道路構造物ジャーナルNET

㉜負の遺産

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.07.16

1.はじめに

 先日の大阪地震そして、西日本豪雨では、大変な状況であったと思います。お悔やみ申し上げます。富山でも、連日雨が降り続き、職員は夜も待機状態でした。災害が続くと、職員の負担も大きく、悲壮感が漂い疲弊していくのが分かります。私は、地理が完璧では無いので、改めて役に立たないなと感じました。

 6月議会も終わった。今回は私に関係する質問は、「職員教育の問題」であった。これまで「植野塾」を毎月1回のペースで4年間、「3監塾」と言う形で、4回実施してきた。職員の教育は本当に難しい。皆さん口では、いろいろ言うが、相手が子供ではないために、難解である。様々なことに興味を持ち、積極的に学ぼうとする者も居れば、「自分は何でも知っている」と、何もしない者も居る。人それぞれ目指す道があるのでしかたがない。私が目指したのは「実務家」である。官庁の人間も実務家であるべきだ。市民・国民のために事業を実行していく実務家であり、実行できなければ事業は止まる。
 先日、事務系の職員(企画系、係長クラス)と話した際に、この職員が言っていた、「最近仕事柄、民間の業者とも打合せをするようになって感じているが、行政としてどういう人が頼りたいか? 頼りになるか? と言うのが見えてきた。机上論の人ではなく、実務家、実際に経験を積んでいる人間の重みが良くわかってきた。」と言っていた。これが、正解である。行政は実際に実行に移す機関である。だから、実行できてなんぼなのである。

2.負の遺産

 前回、負の遺産に関してあげてみた。当然、反発している方々も多いだろう。しかし、現実なのである。「うちは無い」と言うところは、「うらやましい」と言うしかない。市では、自分達の構築したものの他に、国や県から移管されてくるものがある。つまり、国や県が昔、構築したものを市に管理移管してくる。これがまた問題である。正直、私が見る限り、「おどろくべき」と言う物もある。まあ、立場上これ以上は語るのは、止めよう・・・。
 「負の遺産」とは何なのか?私が言いたいのは、建設当時からの、「設計の不備」「施工の不備」そして「管理不備」である。これが、本当の意味での「不備」ならば許せるが、「手抜き」や「理解不足」(優しく言ってます)が存在する。そして、役所の監督の不備があるので、現在、「老朽化」と言う言葉で、済んでしまっているものが、実は数十年前の建設当初から不都合なものではと疑いたくなる物が、大量にある。
 今回の大阪の地震で、ブロック塀が倒れた。様々なことが言われているが、私は、行政の弱点が露呈した気がする。これは、真摯に反省すべきだ。今後、刑事や民事の訴訟問題になる可能性があると思われるので、多くは語らない。おそらく言っても伝わらないだろうし、受け入れられないだろう。
 しかし、確実に時代は変わって来ているので、旧態依然のやり方では、自分達の身が危ない。韓国で仕事をしていた時に、橋梁などの事故があり、市民が亡くなると、設計者と施工者、管理者の3人は逮捕され、まずはTVなどで、さらされ人命が失われていれば、判決は「死刑」と成る。そのくらいの責任と厳しさが必要なのではないだろうか?ただし、死刑は大げさだが。それくらいの重みのあることなのである。そうなれば、分かったふりのいい加減な判断も出来ないだろう。


老朽化対策のイメージ

 結構、常識外なことが平気でやられている。一番問題だと思うのは、技術的素養の無い方が判断して決めていることである。これは、重要なので言っておきたいが、事務屋も技術屋と言われる人たちでも、物を見たときにどう感じられるか?という事が重要なのである。何も感じられない方々は、決めてはいけない。感性が必要なのだ。今回の件、「一級建築士が見れば分かる」と言う人も居るが、本当ならば、感心する。ブロックの中身の鉄筋量や配筋、フックの状態や重ね継ぎ手、モルタルの充填具合は透視能力が無い限り既存の物は見えない。つまり、非破壊検査機器をうまく使って診るしかない。目視や打診の限界なのである。正確な判断をどうするか? こういった、判断をするのが本来の役所の仕事であると思う。総合的に判断する能力が求められており、これこそが重要なのだが、実際はそういう人間は少ない。


老朽化と長寿命化、耐震化のイメージ

 ここでも、言われているのが「専門家」である。ちゃんとした人間ならば其れはそれで、きちんと判断してくれるであろう。しかし、どうであろうか? 既存の構造物を判断していく上で、検証方法をどうするか? と言うのが重要なポイントと成る。これが、しっかり出来ないものにやらせれば、結果は昔と一緒である。そして最終的に判断する人間の「認識」が甘ければ、何をやっても一緒である。私が、一番、違和感を感じるのが、分かっていない役所の担当が、分かっていない業者と協議し、シラーット、決めていることである。どちらかが、わかっていればまだ良いのだが、恐ろしい世界である。

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