3.更新のマネジメント
これまで、「更新」、いわゆる「作り変え」は、機能の不備(たとえば、歩道や幅員の不足や、河川改修など)によって、実施される場合が多かった。これが結局、老朽化対策になっていて、負債が見えずらかった。しかし、「長寿命化で100年持たせろ。耐震補強をしろ」という時代になってくると、管理する側としては、大変なことになってくる。当初の設計思想がだめな場合もある。
基準が満たされていないもの。さらには施工が不備なもの。これを、どうしろと言うのか? 上部工は未だわかりやすい。しかし、下部工や基礎工はそうは行かない、検証すら十分に出来ない。それで、耐震補強をしろという無茶振りがあるが、金に糸目をつけないならイザ知らず、また、上辺だけの検討になっていくから、私は嫌なのである。常時ですら健全で無い物を、耐震補強する意味があるのか?まあ、うまく補強すればそれなりの効果はあるであろうが・・・・。ここで気になるのが、やたら付けられる移動制限装置のコンクリートの塊である。狭い沓座に付けられるので桁端が良く見れない。
いくら「長寿命化」と言っても、いずれ「架け替え」は必ず発生する。この辺を、きちんと対処できなければ、問題を先送りし、未来の納税者に負担を押し付けているだけである。下手をすると、架け替え橋梁が重複し、予算が膨大に膨らむ。そして、何も出来なくなる状況が出てくることになる。それは避けなければならない。現在、その予算のピークが何処に来るのかをシュミュレーションし、実現可能な時期にずらしていく検討もしている。其れが、「橋梁トリアージ」と「架け替えのマネジメント」である。我々は、今、新規建設時代と異なり、維持管理の時代に居るので、1橋1橋の議論をしているのでは無い。複数の、我が市の場合は約2,200橋のことを考えなければならない。1橋1橋のひび割れを拾って満足している場合ではない。
富山市が管理する橋梁の現状
小規模橋への対応/更新マネジメントの必要性
かつて高度成長期にも同じような状態があった。多数のインフラを同時に構築しなければならない時代である。予算も当然限られていた。このときどう対処してきたのか? どう、工夫してきたのか? である。このとき有効に活用されたのが「標準設計」である。まあ、これと同じことをやれと言うのではない。工夫をしなければということである。
4.そんな中での取り組み
最近、皆さん心配してくれる(?)ので、私の富山市での取り組みを、少し書いてみる。いつまでも、ここにいるわけでは無いし、正直、引き際を考えている。居ても、役に立たないようであるし、職員などからは必要とはされていないようである。前述したように、職員の教育や技術の伝承というものは簡単には出来ない。いくら時間を掛けても出来るものでも無い。私のようなものがそれをするのもおこがましい。しかし、何かやらねばならないので、実はいろいろ考えた。平行してやったものもあるが、基本は赴任前から考えていたことである。順番に上げてみると
① 地元コンサルの実態の把握
② コンサルへの能力別発注
③ 職員技術研修「植野塾」
④ 組織の改変(構想⇒実施)
⑤ 富山市橋梁マネジメント基本計画の策定
⑥ 橋梁トリアージ思想
⑦ セカンドオピニオン制度
⑧ 架け替えのマンジメント
⑨ 官学連携体制の確保
⑩ 試験フィールドの積極提供
⑪ 官民連携体制の検討
等である。
さらに、今後やりたいのは、
A. 伸縮継ぎ手など付属物の標準化
B. 新設時の構造標準化
C. 補修工法の評価と標準工法
D. 包括的維持管理制度の検討と実行
E. 研究機関と民間企業との3者連携
F. 自治体間の広域連携、インフラ監理姉妹都市
等である。
これらの、各事項の考えと説明は次回以降していくことにする。最近、コンサルさんが、私のような役割に期待していると聞く。つまり、自治体に人間を送り込もうという考えだ。
しかし、それには、大きな障壁が2つある。
① 自治体側の壁
② 人の壁
③ 行く側の壁
これも説明するのが難しい。実際にやった物でなければわからないであろう。
参考までに、よく聞かれる質問の中で、「実際に役に立っている経歴は何か?」というものである。おそらく、これを聞く側の方は「コンサル」とか「橋梁メーカー」と言う答えを期待していると思うが、残念ながらそうでは無い。私は、もともと一般的な業務のほかに、特殊業務をやってきた。しかし、それよりも何よりも「人脈」である。人脈こそが一番役に立つ。ありがたいことです。(合掌)
5.まとめ
最近、各方面から「職員教育」や「技術者教育」の相談を受けることが多い。其れは、やはり皆さん悩んでいるからだと思う。わたしは、ここ富山市の職員には、「考えられる」「マネジメントできる」者を目指してもらおうと考えている。そして、合わせて、自己実現が出来ればよい。自分で考えられれば、私が去った後も考えて事に当たってくれるだろうと言う考えであるが、そういう職員がどれだけいるか? と言うと、数人だろう。
いつしか、技術に関わる人間が、安易になってしまった。とことんつきつめるというのがない。まず、疑問に思わない。何で壊れたのか?何が問題なのか?考えない「老朽化」という事で済ましてしまう。ここでも設計の不備?施工の不備?管理の不備?と言う問題があると思うが、ここで管理の不備と言うのはたやすいが、そもそもの原因を理解しなければ、今後の管理もおぼつかない。そして一番残念なのは、解析や実験をして分析してみるという考えが、まったく無いことだ。研究者の領域でもあるが、研究者の方々に連携を求めるのも重要である。
コンピュータが発達し、ソフトが充実しているにもかかわらず、解析による検証という事が行われない。わたしは、上司から、「示方書に合致しないものや、特殊な物は、構造解析をキチントやって論理的に武装しておけ。」と教えられた。そのためには、構造系のモデリングや解析手法の検討も必要になる。これが、今無い。「復元設計」と言いつつ、設計用のソフトを流し直しているだけの検討も、私は気になる。其の話をすると、キョトンとしている。「もっと、突き詰めろよ!」と本心は言いたいが、どうせやられない。
今回の豪雨のような状況になれば、橋梁は非常に弱い。横からの力には弱いし、河床の洗掘があれば倒壊の危険もある。では点検の時にそこまで見ているかというと疑わしい。もともと、フーチングや基礎の根入れ深さに、私は疑念を持っている。それが現在の、点検マニュアルでは実施されない可能性がある。橋梁を構造物として考えるのか、コンクリートや鋼として考えるのかの違いである。
橋梁点検を実施しても、現在のように、「ひびわれ」中心の考え方では、大きな課題はなかなか見つけられないだろう、もっと俯瞰的に、橋梁全体をみて見えない部分にも木を使うことをしなければ結局は、ブロック塀の問題と同じである。さらに技術の検証には、解析と実験が基本であると思う。これを十分に出来ないで、答えを求めるのは危険である。現在の、長寿命化のやり方ではおそらくそういうものはいらないのだろう。検証も十分せずに、点検で、一生懸命拾った、ひび割れを補修して満足している。果たして10年後どうなるのだろうか?
(2018年7月16日掲載、次回は8月16日ごろ掲載予定です)