道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉙愛着のある橋が『世界遺産』になること

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2017.09.01

3.『フォース道路橋』と『クイーンズフェリー・クロッシング』

 私の好きな『フォース橋』の湾内側に架かる道路橋が『Forth Road Bridge・フォース道路橋』と、フォース道路橋の代替として8月30日に一時開通する、内陸側に架かるのが『Queensferry Crossing・クイーンズフェリー・クロッシング』だ(写真-12参照)。

『フォース道路橋』は、橋長が1.5マイル(2.5㎞)、中央主径間が3,300フィート(1,006m)の鋼製吊り橋で、今から53年前の1964年に供用開始した長大橋である。供用を開始した当時の交通量が400万台/年から、現在は6倍の2,400万台/年(65,000台/日)と増加している。『フォース道路橋』の主要な変状は、主ケーブルの腐食と公表しているが、これまた国内外で良く聞く話である。私個人として言いたい。吊ケーブルの防食対策、ケーブル入れ替え工事、十分可能でしょう、あなた方の友人、アメリカの技術者に教えてもらいなさい。

 架け替え理由として、現行基準への不適合や鋼床版の疲労や伸縮装置の破損等も加えてはいるが、要するに『フォース道路橋』のメンテナンスには手が掛かりすぎて、安全性確保を保証できないと言いたいのだ。確かに『フォース道路橋』を走行すると、路面の荒れ(表面に薄層舗装したデッキの継手等)は気にはなる(写真-13参照)。
 詳細は、公開されている資料や論文等を調べてもらいたいし、機会があればまた話題としよう。このような理由をつけて、『フォース道路橋』の湾内側に3本目の『クイーンズフェリー・クロッシング』が建設されることになった。
『クイーンズフェリー・クロッシング』建設の理由は、先にも示した理由以外に、リハビリテーションへの多大な投資と確実なメンテナンスを行ってきたにも関わらず、『フォース道路橋』の変状は悪化の一途をたどり、手に負えない状態に近づきつつあると公開警告したことにもある。
 特に、『フォース道路橋』の代替橋の建設を正当化するためなのか、主ケーブルの強度が腐食によって8~10%低下し、大動脈幹線の交通規制を伴う大規模改修が必要になるとも言っている。まるで、どこかの国と同様だ。このような議論を重ねた末(?)、2007年に『クイーンズフェリー・クロッシング』の建設を公表した。新たに建設した『クイーンズフェリー・クロッシング』の諸元は、橋長が1.7マイル(2.7㎞)、679フィート(207m)の主塔が3箇所にある耐風設計、耐久性向上の重視を目標とする最先端の技術を凝縮した(?)斜張橋で、メンテナンス等にも十分配慮されているとのことであった。

 何となく感づかれた読者の方もいると思うが、当然のごとく吊ケーブル等にはモニタリングシステムが組み込まれている。工事費は、なんと13億2,500万~13億5,000万ポンド(約1,902億円)と高額だ。
 写真-14を見て、供用中の吊り橋・高速道路M90および歩行者も渡れる『フォース道路橋』と並行に走るM90専用道路橋『クイーンズフェリー・クロッシング』の姿は美しいと言えるのだろうか? 北海側からフォース湾を進むと、第一に偉大な赤色の建造物『フォース橋』が映り、それを超えると近代的な鋼製吊り橋『フォース道路橋』で良かったのではないか。輻輳する近接道路橋2橋が美しいスコットランド・フォース湾の景観を台無しにしているような気がしてならない。人間の欲望、技術者の欲望は、自然が形作った美しい景観を奪ってしまっている、残念だと感じた。今回の訪問は、私個人の心の中で、大いに悔いを残す3度目の『フォース橋』訪問であった。
 北海の潮風を受け、130年近く現役として供用しても、技術者魂によって十分な耐久性と使用性を確保し続ける愛着のある『フォース橋』と、通過車両の予想を超える増大等の理由から僅か53年で現役道路橋としての使命を終え、歩行者・自転車、一般道路としての供用をメインとする道路橋に格下げになるとは、技術の伝承国・イギリスとして情けない。イギリス人が愛して尊敬する、かの偉大な技術者『ブルネル』に笑われると私は思う。

 私が読者の皆さんに今回示し掲載した内容の一部を読まれて、国内の技術者や管理者が私の本旨を理解せずに、イギリスも同じではないかと解釈し、安易に構造物を更新する考え方が正論とならないように。
 これだけは声を大にして言いたい、「駄目ですよ、人間の欲望で貴重な遺産を摘んでしまっては!!」と。
 今回、私がスコットランドに行ったのは『フォース橋』の今を見たかったからではあるが、供用開始直前の『クイーンズフェリー・クロッシング』を見ることができたのはラッキーであった。主塔3本が聳える新たな斜張橋のネーミングは、7カ月に渡る公募によって『クイーンズフェリー・クロッシング』と決まった。イギリス、特にスコットランド人の多くは、行政の考え方が分かっていて今回の新橋に『フォース』は使いたくなかったのではなかろうか。
 私が好まない『クイーンズフェリー・クロッシング』の供用は、本文が公開される2日前の8月30日、31日の2日間のみ行い、9月に入ると9月1日から6日までの6日間は開通式典開催のために再度『フォース道路橋』に交通流を戻す。
 そして、9月7日(木曜日)から本供用(速度制限)を開始、10月末には、高速道路として速度制限なしとするとのことである。日本とは考え方が違うのか、仮供用後に開通式典を行うとは。その理由を聞くことはできない。私の推測では、供用開始が建設中の事故で遅れたための措置か、それとも式典に参加するメインゲスト、エリザベス女王他の都合か、2日間供用した後再閉鎖するとはスコットランドとは面白い国だ。

 イギリス国民が歩いて『クイーンズフェリー・クロッシング』を楽しむ機会は、9月2日、3日の2日間が予定されていて、参加者5万人が決まっているそうだ。写真-15は、M90をエンジンバラ側からDunfermline(ダンファームリン)、ダンディ側に進む『フォース道路橋』の進入区域であるが、走行速度が70マイルから急速に50マイル、40マイルと速度制限がかっかたことで、開通直前の『クイーンズフェリー・クロッシング』工事エリアをしっかり視認できたことは幸いであった。

 本文の最後に、私が俗人である一面を紹介して終わりとしよう。今回も私は、『フォース橋』斜め下にある何時も訪れるレストランで、豊かな香りがしそうな写真-16の『ムール貝のワイン蒸し』を食べながらワインを飲み、感動的なフォース湾に広がる景色を楽しんだ。これは、訪れた3度とも同じで、素晴らしい憩いのひと時を過ごしたのだ。
 余談となるが、その際、ワインの酔いに手伝ってもらって、右側に美しい『フォース橋』、左側に『フォース道路橋』と『クイーンズフェリー・クロッシング』を見て、これらを一体的に感じられる絵が撮れないものかと工夫したのが写真-17である。カンチレバーの主塔、吊り橋の主塔、そして斜張橋の主塔が並んで見える、私の力作、面白いマニアックな空間形成を楽しんでもらいたい。

 私はここで敢えて言いたい。読者の方々も、是非、膏薬が貼られていない美しい『フォース橋』を、私がくつろいだレストランで食事をするか、フォース湾内を巡り歩くフェリーから楽しんでもらいたい。そして、もし機会があれば、写真-18に示す今年の10月15日(日曜日)に開催される『フォース橋』イベントに参加され、『フォース橋』メモリアル設立の募金参加をと。今ならまだ間に合う、私の愛する『フォース橋』に。(次回は10月1日に掲載予定です)

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