道路構造物ジャーナルNET

㊼新技術の導入

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.10.16

3. 新技術導入に関する課題と対応案

 前述の状態では、あくまで特殊事例になってしまうので、一般的な、発注者として新技術導入の“しくみ”を考える。

 第一段階 開発者の提案が、適切かどうかの検討・判断
  ・開発者の数値解析、実験等による検討結果がそろっていること
  ・(設計・施工)マニュアル類 →明確な根拠、考え方が整備されていること
  ・できれば、試験施工等実績 →発注者との共同もありえる
  ・経年劣化試験等が実施済み(少なくても、促進試験)
  ・コスト評価、積算体系の構築がされていること
   ――であり、公的な第三者機関等が実施し、認定結果した結果を有すること。公的とは、公益法人、学会等である。
 ⇒この段階である程度固まっていない物は、非常に採用しにくい

 第二段階 発注へ向けての検討(どちらかというと発注者側)
  ・技術的、コスト的にも、第三者に明確な説明ができること(市民への説明)
  ・財務部、契約課を納得させなければならない
  ・発注に関しては、正式には、まず契約課に説明を行い、納得させる必要がある。
  ・これを定常的に運用するためには、財務部との協議も必要
  ・さらには、議会への説明や市長、副市長との協議も必要な場合も
  ※私は、これをいちいち行わないために「今回はあくまで試験施工で、業者側と富山市で協力してやるんですよ」という「研究協力協定」の締結をしている。
 ⇒市長には、効率的な維持管理技術の導入のためには、実証が必要であり、そのためにフィールドの提供は不可欠である旨は、5年前に話をしていて、了解をもらっている。

 第三段階 しくみとしての導入(再評価)
  ・新たな提案を、“しくみ”として導入する
  ・価格設定や、実施可能な業者の登録を行う

 その他事項
 ※品質保証
  経年劣化後の保障や、問題発生時の対応体制の充実が必要(開発者側)

 ※トラブル発生時の対応
  開発者側に十分な対応体制が必要。会計検査などでは、開発者の意見よりも公的第三者の検証が必要となる場合もあるので、第三者の認証制度の充実があれば、ありがたい(国など)。

 ※国レベルと自治体、特に市町村では、できる範囲、やれる範囲がかなり違ってくる
  導入に関しては、先進的な冒険心がないと、「一番手にはなりたくない」という気持ちが出てくる。十分な認証制度と担保が必要になる(できれば国など)。

 ※「試験施工」自体での、正式採用、発注と言うのは、自治体レベルでは難しいと考えられる。
  試験施工は、実際に採用する前に、数ケースは修了しており、検証されていることは必要。

 新技術関係を本当に提案できるのは、高度な技術力を有した企業であると思うが、ほとんど根拠もなく、実証も十分でない企業が、お金になれば良いということで、売り込んでくる。そういう者を、見抜く能力が発注者には必要で、安易に乗っかり、失敗する例がある。コンサルの補修設計での提案にも本来は責任があることを自覚しているか?
 近年では、公共工事の減少時代の業界再編等により、発注の仕組みを理解していない企業も増えている。先に記述したNETISと審査証明の違いすらも理解されていない。認証制度の周知徹底も必要かと思う。

 マンションの杭問題、落橋防止装置の溶接不正等の不祥事はあとを絶たない。『下町ロケット』が高視聴率だそうだが、小さい会社だから誠実なのではなく、個々の企業体質だと思う。技術者個人もしかり。こういう状況が続くと、発注者は貝のふたを閉じてしまい、安全側に、つまり旧態依然とした方法を常にとり、担保を取っておこうとする。これを何とかするには、第三者的チェックコンサル、検査機関(インスペクター)が必要となってくる。

 道路橋示方書が変わり、設計法が変わるとなると、さらに抵抗感が広がり、なかなか理解できないのではないかと考える。そもそも、発注者は「どうせ自分は理解できない」と思ってしまい、なかなかなじめない。現在、役所内の状態を見ていると、新しい物は嫌われる方向にある。これが、ブロックしてしまいかねない。

 かつて、阪神大震災後の耐震設計の改定時に、国交省職員向けに、通称「猿でもわかる耐震設計」という物を作成し配布した。これは、耐震設計の考え方が大きく変わるので、理解されないのではないか? ということで「道路整備検討会」という委員会をつくり、その中で作成していった。
 そのような解説書の作成が必要である。この時の失敗は、単なる配布で終わってしまったこと。周知が必要である。しかし、5年ほど前に関東地方整備局で若手職員向けの勉強会をした際に、聴講者がそのコピーを持ってきていたので、ある程度の効果はあったと感じ、感動もした。

4. まとめ

 そもそも「新技術導入」と皆さんいうけれど、本気なのか? しかし、ここで悩んでいる方も多いだろうが、自分の信じる道を行くしかない。第1ステージが終了し、場面は第2ステージへと突入した。財政の問題は非常に大きな問題であるが、各々の財政上の課題があるため、少なければ少ないで、与えられたなかで対応しなければならない。
 我々の役割としては、管理していく上での技術面での課題を解決していくことが使命である。しかし、第一歩として、必要な予算額がシミュレーションできていないということも見受けられる。しかし、言うことは言っておかないと、責任はこちら側に来てしまう。そこで、新技術がどこまで有効なのか? はだれも実証できていない。

 私は新入社員のころから、通常の業務の合間に、開発部門の仕事をしてきた。目的は、実際に現場で使えるものの開発である。システムや実際の工法まであるが、開発費は潤沢でなく、他社との共同が多かった。開発はしたが、日の目を見なかったものも数多くある。
 採用にあたり、持ってくる人たちは、一生懸命開発しているのだから、自信満々なのはよくわかる。しかし、公共事業なので採用する側にはそれなりの覚悟と責任がいる。つまり、決断が必要なのだ。安易に使ってしまえば、問題が起きるかもしれないということと、それを処理対応できる覚悟が必要なのだ。

 ここまでは精神論。そしてさらに、技術者としてその技術を見抜く力も必要なのだ。よく、新技術導入にあたり、「言葉が通じない」ということを聞く。一生懸命説明しても相手がわかってくれないということである。それはそれで仕方ないが、発注者側は勉強が足りない。それを聞ける人脈も足りない。これも努力が足りないのだ。受け入れる側もより覚悟が必要で、言われたからやるではなく、自分でやろうなのである。
 補修材料や計測機器のほとんどは、海外製である。この辺、皆さん理解されてますか? 海外製が悪いのではない、理解してリスクを超えて納得して使っているか? ということである。提案するコンサルさん、どこまで責任とれる? 瑕疵担保、何年まで補償できますか? 協議時に説明できてますか?

 残り5カ月半……!! ←これ、なんで書いているか? 真意は理解されまい!
(2019年10月16日掲載。次回は2019年11月中旬に掲載予定です)

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