道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉙愛着のある橋が『世界遺産』になること

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎 氏

公開日:2017.09.01

2.フォース橋のメンテナンス

 今でも1日約200両の車両が通過(写真‐5参照)する『フォース橋』のメンテナンスは、先の『テイブリッジ』と同様に多くの技術者に見守られて大切に種々な措置がなされている。
 『フォース橋』が鋼橋であることから、代表的な変状は腐食と疲労であろう。『フォース橋』に関連する資料を調べてみても疲労に関連する報告がないことから、やはり、飛来塩分による腐食との戦いが『フォース橋』メンテナンスのキーポイントだ。1990年代に行ってきた塗装の塗り直し作業の結果は好ましい状態ではなかったようで、フォース湾の北海から吹き付ける潮風など劣悪な腐食環境下で『フォース橋』の鋼部材には、性能を失った死膜、はく離した塗膜と著しい腐食が目立ち、危機的な状況となった。
 そこで、2001年に、ことわざ『Painting the Forth Bridge』にも例えられる終わりのない悪名高き塗装作業に終止符を打つ目的で、米国・フロリダ州のディズニーワールド・シンデレラ城やテキサススタジアム建設プロジェクト等で有名な『Balfour Beatty Construction(バルフォービーティー建設/親会社は英国・ロンドンのBalfour Beatty)』と事業契約を締結、新たな耐久性向上事業に着手した。

 事業開始段階の作業は、やはり確実な点検や診断に必要なアプローチの整備であり、そのために主部材に点検用の冶具を設置、建設当初の状態に戻す作業を、『フォース橋』を通過する列車を規制することなく復元作業を行ったと聞いている。次に、古い塗膜のはく離作業と新たな耐食性に優れた塗料の塗布作業となる。
 まずは、古い塗膜や錆を完全に落とし、初期の鋼材面を露出させる素地調整作業に、ブラスト工法が用いられた。ブラスト作業は、時間最大20tもの不良塗膜、錆を含んだ研削材の処理を、北海油田で実証済みの真空換気装置を使って安全・確実に処理を行ったようだ。以上のことから分かるように、鋼材の完璧な被覆・防食に関して、イギリスの技術者も素地調整に重要なポイントを置いていることが明らかとなった。
 不良な部分を完全除去した鋼肌には、3層塗りの塗装、第一に高強度なガラスフレーク入りのエポキシ塗料を塗布する作業となる。完璧な防食塗膜を作るには、より注意深い作業が求められ、例えば、650万あるリベットの頭や鋼部材との接触面などを対象に、塗布作業を緻密に、そして根気よく丁寧に行ったということが学ぶべき重要事項だ。このような、通常では過大とも考えられる施工管理を関係技術者が行い、正しい下塗り塗膜が得られた状態を確認した後、高性能な上塗り、それも1890年竣工当時から『フォース橋の赤色』として愛されている色彩の復元を目的に、特別に製造された塗料を全面に塗布している。
 ここに示す複雑で手間のかかる塗り替え工事は、53,000イギリスガロン(240,000リットル)の塗料を投入、現地で塗布され、2011年12月に『フォース橋』本橋部の作業を終えた。私も『フォース橋』に行くたびに、写真‐6に示すような膏薬だらけの外観を見て、終わりのない塗り替え作業を永遠と続けているのかとがっかりして帰国していたが、実は違っていた。彼らも腐食との戦いに終止符を打つ新たな手を、それも米国企業の手を借りて行っていたとのことだ。これで、写真‐7でお分かりのように美しい無傷の『フォース橋』をしばらくは見ることが可能だ。新たな塗り替え作業で得られた塗膜の耐久性は、概ね20年から25年とのことであることから、2030年代の半ばにはまた新たな防食作業、塗り替え作業を行う可能性は高い。

 世界遺産『フォース橋』のメンテナンスがこれで終わったわけではない。それではどのような作業を行っているのかと言うと、当然、先に示した点検足場を使った点検・診断および必要な措置を写真‐8に示すダルメニー駅側進入高架橋に設置してある登り階段を起点に行っている。現在は、『フォース橋』から進入高架橋に重点を移して種々な作業を行っているようだが、写真-9に示すように取付部の格点を含む補修を作業員(写真‐10参照)が行き来しながら連日行っている。ここでも、先に示したテイブリッジと同様な、日々構造物を注意深く見守る『橋守』精神が感じられる。

 今回示したような弛まないメンテナンスの積み重ねが、多くの人々が感動を受け、未来永劫守らなければならない建造物と認めるのだ。コツコツ積み上げ、努力した結果は必ず評価される。
 技術者の不断の努力が実り、その成果として、1985年8月27日に『 International Historic Civil Engineering Landmark 』として認定を受け(写真-11参照)、その30年後に橋単独としては数少ない貴重な世界遺産となったのだから素晴らしい。やはりここでも『ローマは一日にしてならず』なのだ。皆さん理解できますか? イギリス人、スッコトランド人魂と関係する技術者のプライドが。

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