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鋼橋を健全に保つために

-効率的な防食サイクルの確保に向けて-

公益財団法人 東京都道路整備保全公社
一般財団法人 首都高速道路技術センター

髙木 千太郎

公開日:2015.02.02

 橋を隅から隅まで注意深く調査することが必要
 専門技術者がその業務にあたることが必要不可欠

 橋の効率的な防食サイクルの確保に向けて
 防食機能の劣化や鋼部材の腐食を引き起こす要因としては、飛来塩分、凍結防止剤散布などの橋の置かれている地域の大気環境要因、腐食環境を助長する漏水・滞水を起しやすい構造的な要因、および選定された防食法の不適合などである。防食上問題を起している橋を観察すると、ここにあげた種々な要因が複合して腐食損傷を招いており、橋の置かれている位置や部材、詳細構造によって先に示した要因の損傷への影響程度に差異が生じている。個別の橋に発生している腐食に関する損傷を適切に捉え、評価するには、橋を隅から隅まで注意深く調査することが必要である。写真-3は建設後十数年点検したことの無い供用中の箱桁内部の状況である。それには、橋の材料と構造、腐食要因と腐食対策を理解した専門技術者がその業務にあたることが必要不可欠である。供用している橋に発生する防食機能の劣化は、先にあげた損傷要因の中で影響度が大きいものを特定し、その原因を工学的に分析することが必要である。


             写真-3 腐食が進行する箱桁添接部

 具体的には、気象条件や飛来塩分量、凍結防止剤散布量などの大気環境調査がこれにあたる。大気環境調査などを効率的に行うには、対象となる橋の設計図書から滞水、水みち、湿気のこもりやすい部分を調査分析することが必要である。さらに、部材の表面に付着している腐食促進物質を採取・分析することで大気中に含まれる腐食因子を知ることが可能となる場合が多い。部材が腐食している場合は、さびを採取し、塩素イオン等の化学成分分析、機器分析や顕微鏡観察を行うことも効果的である。次に、腐食部材の評価方法である。部材の腐食程度と広がりで保有性能は大きく変わる。部材が全面に腐食した場合は、部材断面がほぼ均等に減少し、部材の耐力や剛性が低下することになる。床版の接触部分や排水装置の周辺など局部腐食が生じた場合は、腐食箇所に応力集中が起こることで強度低下を招く結果となる。また、写真-4のように腐食環境に置かれている部位が繰り返し応力を受ける状況となった場合は、腐食と疲労の相乗効果によって疲労強度は低下することになる。以上のことから、防食機能の劣化や腐食は、損傷程度を定量的に評価し、保有性能を腐食進行の将来予測、耐荷性能評価、限界板厚などの耐荷能力設定が必要である。


        写真-4 腐食環境で疲労亀裂に進展した箱桁内部

 性能の確認と新たな検討が必要
 供用後の維持管理が重要なポイント

 次に、防食に関する健全性診断の後行う適切な措置である。損傷した防食の措置方法の検討にあたっては、現行の防食法が当初想定した防食機能と耐久性を発揮できたかを確認するとともに、当初想定した防食機能や耐久性を十分に発揮できなかった場合には、損傷原因を解決する新たな防食法の選定や施工方法の検討に反映することが必要である。また、損傷した橋の構造的な要因で当初想定した防食機能や耐久性が十分発揮できなかったと判断した場合には、必要に応じて構造の改良を行うことことも検討するとよい。
 損傷に対する措置には、部分的な防食法を繰り返す部分対策と損傷個所を含めた全面を措置する全面対策がある。どちらが当該橋に適しているかは橋の使用目的、重要度や渡河環境、現在採用されている防食法等によって異なるため、その後の防食計画を適切に策定し、財政状況や住民の意識等を検討した上で最終決定することが必要である。ここに示すように、鋼橋の寿命を延ばすには、建設時の防食法選定、施工も重要であるが、やはり、供用を開始した後の維持管理がポイントである。建設時に策定した防食計画を基に、変化する周辺環境と点検診断結果を生かした当初計画の見直し、損傷部位や部材に対する素地調整を含む適切な施工、再選定された防食法及び施工の効果確認を行うことで効率的な防食サイクルの確立が可能となる。

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