道路構造物ジャーナルNET

⑧効率化と費用対効果について考える

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2024.01.01

密実としにくい条件の駆体で水を吸っている悪い事例
 全国を移動しながら気付きを得た構造物を探しては観察

 次に高スランプではありませんが、密実としにくい条件(天端が急勾配)の駆体で水を吸っている悪い事例を紹介したいと思います。この構造物(写真-11)はスランプ8cmの時代に造られていますが、上限要求または規格外に軟らかいコンクリートを使用したと推測しております。根拠として、(写真-11)の構造物は天端が斜めになっておりますが、こうした条件では、コンクリートが軟らかい程にバイブレータの振動によって下側に流れてしまうので締固めを控える事が多く、型枠にコンクリートを充填して締固めを終えるかと思います。こうした急勾配な駆体はスランプを低くすれば締固めが可能となるのですが、そうした配慮がなされたであろう駆体を見る事は皆無に近いと思います。この駆体(写真-11)の向かって右側と左側の濡れ方をみますと、明らかに違いが見て取れますので、駆体の条件と濡れ具合(水の弾きかた)で締固め具合を推測できると思います。


(写真-11)コンクリートが締固められていない場合の濡れ具合

 全体的に密度は低そうですが、右側は吸水が少ないようですので左側と比較すると水がかりではないので劣化は遅いと推測できます。蛇足ですがこの駆体の濡れ方が左右で違うのは、左側は法肩コンクリートの雨水が流れて濡れたものですので、左右とも空隙は大きいと思います。もし、濡れていない右側の空隙が小さいと仮定した場合、水は弾かれて直線的に流れ落ちるはずですが、水を天端付近で吸っている状況が確認できますので左右ともに品質は悪く優劣は小さいでしょう。もし、コンクリートの事後評価を実施すると考えておられる方で本当の品質を知りたいのであれば、耐久性の低いであろう乾きにくい箇所をあらかじめ把握し、その位置で試験を実施することがその躯体寿命を知るデータとするのに良いと思います。
 私は全国を移動しながら気付きを得た構造物を探しては観察しておりますが、それなりの経験値で各現場の結果について、どのような材料で、いかに施工したかシュミレーションし、さらなる品質向上の手立てを考えております。この行動は、私の若かりし頃から今までの失敗と重なりますので、不具合をみると自己の反省とともに如何にして高品質と出来るかについて勉強となりますので、今となっては習慣化している事です。
 詳しくは文章では伝えにくいのですが、現場でご一緒して解説すると皆さんに納得いただけると思います。いつか皆さんや私が手がけた構造物を前にお話できる日がくることを期待しております。

 コンクリート構造物は、引き渡し時においては有害なひび割れが無い事がほとんどであろうと思います。低スランプで丁寧に締固めたコンクリートは、無筋コンクリートであってもひび割れが小さく少ない事も少なくありません。そんな緻密なコンクリートであっても真夏においてコンクリートが乾燥しますと縦割れが入り易いです。コンクリートは気温が高いと膨張しますが、表面は乾燥によって収縮して割れてしまいますのでひび割れるタイミングは真夏が多いように思いますが、緻密なコンクリートのひび割れは比較的微細な事が多く、そうしたひび割れは雨天を重ねる毎に未反応の成分等の反応によってひび割れが塞がる事が多いようです。

効率化と費用対効果の優先順位はどう考えるべきか

 今回「効率化と費用対効果について考える」として執筆しました。効率化も費用対効果も言葉を聞くとどちらも正しいです。しかし、物事には目的があって優先順位があります。公共工事は国益の為に実施されている事から、費用対効果の高い事項が優先されると思いますので、そうして考えると推進されている効率化(高スランプ化)も大切ですが、それ以上に丁寧な施工の方が長期耐久性を得られる可能性は高いと思う事から、費用対効果が高い事項が優先されるべきではないかと考えております。言うまでも無く、PC構造などの極めて条件の悪いものは高スランプの方が施工しやすく初期欠陥リスクを減らせる事もあるので、条件に応じて長期耐久性を得られる可能性が高い方を優先すれば良と思います。どちらを選ぶか、技術力をベースとしてケースバイケースとなるでしょうが、ここで一番大切な事はこうした事で得られるストック効果・公益は私たちの技術力・倫理観にかかっている事を認識した上で行動すべき事だと思いますが、皆さんはどのように考え行動されるでしょう。

 また、土木学会の「十分な知識と経験を有する技術者が技術的判断を行う場合の取り扱い」で述べましたが、基準は大切な事ですが、その意図を理解した上で判断して良いとした土木学会の信頼に応えて、学会の先生方にご自分の技術力を見ていただきたい、厳しく評価してもらいたい、意見を聞いていただきたい等の気持ちはないでしょうか。私は我が国のコンクリート技術に対して、基準通りでは済まされない状況に追い詰められつつあると危機感を持っておりますが、皆さんはどう考えておられるでしょう。コンクリートは奥深く私にはまだまだ勉強が足りない状況ですが、行動力は衰えませんのでこれからも挑戦を続けたいと思います。

