から約3カ月経た、2023(令和4)年1月3日(水曜日)午前1時40分ころ、韓国・ソウルの道林歩道橋(図-2参照)が崩落しかかった。この写真だけを見ると、国内にも良くある吊り床版橋(図-3参照)のようで、私は違和感を覚える人の数は少ないと思う。


図-2 崩落しかかった道林歩道橋(韓国・ソウル)

図-3 吊り床版橋事例(芦田湖歩道橋・広島県)

 道林歩道橋の位置を図-4、図-5と図-6に示す。ソウル市の名所『景福宮』から南西約10㎞の方向、地下鉄シンドリム駅の直近に道林歩道橋が架かっている。


図-4  道林歩道橋位置図(その1)/図-5  道林歩道橋位置図(その2)

図-6 道林歩道橋位置図(その3)

 道林歩道橋がどのような状態で崩落しかかったのかは、歩道橋の取り付け部に設置している監視カメラが捉えた動画があるので、事故について読者の方々が分析する際には参考になる。監視カメラの捉えた変形する瞬間の動画を見ると図-7に示すように、道林歩道橋の橋台上部にある鋼製柱の天端に設置した支承が外れ、主構造である鋼管上弦材が支間中央方向に大きく移動した。その結果、先に示した吊り床版橋のような外形に変形して留まり、完全崩落には至らなかった。


図-7 道林歩道橋事故前後の支承状況比較

 しかし、私は事故動画を何度も見返し大変形に至る過程を確認したが、崩落一歩手前で良く止まったと思う。私が道林歩道橋の変形が止まった理由を考えるに、主構造が鋼製鋼管であったことが幸いしたと考える。
 私が今回発生した道林歩道橋大変形事故を見て、すぐ脳裏に走ったのは静岡県で起こった歩道橋大変形事故である。私の記憶から消えることのない歩道橋の事故とは、今から10年前の2013年2月10日に私の故郷、静岡県天竜市で発生した。
 事故の内容は、歩行者専用の吊り橋(第一弁天橋・桁下約6m)が写真-2に示すように主ケーブル定着部が破断したことで崩落しかかり、危うく橋面上の通行者が落ちかかった一件である。この時、歩道橋大変形事故に遭遇した橋上を歩いていた7人の高校生は、俊敏な対応(運動神経?)で主構造を手でつかみ、落下を免れ、命拾いすることができた。しかし、この歩道橋事故を重視した国、静岡県は同構造の吊り構造の歩道橋について、総点検を行っている。


写真-2 大きく変形した人道橋(静岡県・天竜市)

 今回崩落しかかった道林歩道橋には、深夜でもあり通行人がいなかったことが幸いし、人的な被害は一切なかった。道林歩道橋を管理している責任者は、人命の絡む瑕疵事故とならなかったことに胸を撫でおろしたと思う。しかし、当事者としては、事故前の状況を調べれば、調べるほど心中穏やかではなかったと思う。

 さて、ここで韓国のソウル市で起こった大変形したが、危うく崩落を免れた歩道橋事故について、私個人の想像力を主として原因を考えてみた。今回事故を起こした道林歩道橋は、ソウル市永登浦区の道林洞と新道林(シンドリム)駅近くに2016年5月末に供用開始した、規模としては一般的な、橋長104.6m、幅員2.5mで鋼管を三角形状で組み合わせた(トラス形状)鋼製橋梁である。
 特徴としては、図-8で分かるように、道林歩道橋は上空を道路橋、桁下を河川で制限された空間に扁平アーチで架けられている。アーチ橋設計の基本としては、図-9に示すアーチのスパンLとライズHの比率、ライズ比が1/5~1/10程度(真円のライズ比は1/2)とするのが一般的である。
 ライズが大きいとアーチ部材に生じる応力は軸力が卓越し、アーチ構造としての効果が高く、逆にライズが小さいと曲げモーメントが大きく、アーチとして成り立たない構造となる。


図-8 道林歩道橋全景(鳥瞰・側面)

図-9 アーチのスパンとライズ

 私が道林歩道橋の外観から構造的特徴を考えてみると、ライズが小さいことからアーチと桁と双方の特徴を併せ持ち、当然挙動も複雑になると判断する。活荷重比率が低い歩道橋とはいえ、橋長が100mを超えることから、主要材料に単位体積重量が小さく曲げ剛性の高い鋼管を使ったとしても、全死荷重が大きくなり、ライズが小さいことによる水平反力はかなり大きくなるはずである。
 ライズが小さいアーチ構造は、当然、曲げモーメントやたわみも大きくなることから、何らかの必要な対策(補助的に吊る、強固なタイ材を追加するなど)を施さない限り構造的に成り立たないはずである。
 また、道林歩道橋の構造的特徴として、図-10に示すように、鋼管桁と橋台・鋼製柱頭部において回転機能を持つピン構造(ヒンジ)支承によって固定されている。上弦材の端は、支承面で明らかなように水平に移動可能な状態で下沓の上に置かれ、台座は支点反力を受けることが可能な構造のようである。


図-10 道林歩道橋の上下分離した支承

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