道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第65回 景観を重視した歩道橋が大変形、なぜ?‐鳥の糞尿が鋼製橋梁の崩落原因となるのか?‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.03.01

1.はじめに

 何を今頃になってと一笑されるのを覚悟で恒例の干支の話をしよう。2023(令和5)年の干支は、十二支の4番目にあたり、動物で今年の干支を考えると『兎』、十二支で考えると『卯』年、そして『癸卯(みずのとう)』である。
 漢字『卯』は、門を無理に押しあけて中に入りこむ様子を象形した字である。中国伝来の十二支は、もともと植物が循環する様子を表し、4番目にあたる年は、茎や葉が大きくなる様子を表す『卯』となる。このようなことから『卯』年は、目に見えて大きく成長する年だと言われ、動物の『兎』は跳びはねることから、飛躍する年になるとも言われ、それを期待する人も多い。
『兎』に纏わることわざには、『二兎を追うものは一兎をも得ず』や『株を守りて兎を待つ』(古い習慣や過去の偶然の成功にこだわり、進歩や向上がないこと)があり、前述した飛躍する年のポジティブな面と、後述した「逸る心を抑える」ネガティブな面があり、12の干支いずれも同様でポジティブとネガティブな面があり、本人次第でいかようにも変わると考えたほうが現実的である。このようなことから私は、新年改まると可能な限りポジティブな干支に関する言い伝えを頭に置き、前向きに考えて行動するように努めている。

 話題を少し変え、今年のNHK大河ドラマの主人公である徳川家康は、通説の天文11年の『壬寅』年、『寅』の日、『寅』の刻生まれではなく、翌年の『卯』年生まれであったとの説がある。その理由は、家康を産んだ『於大の方』が、大事な息子の『竹千代(後の家康)』が『卯(兎)』年では、剛者(強者)に潰されてしまう、そこで生み落とした年を前倒し、『強者』の『寅』にしたとの説である。母親の子への強い思いと期待は今も昔も変わることはない。古今東西の我が国においては、いずれにしても干支、『卯』年に係わる話題には事欠かない。

 さて、過去の『卯』年について、私の専門である鉄道と橋梁に焦点を当てて振り返ってみると、1891(明治24)年、日本鉄道上野-青森間の開通、1903(明治36)年、日本鉄道豊島線(池袋-田端間)の開通(現山手線)や国内初の市電として大阪市電が開業している。さらに、1927(昭和2)年には、国内初の地下鉄(上野-浅草間:現在の東京メトロ銀座線)が開通し、1939(昭和14)年、東京高速鉄道(新橋-渋谷間全通:営団地下鉄・東京メトロ銀座線)の開業があげられる。
 また、橋梁を近代で考えると1939年には、言問橋や大師橋(現在の前橋)など11橋が架けられ、1951(昭和26)年は、平和橋(広島)など7橋、1963(昭和38年)年には、以前話題提供した葛西橋、皇居正門鉄橋など架設数が94橋と急速に増加し、一回りした1975(昭和50)年になると、我が国の橋梁業界は、国内から海外に市場を広げる流れが顕著となり、国内では荒川湾岸橋(首都高速)など架設数も三桁となる。
 今回話題提供する歩道橋に関係する『卯』年の史実として、図-1に示す『大阪駅前交通安全陸橋』がある。


図-1 大阪駅前交通安全陸橋(大阪市)

『大阪駅前交通安全陸橋』は、国内初の歩道橋建設との解釈から開通した4月25日が『歩道橋の日』となっている。同橋は、大和ハウス工業株式会社の創業者・石橋信夫氏が発案、川崎製鐵株式会社と共同で大阪駅西口の中央郵便局前に建設し、大阪市に寄贈した歩道橋が開通した日が1963(昭和38)年の4月25日である。
 しかし、この説は誤りであることが私が前職で係わった横断歩道橋撤去事業を開始するにあたって調べた時に分かった。日本初の歩道橋は、『亥』年の1959(昭和34)年6月27日、愛知県西枇杷島町の国道22号線を跨ぐ写真-1に示す『西枇杷島町横断歩道橋』である。


写真-1 西枇杷島町横断歩道橋(建設省)

 いずれにしても、“交通戦争”の最中、自動車中心の社会から人を守るために人を路上から分離する策として注目されたのが歩道橋であり、私としては、その流れに多大な支援を民間企業が行ったことに意義を感じる。参考までに東京都内初の歩道橋は、東京オリンピックの約1年前にあたる『卯』年、1963(昭和38)年の秋、9月10日に開通した『五反田歩道橋』である。

 ここで今年の干支、『卯』年の過去を振り返り、今回、わざわざ歩道橋を抜き出して話を始めたのには大きな理由がある。それは歩道橋事故、それも通常このような架設条件では採用される構造とは思えない、美しい?景観づくりを重視した歩道橋(人道橋)が崩落しかかった事故の詳細を今回の話題提供の第一として取り上げるからである。私が注目した歩道橋事故は、隣国・韓国のソウル市で発生した。

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