道路構造物ジャーナルNET

㊼新技術の導入

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.10.16

1. はじめに 

 本年度も半分終わりました。しかし今日現在、まだ暑いです。
 最近、「新技術の導入」と「技術者教育」に関するヒアリングや相談に来る方が多い。それだけ困っているのだろう。私は研究者でもないし、教育の専門家ではないので、正解値は答えられないが、その難しさはわかっている。これらは、「実際にできてなんぼ」なのだが、机上論や評論を語る方々は多いが、実行者は少ない。

 これらは反対者が多い中で、手探りで「事業をどう実行していくか?」と似ている。というか、世の中の課題はすべてここなのである。ここで必要なのが戦略であり、これを考えるのが、参謀(軍師)の仕事である。これを行うのは研究者でも評論家でもない。「実行者」である。本来私は、そういうことがやりたいのであるが……。

 今回は、「新技術導入は?」(何度も書いてはいるが、この質問が多いのはなぜか?)について、である。第2ステージにあたり一番の課題である。そして、なぜできないのか?

2. 新技術等に関する現状

 新規技術の公共事業適用に関しては、地方自治体にとって非常に難しい課題であると思う。発注者は、先例のあることを守りたがり、冒険を犯そうという者は、ほとんどいない(特に自治体は)。逆に、先例さえあれば、さほど有効でなくても、いつまでも適用し続ける。1例目と2例目では大きく労力の差がある。

 先日、「i-Constructionフォーラム」を富山で開催した。この時感じたのが、「決められたことをやりたがるのが役所で、新たなことは苦手なのも役所」ということ。「i-Con」にしても、できる方法を聞きたがるが、逆で「どうしたら使えるか? どうしたら役に立つか?」「どういう場面で使えるか?」と思わない限り進展はない。御膳立てされてやりましょうではなくて、御膳から準備しないとなかなか難しい。

 最近、維持管理が話題となっているので、調査技術や補修材料、補修工法に関して、さまざまな業者が持ち込んでくる。個人的には、新技術を積極的に導入し、有効に活用し、コストダウンや耐久性の向上等――「持続可能な富山市」に寄与できるものであれば、積極採用していこうと考えている。ただし、ある程度の担保が必要である。そんな中で、現在、私がとっている確認手段は以下の3点である。
 ①技術認証の確認 →これは、役所は税金を使っているのでするべき!
 その技術が、認証されているか? できれば、「技術審査証明」程度。これがなければ、土木学会や、NEXCOさんの認証等があればOK。NETISのみについては認めない。
 しかし、まず「技術審査証明制度」が認識されていない。これに関する知識のない方が、ほとんど。NETISに関しては、業者側から「国の認証を取りました」という説明がしばしばあるので「技術審査証明ですか?」と言うと、「NETIS」だという答えがほとんど。「NETISは認証ではありませんよ」と言うと、ポカンとしている。
 できれば、技術審査証明を取得していて、マニュアル等の整備がキチンとされていて、問い合わせ等責任の所在が明確なこと。担当者が、後に困るのは、その技術の信頼性である。後になってから、何もないと、仮に会計検査等で指摘された場合にかなり難航する。何らかの担保が必要である。

 ②フィールドは用意するが、やってみる気はあるか? →この問いかけに答えるだけの根性があるか?
 開発者のやる気を確認するうえでも、こう言ってみる。さらに、「金額は合わないかもしれないし、試験施工ということで出ないかもしれない。それでも、やってみるか?」
 ここまで言うと、ほとんどの業者は帰って行く。金儲け主義ではないか? 挑戦心があるか? ――を確認している。あわよくば、お金だけほしいという業者が多い。さらには、挑戦心があれば、失敗しても、困難な現場でもなんとか実施できる。
 時代のキーワードに乗っかれば、金儲けができるという業者が多いので、それを篩い分けるわけである。ほとんどは逃げる。昨年度は1社、今年度も1社のみである。私は、その会社の覚悟を見ている。覚悟があれば、トラブルが起こっても対処してくれる。
 飴として与えるのは、「うまく行ったら、富山市で実績がある」と言って良いということ。「実績や施工結果を学会や技術雑誌に発表しても良い」とも言っている。
 しかし、ここがどうも民間の方はわかっていない。大学やコンサルに相談しているのと同等だと感じるらしい。まあ、理解できない方々はそれでよい。



富山市での事例

 ③確認内容は →課題ごとに違う
 新技術導入における確認内容は以下の通りだ。
 ・マニュアル(明確な考え方の根拠)を整備しているかどうか。その中身が充実しているか。
 ・実証実験結果技術を自分たちで実証実験しているか、また大学やコンサルタントとの実績があるか。
 ・論文等の公表事例がありきちんとした査読を受けているか? 単なる研究の域を脱しているか否か?
 ・体制が構築されているか、できれば、協会的な複数の団体の研究機関があれば尚よい。
 ・問題発生時の対応体制は、会計検査院の指摘事項発生時の説明の可能性は。
 ・コストが明快であること
 ・「特許」の有無。但し「特許」に関しては勘違いしている者が多い。結論から言うと、公共事業にはそぐわない。競争性や公平性が保てなくなる。公共事業で使われる特許は、もろ刃の剣である。これを理解して使用する必要がある。

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