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土木分野におけるDX導入の必要性とその背景

土木研究所が進めていく『自律施工とは』 前田陽一技術推進本部長インタビュー 

国立研究開発法人土木研究所
つくば中央研究所
技術推進本部長

前田 陽一

公開日:2022.02.28

モデリング情報がライブラリのように使用できる環境目指す
 シミュレーターの精度も上がり、開発も経済的に進められる

 ――もう一つ重要なキーワードとしてナレッジマネジメントがあります。熟練オペレーターの施工内容を教師データ化して、それをインプットしていくことで、自律施工の精度を上げていくというアプローチは筋が良いと思うのですが、これは今後進めていくのですか
 前田 最終的には、ここも競争領域になっていくと思います。将来、建機の販売において「ナレッジマネジメントを取り入れた自律施工制御による高い施工能力」などというのが売りになっていくのではないか、と考えます。ただし、現時点ではしっかりとした構想ができているわけではありません。

 我々が今回プロトタイプを作る過程において、先ほど申したような効率の問題があったり、シミュレーターを作るにしても、バックホウを土に入れて土がその後どのように挙動するかというモデリングは結構難しいものがあります。そうした分野は土研が自分で作るのではなくて、いろいろな方に参画していただいて、土の土質によって挙動は変わるかもしれませんので、そうしたモデリングを作っていくことが大事です。大事なのは、それを特定の者が囲い込んでしまうのではなくて、さまざまのモデリング情報がライブラリのようにみんなが使用できる環境になれば、シミュレーターの精度も上がり、開発も早く経済的に進められるようになるのではないかと思います。

施工工程データの活用

 ――そのデータを取り、自律施工のボトムアップにつなげていけるべく、制度設計できるのは土研のような公的機関ではないのですか
 前田 そこは国総研とも関連する領域です。国総研とは密に連携をしながら、どこまでデータを取得し、ボトムの向上を図るべきなのか議論していく必要があるかもしれません。

安全面 止める手段を多様化
 安全と効率のトレードオフは考えていくべき

 ――協調領域はあくまで共通制御信号に限定されるということを先ほど仰っておられましたが、こうした新技術は失敗すればリカバリーの機会なく烙印を押されることもあり得ます。安全や施工品質の面で「ここまでは求める」というラインや免許のようなものを作らないのですか
 前田 土研としては、そこは必要かもしれないという問題意識はあります。本省で別途細目は検討されると思いますが、土研としてはプロトタイプを作る中で得られる知見を検討に放り込んでいくというポジションでやっています。
 共通制御信号を平たく言えば、これは建設機械を制御するプログラムとマシンとの間の互換性を取るものですが、安全性はそれと違う軸ではないかと考えています。現在の現場管理は、現場の安全管理責任者がいて、責任者が現場を監視しながら、何かあれば責任者が建設機械に乗車しているオペレーターに指示を出して機械を止めさせています。

 ――自律施工においては、どのように安全を担保しますか
 前田 プロトタイプで行っているのは、止める手段を多様化していることです。機械についているボタンで直接止めることもできるし、遠隔操作で止めることもでき、通信が切れたら止めることもできるようにしています。だから実際に実験をやると、逆に頻繁に止まってしまいます。
 そのため次善の策として、産業機械のラインで導入されている安全対策を参考にしようと考えています。機械の出力が人に危害を与えないレベルであれば、動かしてもいいなど、安全と効率のトレードオフは考えていくべきでしょう。これに土木の知見も放り込んでいきつつ、最終的には本省の場で、安全対策の内容が決まっていくのかな、と考えています。

安全の企画類
 ――力だけでなく、傾斜など施工環境が想定以上の大きさになった時、緊急停止するようなことは考えないのですか
 前田 現時点ではそこまで至っていません。先々はあるかもしれません。クレーンなどでは、すでにそうした縛りがあり、同様の縛りを機械ごとに与えるということはあるかもしれません。
重ねて申し上げますが、自律施工だけで行える現場は殆どなく、基本的には人機が混在することになろうかと思います。安全と効率をうまく両立しないと普及は遅れると思います。

共通制御信号(協調領域)を議論するための会議体を作る
 ゼネコン、建機メーカーやベンダーなどが参加を想定

 ――今後の普及スケジュールについて
 前田 共通制御信号(協調領域)を議論するための会議体を作ることから始めます。こちらが来年度からスタートする予定です。まずは、油圧ショベルの共通制御信号から議論をはじめていきたいと考えています。並行して土研のプラットフォームを活用しながら、官民の共同研究をスタートさせたいと考えています。また、機械を動かすための必要最小限の共有しなければいけない信号セットはどこなんだ? ということを探っていこうと考えています。

今後の普及スケジュール

 ――会議体とはどういうものですか
 前田 ゼネコン、建機メーカーやベンダーなどが参加されることを想定しています。それらの方々の考えを聞きながら、自律施工に関する協調領域とその内容をフィックスしていければと考えています。できるだけ幅広い分野の方々に集っていただきたいと考えています。
 ――ありがとうございました

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