岩手県県北広域振興局土木部二戸土木センターがリニューアル工事を進めている国道395号猿越橋は、耐震補強および床版取替工事を進めている。同橋は岩手県九戸郡軽米町の猿越峠付近に、昭和39年道路橋設計示方書に拠り1972年に供用された橋長61.2m、幅員7.5m(有効幅員6.5m)の鋼単純上路式トラス橋(非合成)である。下部工は重力式橋台で直接基礎を採用している。長年にわたる凍結防止剤散布に伴う塩害、ASR、凍害などにより床版は大きく損傷している。そのため既設床版をプレキャストRC床版により取り替えるものだ。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
猿越橋(土木技研提供)
凍結防止剤散布量は1日20~40g/m2
交通量は7,000台強、大型車交通量は1,000台を超える
記者は9月下旬に本現場を取材した。この時期なのに寒い。床版の撤去・架設は夜間に行うため、さらに寒い。取材した日の夜間の気温は10℃を下回っていた。風があれば体感温度は0℃ぐらいだったのではないだろうか。それもそのはずである。同橋の自然環境は厳しい。12月~2月にかけての冬季の最低気温は過去30年間平均で-7℃に達している。そのため1日の凍結防止剤散布量は20~40g/m2に達する。寒冷地のため冬季は毎日散布している状況にある。一方で、青森県八戸市と岩手県二戸市を結ぶ道路であることから交通量も比較的多く1日交通量は7,016台(平成27年センサス値)である。また大型車混入率は15.3%であり、1日1,000台を超える値となっている。古い橋であることから疲労による影響があることも推し量れる状況にある。
既設床版は危機的な状況
工期短縮、施工の容易さからプレキャストRC床版による取替を選択
本現場で現在行われているのは床版の取替と伸縮装置の交換、床版防水および舗装の施工などである(前年度までの塗替え及び耐震補強工事は前記事参照)。2019年度の調査によって、コア採取によりコンクリート試験を行った結果、圧縮強度は基準値24N/mm2に対して19.5N/mm2と下回り、ASR反応も確認された。一方で塩分含有量は鉄筋近傍値で0.2~0.36kg/m3と基準値同1.2kg/m3を下回っている。この結果から疲労と凍害、ASRによる複合劣化を原因と推定した。また、床版防水を行っておらず、舗装の目地から凍結防止剤の混じった水が供給され、床版上面の土砂化も進展、下面では亀甲状のひび割れも生じていた。ひび割れが貫通しているため、常時供給された水が塩分を結果的に洗い流していた可能性もある。
路面の損傷状況(岩手県提供、以下注釈なきは同)
床版裏面の損傷状況
昨年12月には一部舗装打替えなども行っているが、抜本的な対策までの場繋ぎ的なもので、その際も舗装面にまでエフロレッセンスが生じているなど床版は危機的状況にあり、補修補強を行ったとしても短期的な延命化にしかなり得ないことから、今回、床版取替によるリニューアルを選択した。リニューアルに際しては耐荷重量を現行のTL-20t相当からB活荷重(TL-25t)相当に引き上げる。また、幅員も全幅を7.8m、有効幅員を7mと多少広げる。
さて、床版交換の方法としては、全面的な現場打替え、部分的な現場打替え、プレキャスト床版による取替があり、さらにプレキャスト床版による取替としてはPC、RC、合成床版、鋼床版による方法がある。
当初設計においては、全面的な通行止めが出来ないため、部分的な打替えにより対応する方針だった。しかし、床版において、ASRの懸念があり、耐久性上問題となることから、それを断念した。さらに全面的な打替えは施工期間が長くなり、また同橋においては、う回路もないため交通への影響が大きいことや国道4号と八戸市を結ぶ重要路線かつ第一次緊急輸送道路にも指定されているため早期の交通開放が求められる。そのためプレキャスト床版を用いた全面的な床版取替を採用する方針に転換した。
二戸と八戸を結ぶ重要道路のため床版取替施工中も日中は片側相互通行で開放している(井手迫瑞樹撮影)
プレキャストRC床版を用いた理由は、従来の現場打ちRC床版と比べてコンクリート強度が高いことはもちろん、施工時間が取壊しから設置まで10日程度で完了できること、取替による死荷重増が伴うプレキャストPC床版に比べて総工事費でも優位となること、さらには「プレキャストRC構造のためポストテンションやグラウトなど専門的な施工を必要とせず、一般土木工事扱いで地元建設業者でも受注、施工管理ができる」(岩手県)などの長所を評価したものだ。
プレキャストRC床版(井手迫瑞樹撮影)