道路構造物ジャーナルNET

⑧効率化と費用対効果について考える

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2024.01.01

十分な知識と経験を有する技術者が行う技術的判断
 コンクリート標準示方書の規定によらなくてよい

ここで国土交通省大臣官房官庁営繕部監修が考えるライフサイクルの概念図を以下に紹介します。

 LCCの概念図においても、ライフサイクルコストを優位にするには建設時のコストは小さな事である事を指摘されていることから、私たちはよくよく考える必要がありそうです。

 上記に続き、とても重要な事として土木学会のコンクリートライブラリー162 2022年制定コンクリート標準示方書改訂資料 基本原則編・設計編・維持管理編に以下が記載されましたのでコピペ紹介します。

 6.3 十分な知識と経験を有する技術者が技術的判断を行う場合の取り扱い
 コンクリート標準示方書は、土木構造物の設計、施工または維持管理計画決定に際しての標準的な規定を〔設計編〕、〔施工編〕および〔維持管理編〕のそれぞれ〔標準〕において記載したものであるが、多様な用途や自然条件への立地が想定される土木構造物においては、標準的な条件を想定して定められている規定を絶対視することは、経済性等の観点から適切でない場合がある。したがって、そのような場合を想定して、本改訂では、十分な知識と経験を有する技術者、〔基本原則編〕やその他の編の〔本編〕の趣旨を理解した上で技術的判断を行う場合には、コンクリート標準示方書の規定によらなくてよい事を〔基本原則編〕として明記した。(抜粋)と書かれています。

 

 私は「十分な知識と経験を有する技術者が技術的判断を行う場合の取り扱い」が明記された事について、それを追加された先生方に尊敬の念を禁じ得ません。近年、正しい結果よりマニュアルを優先する風潮が強い状況で、この文章がどれだけ土木哲学を信じて行動する技術者に希望をもたらすかを考えますと、土木技術者の端くれとして改訂版にこうした記述を追加くださった先生方の信頼・思いに応えられるよう成長したいと思いましたし、そのような深く重い文章に感謝の気持ちで一杯となりました。

 以上、国交省大臣官房庁営繕部のLCCの概念図ならびに土木学会コンクリートライブラリー162 2022年制定コンクリート標準示方書改訂資料の一部を紹介しました。
 いずれの資料においても、公益に関わる事の重要性が書かれているかと思いますが、私たちはそうした目的や意図を考えながら行動し公益を確保する必要があると思います。

コンクリートの「黒」と「白」
 残留気泡が3mmを超えないモノはある程度の緻密性がある

 ここからは話を大きく変えて、私が最近実施した現場調査について皆さんに紹介しようと思います。もし皆さんがコンクリート構造物において品質確認や目視評価するとしたらどのような状況下・手法で評価されるでしょう。コンクリートは今さら言うまでもありませんが、生コン打設から脱枠・養生を経てコンクリートの置かれた環境に大きく左右されます。前述しました(写真-1・2)の現場では、完成時のひび割れは無害なものもほとんど確認できない状態でした。引き渡して1ヶ月毎の観察でも6月末までひび割れはありませんでしたが、8月末の調査でひび割れが一気に顕在化しておりますので、引渡し以降の観察は非常に大切だとあらためて感じております。

 ここで、コンクリートの観察について、個人的に気を付けなければならないと感じるのは白っぽいコンクリートです。雑な施工や高スランプの時にコンクリートが白くなる事が多いです。そうしたコンクリートは緻密ではないからでしょうか、ひび割れが発生しやすく吸水もしやすいので水に濡れたときに乾きが遅く、そのほかに様々な不具合が多い傾向です。そうしたコンクリートは、締固めも不十分なのか密実でないことからでしょうか、工事完成後から早期にひび割れが顕在化するように感じています。

 逆に黒いコンクリートの傾向としては緻密な事が多いので、不具合は少ないと思います。ただし、コンクリートを丁寧に締固めても必ず黒くなるとは限りません。そうした場合どこを見て判断するかですが、良いコンクリートは初期欠陥がないことは言うまでもありませんが、残留気泡が3mmを超えないモノで雨上がりに速乾性がある構造物についてはある程度の緻密性があると考えております。ここで、残留気泡の大きい駆体でも緻密と判断できる例外として、低スランプや既に硬化が始まったようなスランプゼロ程度のコンクリートを締固めた時は、丁寧に締固めたとしても空気が拘束されて排出に至りませんので脱枠時に大きな残留気泡が残り易いですが、ただし、強度と透気係数は極めて良い事を締固め試験で複数回確認した事があります。ここで申し上げたい事は、スランプゼロより硬くなったコンクリートだとしても、締固めが不可能ではないどころか適切に締め固めたなら高品質となる可能性があると言うことです。