効率化・品質向上の融合昇華「スランプ保持型」について

 ここでコンクリートの効率化とは少し観点が違うかも知れませんが、混和剤によって効率化と品質向上に寄与するであろうスランプ保持型に触れたいと思います。いまさら私が紹介せずともご存じの方も多いでしょうが、聞き慣れない方の為に簡単に説明させてください。
 「スランプ保持型」の混和剤は従来の混和剤より高いスランプ保持性能と適度な凝結遅延性を併せ持つ混和剤です。

 この混和剤の開発は現場から長らく製造者、施工者から要望がなされており、近年レディーミクストコンクリート工場(以下、プラント)の統廃合による長距離運搬によるスランプの低下、暑中時のコンクリート温度上昇による凝結促進、トラックアジテータ車の待機時間の慢性化等によって、スランプ保持性能が必要不可欠な状況に追い込まれている地域も増えていることから、その要望に応えたものとなっているようです。

 スランプ保持型がない時代、プラントからコンクリートを出荷するとき、外気温・運搬時間等によってスランプは著しく低下する事がありました。そこでプラントは現場から指定されたスランプで届ける為、低下するであろうスランプを経験値から予測して、混和剤遅延形などを増量使用したり、その低下分の水量+α(上限要求等に応じたスランプ)を考慮して出荷していました。

 例えば、荷卸しの設計スランプが8㎝の場合、夏場にスランプ8cmで現場へ届けようとしたとき、プラントで練上がりをスランプ8cmで出荷すると運搬時間によってはスランプが6cm以下などとなって、特別な対応をしなくては荷卸しが困難になることがあります。過度にスランプが低下したコンクリートを圧送すると、配管内で閉塞のリスクが高まり、その後のコンクリート打設作業に時間がかかります。プラントではそうした事を予測して、指定された荷卸しの目標スランプ8cm+スランプロス+αで現着できるように軟らかいコンクリートを出荷しているはずですが、+αの部分は施工者からの過度な要求により上限を超える場合があり、経験上でも同様の事例があることを確認しています。

こうした要望に対して、単位水量を増やさず品質を落とさずに応えるためにスランプ保持型を使用したコンクリートは、規格上定められている運搬時間内であればスランプの低下がほとんど生じない事が学会で報告されています。スランプの低下がないコンクリートであればポンプ圧送も有利となって締固めにおいても硬化時間が緩やかになりますので、多少の時間ロスが生じても落ち着いて締固め作業が可能となり、打重ね線等の初期欠陥リスクも小さくなって補修等の手間も軽減されるはずですので、結果的に高品質なコンクリート構造物ができると考えています。

 これまで、効率化という事で軟らかいコンクリートを要求していた施工者も、設計段階でスランプ保持型が採用された場合、スランプ8cmで容易に施工可能となる構造物は多いはずです。軟らかいコンクリートでひび割れリスクを負うよりも、スランプ保持型を使った今までのスランプ8㎝以下を選択する現場が多くなるかもしれません。実際、高スランプの仕上がりを見ていると、綺麗なものはあるのですが発注者に引き渡した後に大きなひび割れが発生している事が多いので今後は検証が必要かと思います。今まで、スランプの低下に起因する不具合を避けるために上限要求していた施工者は多いですが、そうした施工者のほとんどはスランプ8㎝を技術的な問題としていませんでした。スランプの低下による問題を、上限要求や高スランプで解決せざるを得ない状況がほとんどだったのです。
 現場作業員の確保が難しい事から効率化して高スランプとしても、よいのでしょうか?残された国民が負担する維持費を考えると効率化と両輪で、徹底して人手をかけて緻密化する構造物と比較検証することも必要かと思います。

 効率化の一助とも言えるスランプ保持型は、製造者・施工者・発注者にとってメリットはとても大きく、革命と言える混和剤ではないかと期待をせずにいられません。
 このような画期的技術は、効率化の一端でもあると考えますが、今までに耐久性が証明された構築技術と同じく、挑戦・検証・改善が今後も続けられるべきだと思います。
 紹介しました「スランプ保持型」ですが、土木学会で発表された国際企業株式会社 筒井様の助言を受けて紹介しましたことを記し、ここで感謝申し上げます。

