道路構造物ジャーナルNET

土木分野におけるDX導入の必要性とその背景

土木研究所が進めていく『自律施工とは』 前田陽一技術推進本部長インタビュー 

国立研究開発法人土木研究所
つくば中央研究所
技術推進本部長

前田 陽一 氏

公開日:2022.02.28

基盤を支えるために必要なプログラミングという市場ができる
 自律施工の開発をスムーズに進めるためにノウハウが横展開しやすくする

 ――図で描かれているROS、MG/MCアプリとは
 前田 ICT建機における概念でMGはマシンガイダンス、MCはマシンコントロールの略です。ROS(ロボット・オペレーティング・システム)は、ロボット用に開発されているオープンソースのソフトウェアプラットフォームであり、ロボット分野におけるリナックスOSのようなものであるといえます。

土研プラットフォームの概要

 ――オープンプラットフォームであるOPERAの概要図を見ていますと、どこまでが協調領域でどこからが競争領域かがよくわからないのですが
 前田 施工コントローラーと自動制御コントローラー、自動制御コントローラーと油圧制御コントローラーの間における共通制御信号が協調領域で、それ以外は競争領域と考えています。また、ROSについては、必ず使いましょうと提唱している訳ではないです。みんながROSを使えば、その上のソースコードも共通化されますので、それに従い、様々なアプリも共用できるようになりますが、仮にROSではないミドルウェアを使いたいといえば使ってもらっても構いません。そこも競争領域であると考えています。


協調領域と競争領域

 ――昨年11月に行われた自律施工の公開デモンストレーションにおいて、その後に出席者から活発な質問がありましたが、具体的にはどのような議論があったのでしょうか
 前田 例えば、ベンダーさんからは、こうした基盤ができれば、その基盤を支えるために必要なプログラミングという市場ができる、この基盤ではプログラミングをどのように評価していくのですか、という質問がありました。
 それから比較的中小の建設会社や建機メーカーさんからは、大手だけでなく、自分たちも参画できるような環境になるか否かという質問がありました。それに対しては、こうしたプラットフォームを作ることで、自分たちでも自律施工を開発できますよ、と答えました。我々の考えを示した象徴的な応答といえます。

土木研究所内で行った自律施工のデモンストレーション

 ――今回の取り組みが一過性のもので終わらないのかという厳しい視点での質問もあったように聞きましたが
 前田 今回の自律施工に関しては、メーカーさんの中ではできれば覇権を握りたいという考えがある会社さんもあるのかな? と感じました。
 一方で建設機械を使うユーザーからは施工を行う立場からすると機械というのは選べるものであって欲しい、と話していました。
 自律施工を開発するにあたって、それぞれの立場による思惑は交錯しているように感じます。(自律施工のデモに)出席した関係各社もそうしたことをよく理解されていました。わかっているからこそ、厳しい質問が出たのであろうと考えています。
 開発の細目まで、決まっている状況ではありません。まずは導入のメリットを多くの方に理解してもらうことが大事です。その上で、どこまで共通化を図るのかを考えていくことが大事です。協調領域を拡大し過ぎて競争領域を少なくしては本末転倒です。あくまで自律施工の開発をスムーズに進めるためにノウハウが横展開しやすく、さらに現在の比較的シンプルな工種だけでなく、その他の多種多様な工種を取り入れて、一気通貫に採用し易くするということが目的です。
 その落ち着きどころについて、関係者と対話しながら、今後詰めていかなければなりません。11月に行ったデモは、そのプロトタイプを、見ていただくために実施したものです。

次の動作までのロスタイム
 熟練施工者のノウハウを取り入れる

 ――オペレーターの高齢化により熟練者が退場し、ルーキーがその穴を埋めることができず、工事で瑕疵や遅滞が生じることが少なからず出てきています。実際の現場では、熟練オペレーターでは考えられないような事故も起きています。これらは先ほど本部長が話されたオペレーターの質の低下の最たるものです。今回土研で行ったデモはいずれも無人のバックホウとダンプトラックを使い、掘って運び、下すものでしたが、実際の現場ではより高度な分野も自動化したいと考えているでしょう。例えば熊本地震での無人化施工は、高い評価を得ましたが、土研としては、どこまでの自律施工を考えておいでなのでしょうか
 前田 遠隔操作による無人化施工は自律施工とは少し違うと考えています。共通する部分は、遠隔にした途端に効率が落ちることです。オペレーターさんが建機に乗っていないと臨場感が損なわれるためです。効率低下の原因を究明していくということは、自律施工の機械の効率を向上させることにつながっていきます。例えば、今回の自律施工デモはかなりのんびりと動いていました。なぜのんびりかというと、バックホウで土を掻いた時に反動が起きますよね。