緻密なコンクリートは水を吸収しにくく水が弾かれて直線的に流下

 ここで、緻密なコンクリートを推測する方法の一例を写真にて紹介したいと思います。

 私の第7回連載記事でコンクリートに噴霧器で水を吹きかけた時の水のはじき方を紹介したお話の延長となります。比較する両現場の施工者は同じで、構築した時期が1年違っており、表面に含浸剤等は使用しておりません。雨天時、緻密なコンクリート(透気係数優相当)と空隙の大きい(透気係数が劣または極劣)コンクリートにおいて濡れ方について比較すると、緻密なコンクリートは水を吸収しにくく水が弾かれて直線的に流下(写真-5)します。

 反対に空隙の多い場合は水を吸収(写真-6)して雨水は流下しにくいです。

 さらに、雨上がり直後の状況を比較してみます。空気が出なくなるまで締固めたコンクリート(写真-7右側)はコンクリートが大部分で乾いておりますが、標準的に締固めたコンクリート(写真-7左側)はコンクリートの空隙に水が侵入した分だけ乾きが遅くなりました。丁寧に締固めたコンクリートは雨上がり直後に乾く事が多いですが、標準的に締固めたコンクリートは空隙が大きい程に水分を含みますので乾く時間が極端に遅くなります。こうした水分を吸収して乾きにくい構造物は劣化因子が侵入しやすく、LCCにおいて不利と言えるでしょう。


(写真-5)水を弾くコンクリート / (写真-6)水を吸収するコンクリート

(写真-7)雨上がり直後のコンクリートの乾き具合

 ここで極端に悪い事例として、自動車専用道路の跨道橋で日当たりがよいにも関わらずコケだらけ(写真-8)の現場について紹介します。この橋の銘板には2006年1月完成となっており、施工は誰もが知る全国業者です。空隙の多いコンクリートはそれ自体初期欠陥が多い傾向で湿気が少ない場所であってもコケが生えたりします。コンクリートは見た目だけではありませんが、緻密であるか空隙が多いかについては分りやすい傾向があると思いますが、ここで紹介した現場のように丸わかりの残念な駆体も珍しくありません。こうした駆体は初期欠陥が多い傾向なので観察したところ、予想通り残留気泡が多く大きく、コンクリートが剥落(写真-9)、内部鉄筋が膨張して浮いて(写真-10)おりました。


(写真-8)コケだらけの自動車専用道路の跨道橋

(写真-9)コンクリートの剥落 / (写真-10)コンクリートの浮き

 道路管理者は今後シビアな管理を強いられるでしょうし維持費も膨大にかかると思います。自動車専用道路の開通が2008年でここまで悪い状況は誰も想定していないのではないでしょうか。こうした初歩的な被り不足で生じた剥落などは施工者が悪い訳ですので、無償で補修をさせても良いと思いますしそれが道理だと思います。そもそも検査で合格して受け取った構造物だとしても、こうした初期欠陥まで合格にしてはおりません。もし、初期欠陥までが引取り行為で発注者の責任とするならば、完成検査については検査課などを創設して徹底的に検査しなければなりません。
 そもそもですが、壁高欄の被り不足など初歩的ミスですので、当たり前に補修すると思うのですがどうでしょう。こうした初歩的欠陥を見て建設時の現場を想像するに、書類ばかりして現場へ出られない状況が招いた、起るべくして起こった初期欠陥と考えられなくもありません。書類に追われて現場を省みる余裕がない、近年の管理ばかりが求められる状況ではストック効果が得られないのも道理だと思います。。建設業においては、受注者ばかりか発注者の人手が圧倒的に不足していますので、監督職員の皆さんが頻繁に現場へ出ていけるような体制を整備されたなら、施工者も緊張感とモチベーションを保てますのでこうした初歩的欠陥は根絶可能かと思います。

 こうした初期欠陥の事例を踏まえて、身の回りのコンクリートを見てみると、驚く事にほとんどの駆体で水を吸収して乾きにくい、おそらく空隙だらけのコンクリートばかりであることに気付くと思いますが、皆さんの周りのコンクリートはどのような状況でしょう。もし、含浸剤等を使っていない駆体で自然と水を弾くコンクリート(写真-5)、駆体全体が速乾性のあるコンクリート(写真-7右側)であれば劣化因子が侵入し難い緻密な駆体だと思いますので、時間がありましたら周囲を確認するのも面白いと思います。

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