道路構造物ジャーナルNET

㉑「標準設計」

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2017.08.16

3.標準設計を例としたインハウスエンジニアのあるべき姿

 道路橋示方書や基準、指針、手引きなどの公的な基準類は、我々のバイブルでもある。私の若い時は、電車の中での愛読書は道路橋示方書であったが、最近そういう光景は目にしない。しかし、この示方書だけで実際に橋を設計しろといわれても無理である。過去の事例などを参考に設計していたわけだが、より効率化のために造られたのが標準設計であるが、1990年代からか、市販の設計専用ソフトが盛んに使われだした。一時期、「標準設計は技術力の低下を招く」と言われてきたがそうではなく、ソフトの普及による、考えない技術者、示方書を十分理解できていない技術者の増加が、技術力の低下を招いていることを理解しなければならない。ここで、皆さん意外と区別が付いていないのが、「建設省の自動設計」と「市販のソフト」である。後者は、皆さん良くご存知のF社やS社、Y社、K社などから出ている物で、多く利用はされているが民間の物である。これとは別に「建設省の自動設計」というものがあった。これも「使えない。使い辛い。制限がある・・・」ということで、標準設計同様に廃止されてしまったが、元々は標準設計を作成するために造られ、機能を多少高めた物である。


標準設計の役割

(1)標準設計の利用法
 そもそも標準設計は、業務の効率化と、コスト縮減、ミス防止などの目的のほか、示方書を補完するために作られた物である。そもそも、そのまま使用するのは考えていない。適用範囲が明確にされているので、適用範囲内で如何に有効に使うか? が大事なはずであったが、使う側がそうはしなかった。これは致命的であり、標準設計よりも使う側の技量が低かった。それでも、高度成長期には盛んに使用されて、毎年利用に関する講習会なども全国主要都市で開催された。
 標準設計を作成するのは、非常に労力が必要である。1工種で数万ケースに上る試設計を実施して、最適解を導き図集にしていくのであるが、技術者としては面白みの無い仕事である。しかし、全国の仲間が活用してくれることを期待して作成した。そして、阪神大震災後、示方書の改定に伴い、改定しようと予算を確保して作業に入った段階で、「ストップ」がかかった。建コン協からの標準設計は「画一的設計になる。そのまま使えない。コストが上がってしまう。付属物が出来ていない。」等の意見があがり、改定は中止した。しかし、これは、標準設計を理解していない者の意見である。先進国でも標準設計は存在するのだ。


標準化の基本的考え方

(2)設計者の技量
 設計と言う行為を考えると、なかなか作業内容をパターン化するのは困難であると思われがちであるが、先進国を見ても、自動車や他の業種の設計行為をみても、標準化はひとつのプロセスとして重要である。
 標準設計はツールであるのに、其の使用法が誤っていたのである。
 設計者の技量は、「工夫が出来るかできないか」であると考える。つまり、自分に与えられた課題に対し、如何に工夫を施せるかが楽しいところであるが、なかなか出来る技術者は現在少なくなってしまった。
 大規模プロジェクトは脚光を浴びるが、そんな物に関われるのは一握りの人間であり、最近ではめったに無い。私達が社会に出たころは本州四国連絡橋の施工の真っ盛りであったから関わることができた。通常の道路にかかる橋梁でさほど難易度の高い物はないので標準設計が有効になってくるわけだ。

4.標準設計そのもの

 (1)その思想
 前述したように、標準設計は条件設定を行い各々に関し、試設計を十分に行いパーターン化していく。それを、まとめた物が標準設計である。標準設計は、決して画一化されたものではない。なかなかこれを理解できる方は少ない。システム開発に携わった方が居れば理解できると思うが、さまざまなケースを分析し、其の中から最適解を求めていく地道な作業である。決して一気に決めているわけではない。建設省制定の標準設計では、標準化という思想はもちろん、「最適化」という設計思想が導入されている。最近、この最適化、最適設計と言う言葉自体聞かなくなってしまった。これに加え、施工性や維持管理性も検証した結果が反映されている。


標準設計システムの開発の背景と影響

 たとえば設計者の皆さんは、現在、設計を行うのにどれだけ、最適解を求める努力をしているだろうか?
 たとえば橋梁の設計時に、さまざまな細部構造をどうするか? たとえば、吊り足場用の金具や、支承を、どうしているだろうか? 1個1個考えて作っているのだろうか? ここでも標準化がなされている。
 標準化を否定する気持ちは理解できる。しかし、少なくともその思想は生かすべきである。今後、技術者不足が懸念されているが、そうなってくると、ますます、1つの物を造る時の明確な思想が重要である。集約化⇒最適化⇒標準化⇒自動化⇒ロボット化というのが、自動化プロセスである。これが我々の世界でも今後必要になってくる。
 結局何が言いたいかというと「標準設計はツール」であったのだ。そのツールをうまく使いこなせなかったので、「使い物にならない」という理由で廃止してしまったのは残念である。市販の設計ソフトを使っていてもおそらくそういうことになるのだろうが、何らかの答えが出てきてくれるので便利である。「馬鹿とはさみは使いよう」と言う言葉が有るが、ツールは道具なので使いようなのである。標準設計が使われなくなった真の理由は、標準設計を使った場合の設計フィーは、一件設計の場合の80%であるところにあると思う。ツールは多いほうが有利なのだ。選択肢が広がる。

(2)設計成果のチェックシステム
 たとえば標準設計を設計の照査に利用すると言う使い方も出来たはず。これも、発想が必要であるが。実は、かつて建設省の各自治体の代表を集めた、「道路整備検討会」という委員会があった、分科会でさまざまなマニュアルなどを作成し自治体のマニュアルを統一できるようにしようと言う動きが中心であったが、その中で、「設計成果のチェックシステム」というものを作成し全国の全自治体(市町村まで)に配布した。これは、会計検査対応のため、事前のチェックのためのものであった。この中身は標準設計がベースになっていた。なぜか? 設計の妥当性のチェックを行うのが目的なので、単位数量をチェックし、大きなミスが無いようにするものであった。しかし、これも不評であった。しばらくの間、質問コーナーを担当していたが、「プログラムが動かない。エラーになる」と言う質問が多かったが、何のことは無いほとんどが入力ミスであった。このときも、自分で入力ミスしているのに、「使い物にならん」と言う評価であった。実は、これは会計検査院にも説明してある代物であった。もちろん標準設計自体も会計検査院には説明してあった。この辺の理解も無く、民間のソフトと同じように考えられる方が多かった。


標準設計の本来の活用法

 結局そういった人たちが民間のソフトを使ったにしろ、入力ミスは多発する。かつてシステム開発の部署に居た時に感じたのはシステムを使いこなす人間と言うのは限られた人間だと言うこと。以外と使えない人間が多い。ソフトを造るヒト、動かすヒト、否定するヒト、ここにも沢山のヒトがいる。使えているつもりでやっていることが多い。

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