 ――そうですね
 前田 人間のようにこれくらいの反動なら大丈夫とジャッジしながら回していくのではないので、反動が一定程度収まるまで待つ必要があります。そのため次の動作までのロスタイムが生じてしまっていたのです。自律施工を進めていく時に熟練のオペレーターさんのノウハウを把握する、一種のナレッジマネジメントといえると思いますが、そういうことをやっていくという点では、無人化施工と共通するところがあると思います。熟練施工者のノウハウを取り入れることで自律施工の効率も上がっていくと思います。

 今回、デモを行いながら、並行して、各ゼネコンの研究所の方と対話をする機会がありました。現段階では機械を動かす制御プログラムを組むことに精力を注いでいますが、最後には自律施工を行う機械を上手に使うことで利益を上げなくてはなりません。
 それは機械をカスタマイズすることで実現できるものではなくて、最終的には、現場を当初の地形から(設計図に示された)出来形に仕上げて行くに当たってどのような機械をどのように入れていくか? という施工計画を上手に作って、できるだけ少ないコストにより短期間で求める出来形に仕上げていくか、その計画を上手く立てることで利益を上げていくことによるだろうし、そういう意味で自律施工に対応した施工計画技術のノウハウが一番大事になると考えます。
 そう考えていくと、今の自律施工というのは、まだ黎明期に近いですから、ダムや盛り土がメインターゲットになっているわけですが、それではあまり施工計画に差がつかないわけです。産業機械も少品種大量生産にまずは当てはめられましたが、現在は多品種少量生産にも適用されています。その際、どのようなことが起きたかというと、同一ラインに産業ロボットと人が混在するということが増えています。機械と人が混在する際に気を付けなくてはいけないことは「安全」です。事故を防ぐために産業ロボットと人が混在する時のガイドラインや基準が産機分野ではできており、多品種少量生産の自動化、自律化に産機分野は対応してきています。建機分野も同様の対応をしていくべきなのかな、と思います。
加えて、個人的にはおそらく、自律施工状態の建機だけが運用されている現場というのは、よほど恵まれてない限り難しいと考えています。例えば工種の切り替えを行うだとか、現場条件が変わる時は人と機械が混在する時が結構あるような気がします。機械が単純な動きができるように人がアシストするであるとか、現場条件を人が変えてあげたりとかしながら現場が動いてくるのではないかと考えています。
コンセンサスは取れていませんが、そうしたことを行う条件整備の一つとして自動化機械が現場に入っていく際の、安全基準の在り方も研究していきたいと考えています。

シミュレーション 内製化かベンダーの力を借りるか?

 ――出来形から考えるというのはすごく重要であると思います。最初がどんな状況なのか、中間がどんな状況なのか、工程ごと、ロットごとの状況を考えて最後にはこうなる、と。そうすると最初のバックホウやダンプなどが入っていく傾斜と、途中段階と最後の傾斜は当然異なりますよね。それはある意味、このシステムで一番いいことはシミュレーションができることです。シミュレーションの中に、様々な設計情報などをインプットしていって、段階ごとの施工環境や安全上の留意点を精査していけば、だんだん精度が上がってくると思います。
 前田 おっしゃる通りですが、そこは完全に競争領域です。そこの作り方の良し悪しで施工会社の利益が左右されます。
 ――ソフトウェアベンダーが緻密なシミュレーション環境を実現できるかどうかも利益を左右することになりますね
 前田 現状では、ゼネコンは自分たちで専門部隊を作ってシミュレーションの内製化をするか、秘密保持契約の一環の中にベンダーを入れて、シミュレーションを行うかということですが、私どものデモに来たベンダーさんは、おそらくWindows用のソフトウェアを売るようにアプリケーションを開発していきたいという気持ちを感じました。このプラットフォームが固まれば、そうした開発機運が生まれてくる可能性が大きくなってきます。
 ゼネコンさんの中でも、ミドルウェアやアプリケーションの内製化に資源をつぎ込むよりも、そうした分野はベンダーの力を借りて、自分たちは利益を生み出す分野を高度化したほうがどうもいいような気がしてきたという発言もありました。

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