スランプゼロに近いコンクリートを丁寧に施工
 メンテナンスフリーに近いコンクリートを構築できる

 繰り返しになりますが、コンクリートは知れば知るほど奥が深いものです。私は3年前、高名な先生を前に「綺麗なコンクリート構築は簡単です」と発言した事に対し、先生から「簡単ではない」と強く反論された事がありました。一部複雑なモノを除いては今も簡単だという考えは変わりませんが、実は緻密なコンクリートを追求すると決して綺麗な事が高品質とは限らない事などに気付かされました。そこで私の意見に異を唱えられた先生のお気持ちを想像するに、先生としては全国においてスキルが全く違う不特定多数の関係者・様々な材料や条件等を考えて発言されていた事を考えると、コンクリートを綺麗にする事は簡単ではないという主張は正しい意見だったと思いが至りました。まさに「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」といった、小物に大人物の考える事が分らない状況が私と先生にあてはまった訳です。私は立場に関係無く思う所をお話したことから、こうした思慮に欠けた発言となった訳ですが、先日、先生にそうした事ですよねとお話したところ微笑んでおられました。高名な先生ですのでお会いできる機会も滅多にありませんが、いつかコンクリートについて話し合える機会があればと考えておりますが、「日暮れて道遠し」とならぬよう頑張りたいと思います。

 コンクリートは調査・設計・施工・材料等に至るまで、どの分野においても示方書・基準・論文と同じ条件としても結果が違う事がほとんどかと思います。様々な事を試行錯誤してまいりますと、表現しにくい前提条件が隠されている事の気付きとその多さ、そして発見もあることからもマニュアル通りに施工する事はできない事が良く理解できます。

 ここで書籍「新設コンクリート革命」の中で横浜国立大学の細田教授より偉大な先生である吉田徳治郎博士の金科玉条を記しておられましたので以下に紹介させてください。
 「仁杉君ね。君、いくら机の上で本を読んでもダメだよ。とにかくやってみなければ。とにかく造ってみなさい」、「論文が山のように出てくるけど、自分で読んで分ったようなつもりでいるけども、やってみないと本当にその論文を理解したことにならないよ」。

 以上、まさに名言であり本質を追究し続けた偉人ならではの重い言葉で、吉田徳治郎博士から指導された仁杉巌博士は後に国鉄総裁となられますが、師の教えに従い現場で指揮をとられた第一大戸川橋梁においてはスランプ2cmで丁寧に施工されたそうですが、建設から60年以上経過した2008年土木学会により調査された結果、これ以上ないと言う圧倒的な品質であったそうです。

 私は恩師から「定められた全ての決まり事、それを実行する目的は正しい結果を追求する事であるので、基準等が絶対ではない。趣旨を理解して自分の力で正しい結果を追求しなさい」と学生時代に教えを受けました。ですからその決まり事が目的とする国益を追求してきましたが、これからもそのような考えで結果を追求し続けていこうと考えております。紹介しました廣井勇博士、吉田徳治郎博士、仁杉巌博士の時代において、スランプゼロに近いコンクリートを丁寧に施工なされた結果を見れば、メンテナンスフリーに近いコンクリートを構築できる事は証明されていると言えるでしょう。明治・大正・昭和中期まで我が国で受け継がれた最高の技術ですが、高度経済成長期前後にポンプ車出現から効率化が進んでしまい、締固め技術は廃れ、いま見る影もありません。私は土木技術者として、自分が信じる道を突き進み、いつか偉大な先生方のような耐久性の構造物に挑戦したいと夢見て、日々研鑽すると決意し新しい一年を過ごしたいと思います。

 このサイトへ初めて寄稿してから1年が経過しました。毎回の事ですが、行き当たりばったりで記事を執筆しておりますのでまとまりも悪く、今回記事も大いに苦戦しました。私の得意分野は現場で結果を出す事であって、それについては正しいか分りませんが経験からなる閃きで理論上の事や前提条件が直感的に想定できたり、もし、期待した結果とならなければ仮説のようなことを思いついては検証する毎日が楽しくもあって、つくづく現場向けなのだと思います。しかし、こうした記事を出すとなると多くの皆さんに苦手な文章で伝えなければなりませんので、今さらながら少年時代に無駄と思っていた勉強を疎かにしてきたツケを技術者人生後半において払い続けるとは思いもしませんでしたが、実は楽しく執筆しております。

 今後、記事にするネタはたくさんあって色々書けそうなのですが、そうした頭がないので執筆にかける時間はとても長くなり、毎回どのようなイメージで伝えるかを悩んでおります。毎回、書き出しては修正に次ぐ修正、もしくはボツといったかんじです。次回の案もいくつかあるのですが、私の記事で疑問やリクエストなどあるでしょうか。期待に応えられるかわかりませんが、ご意見などありましたら編集者井手迫さんへいただければ、私の経験で執筆できると感じたなら記事にしたいと思います。もしかしたらですが、いつか「性善説と国家」みたいな事を盛り込んで執筆できないか思案しております。いきなりと思われるかも知れませんが、小学生の頃から社会科だけは大好きで自然と国家について考える少年時代でしたので、そうした延長線で公共事業やコンクリートや様々な事象を考えております。とは言え、私の頭ではどうなるかわかりませんが期待せずにお待ちください。
 今回も独り言にお付き合いいただきましてまことにありがとうございました。

 皆様にとって幸多き年となることをこの場をお借りしてご祈念申し上げます。

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