道路構造物ジャーナルNET

2017年新年インタビュー①

NEXCO西日本 熊本地震からの復旧、大規模更新事業の進捗を聞く

西日本高速道路株式会社
取締役常務執行役員(保全担当)

高倉 照正

公開日:2017.01.01

本復旧① 木山川橋は座屈部材の取替、支承の取替などを進める
 秋津川橋 深層混合処理などによる地盤改良を実施

 ――さて、本復旧に向けて木山川橋の耐震対策方針から
 高倉 本復旧は国の補正予算による災害復旧費をいただいており、基本的には平成29年度中に工事を完了する予定です。
 元に戻すのではなく、現在の基準に合わせて、レベル2地震動に対して地震による損傷が限定的なものに留まり、橋としての機能回復が速やかに行い得る性能(耐震性能2)を確保することを目的とした耐震補強を行います。
 具体的には、座屈している部分を切断し、新たな鋼板に取り替え、全支承をいわゆるタイプB支承へ取替えます。こうした作業を行うに当たってはジャッキアップ時に桁が座屈しないように必要な箇所に補強部材を設置し、かつ支点部に設置したベントにジャッキを入れて、作業時の桁の受け替えを行った上で施工しています。
 また、橋台・橋脚の部分的な縁端拡幅、落橋防止装置の設置などを行います。支承交換は、沓高が以前の鋼沓と同程度に抑えられるBP-B沓を使用します。これらの作業は横河ブリッジと日本鉄塔工業が担当しています。
 ――秋津川橋背面盛土の崩壊対策は、旧河道が悪さをしたのではないかということも聞いていますが
 高倉 それが逆でして、上り線の河道跡の上面盛土はきちんと残っていて、下り線の粘性土の上に載っている盛土の方が崩壊していました。必ずしも河道処理の問題が原因ということではないように感じています。
 盛土崩壊は盛土下部に分布している厚さ3~4㍍程度の緩い砂質土層において、地震により間隙水圧が上昇し、土粒子間の有効応力が低下することで、その上にあるローム層が水平方向に大きく揺れ、河川のブロック護岸が押し出されて盛土が崩壊に至ったものと推測されます。地震の動きで重たい部分が先行して動き、それに盛土が追随して崩壊したような感じです。
 対策工法としては、調査ボーリングによる土質試験結果を用いてすべり安定計算を実施し、盛土のり肩付近の現地盤に、深層混合処理工法による地盤改良を実施しました。崩壊の要因になったと考えられる盛土の基礎地盤であるローム層および緩い砂質土層のせん断抵抗を確保するためです。また、既存盛土材を使用して盛土を復旧し、併せて盛土の沈下安定確保のため、石灰による安定処理を実施しています。同施工は大成建設が担当しています。

 ――大分道で崩落した切土法面については
 高倉 地震によって切土法面が押し出されるような作用を受けて、軟質なシルト質凝灰岩や粗粒凝灰岩が破壊され、流れ盤のすべり面を形成し、潜在的な不連続面を境界に崩壊が発生したものと推察しています。
 対策としては、側道沿いの切り立った崩落斜面を切りなおすとともに、崩落地の背後斜面に堆積するシルト質凝灰岩などの崩落抑止対策、崩落地の大分側法面(未崩落)の崩落抑止対策を行いました。


大分道由布岳PA付近の切土崩壊

本復旧② 最大80センチの高低差を生じた舗装面
 並柳橋はP4で支承が損壊するなど大きな被害

 ――舗装も九州道を中心に大きな損傷を受けていますね
 高倉 路面が大きく沈下しており、最大約80㌢の高低差を生じています。そのため沈下している箇所の路盤のかさ上げを行い、フラットな路面に戻していきます。


波打っていることが分かる舗装

 ――大分道では並柳橋が大きな損傷を被りました。まず応急復旧状況について教えてください
 高倉 同橋は橋長422.4㍍、幅員10.7㍍の鋼4径間連続鈑桁+鋼4径間連続トラス橋です。橋脚は高さ46㍍に達するフレキシブル橋脚であり、縦断勾配が相当にきつい橋です。今回の地震では、桁が縦断の高い方向へ移動していました。


並柳橋の位置と橋梁橋梁

 ――縦断の低い方向ではなく、高い方向へ移動していたのですか?
 高倉 そうです。損傷部位は、トラスと連続鈑桁の架け違い部に位置するP4部で支承の破壊(トラス、鈑桁両方、セットボルトなどは吹っ飛んでいた)と主桁(鈑桁側)の屈曲、A1橋台側で支承の損傷と主桁(鈑桁)の横ズレなどが発生していました。


並柳橋の損傷詳細と復旧状況/P4上の鈑桁損傷状況。コンクリートで巻き立てた。

 応急復旧では早期に交通を通すため、基本的にはサンドルを組んで損傷した支承の代わりとし、桁が屈曲しているところは、コンクリートで巻きたてる形で仮復旧しました。また、鋼鈑桁がA2橋台方向に82㍉もずれていたことから、A1橋台方向への桁移動を実施し、正常な位置に戻しました。下り線側の応急復旧を先行し、5月9日には、下り線の対面通行での暫定供用にこぎつけました。
 本復旧は、動的解析を行いながら弱点を探しており、地震により被災した部材の取替・補強を行うとともに、レベル2地震動に対する耐震性能を確保します。具体的には損傷した桁端部付近の鋼部材および床版の取替(A1、P4、A2)を行うともに、耐震対策として全支承の免震支承への取替、橋脚の炭素繊維シートによる補強、制震ダンパーの設置、縁端拡幅および落橋防止装置の設置、(桁衝突を防止すべく遊間を確保するため)桁端部の桁と床版をA1、A2で切断します。
 ――架け違い部の橋脚については桁高が高い(よって重量も重い)方の桁が架け違い部の橋脚に桁衝突した場合、落橋を伴う深刻な損傷を引き起こす可能性が露呈されました。そうした状況を未然に防ぐ方法はどのように考えていますか
 高倉 並柳橋では、支承こそ桁の動きにより、大きな損傷を受けていましたが、トラス桁は架け違い橋脚方向ではなく、むしろ橋台方向へ動いており、ご懸念のような損傷は起きませんでした。
 未然に防ぐ方法としましては、段差を無くしたり、遊間を確保したり、桁の変位を制限するなどの手法を個々の橋梁単位で考えていくことが必要と思われます。
 ――支承を取り替えるということですが、本橋のような大きな重量を有するトラス桁の場合、ジャッキ支点部に生じる反力を担保する(ジャッキアップ時に生じる力による座屈を防止する)ための補強が必要になるかとは思うが、具体的にどのように対応しますか
 高倉 支点となる格点部を弦材などで新たに補強した上でジャッキアップします。(編注:復旧は三井造船鉄構エンジニアリングが担当している。)

本復旧を行うため人員を大幅に増強

 ――こうした本復旧をスムーズに行うため、新設工事のような工事区も設置したと聞いています
 高倉 熊本高速道路事務所管内では本復旧工事が多数あり、平成29年度中の完了を目指していることや、平成29年度の早い時期に益城熊本空港~松橋間の4車線運用を目指すため、7月に復旧第一工事区、復旧第二工事区および施設第三課を増設しました。同様に大分高速道路事務所管内でも多数の本復旧工事があり、7月に担当副所長と改良課担当などを増員しています。


大分道 冷川橋のジョイント損傷部ではMMジョイントを用いて仮復旧した

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