道路構造物ジャーナルNET

⑧効率化と費用対効果について考える

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2024.01.01

コンクリート打設 効率化は難しいが挑戦は必要

 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 数ヶ月前のこと、緻密と考えられるコンクリートを先生方に視察いただいた際、「周りの構造物と比較検証できないか」という嬉しい要望をいただきましたので、炎天下で調査したのですがあまりの暑さでフラフラとなりました。仕事が楽しいと夢中になってしまうのですが、ヤル気があっても身体は思うように動かない事を改めて気付かされました。残された技術者人生も長くはないと思うのですが、少しでも社会貢献できるよう2ヶ月前から体力作りを始めました。体力について気付きがありましたが、これは仕事にしても趣味にしても同様で、何か気付きがあれば思うがまま仮説を立てて検証し改善する事の連続で、個人的に今が技術者として急成長していると感じておりますので、様々な事象に対して好奇心尽きる事なく、そうした事が楽しい毎日に感謝しております。

 ここから夏に執筆した前回記事の続きとなりますが、中学を卒業したら就職したいと考えていた私にとって、中学入学するとアルファベットという恐るべき難問に遭遇してから英語は放置となり、1学期中間テストでAから始まる26文字を記載できず最悪の結果となった事で、強制的に塾通いの罰ゲームとなった事は今でも自虐ネタとなっております。
 罰ゲームとしての塾通いは長続きしなかったのですが、中学3年夏前に高校に行こうと考え一念発起。この時点の英語レベルはThisとThatを使い分けるのがやっとの驚異的低レベルにありました。そこで人生初の夏休みを返上して勉強する事を決意、2学期からは学校の授業に追いつくために授業で先生の話は聞かず、ひとり1年生の教科書を開いて学習しながら受験まで突っ走った結果、卒業前には進学高を受験する同級生を追い越して予習する程度となりました。しかし受験直前の飛躍だったこともあり、志望校を変更する時期も過ぎていましたので進学高を受験する事はありませんでした。高校受験が終わって「もっと早く勉強していれば」と当時は思いましたが、私のような人間が早くから勉強しても少し頑張る程度だろうと思いますので結果は変わらなかったと思います。ただ、誰にも言える事ですが、もし当時の前提条件として学問に対して正しい認識を持つ事ができていたなら、目的を達成するためにそれなりの行動を起こすので、予算が許す範囲で行きたい学校へ進学しただろうと思っております。私がこのサイトをお借りして、「人を動かすには動機が大切」と申し上げるのは、どんな人であっても動機が正しく魅力的だったりすると納得して動く確立が高まりますし、その目的に向かう行動は力強いものとなるでしょうから、国であろうと個人であろうと正しい動機によって掲げられた目的が必要で、それに対する理解がより深まった上で行動すれば自然とPDCAが回されて在るべき姿へ進むであろうことは言えると思います。

 話を変えて、建設業では人手不足が加速度的に進み大きな問題となっております。様々な対策が検討されているかと思いますが、その中で【効率化】も強力に推進されております。効率化は正しいと誰もが認識できると思いますし私も賛成の立場です。では、いつ、いかなる状況下においても効率化が正しいのかとなれば、それは正しいと言えない場面もあるのでケースバイケースではないでしょうか。
 具体的にコンクリートの効率化について申し上げますと、経験上、人員を増やさない限り耐久性において十分な成果を得られないと思いますので、コンクリート打設の効率化については慎重に考えるべきと思っています。ただし、ここで効率化がダメという事ではなく、様々な事を試行する事は将来の公益につながる事ですし、コンクリートは不明な部分が未だ多くあるようですので、効率化によって様々な事が明らかとなる事も期待ができるかと思いますので、単純に反対と言うことではなく挑戦は必要だと思っております。
 どんな技術も完璧というものはありませんし、可能性も否定されるものではありません。硬いコンクリートは密実としやすいですが、高密度配筋においては大きな制約があることから、技術者の力量が現場条件を克服できなければ品質低下のリスクもありますので、効率化の選択肢があった方が良い時もあります。注意すべきは、効率化した高スランプコンクリートは技術力が低くても初期欠陥は生じにくいようですが、水とセメントの容積が大きいはずですので、乾燥後のひび割れリスクが高くなりますし、コンクリートは緻密となりにくいと思いますので慎重な計画と施工が求められると感じております。コンクリート打設は様々な条件において、現場経験を基に使用材料や施工人員・器械等を組み立てる事が現場技術者に求められると思います。ここで、スランプ12cm(写真-1)とスランプ6cm(写真-2)の駆体でひび割れ調査して比較しておりますので紹介します。使用材料は表-1の通りで、施工に関しては両者ともに標準を上回る人員をかけて丁寧な施工を実施した事から仕上がりはどちらも良かったです。ここではプラスチックひび割れについては評価しておりません。


(表-1)使用材料内訳

(左)(写真-1)スランプ12cm ひび割れ多数 調査対象800✕800mm
(右)(写真-2)スランプ6cm ひび割れなし調査対象800✕800mm

スランプ12cmのひび割れ 引き渡して5か月で発生
 高スランプ施工 耐久性を考えると簡単に手を出す事は危険

 紹介しました2つの現場は、着工から駆体完成まで全ての工程がほぼ同時期で、加えてひび割れ観察も同じ方角で実施しております。スランプ12cmでは0.04㎜以下のひび割れが多数ありますが、スランプ6cmでは今調査時点では発生していません。スランプ12cmのひび割れですが、完成検査時点では全くありませんでしたので引き渡して5か月で発生しています。この調査は夏に実施した事から、調査から4ヶ月経過した現時点では気温が下がりコンクリートが収縮していればさらに進展しているかも知れません。ひび割れに関しては、完成時に無害とされる幅であっても、高スランプ・スランプ上限要求・締固め不十分な駆体においては、ひび割れ発生・進展リスクも高く、その幅も0.2㎜を超える確立が大きいと感じております。

 ここでのひび割れ調査は柱の天端で実施しております。天端とした理由は、通常のコンクリートは外部拘束によって下側からひび割れますが、丁寧に締固めたコンクリートは下側が十分締まっていればひび割れが生じにくい事、締固めが丁寧であるほどに自由水が天端側へ累積されますので外部拘束で割れる前に天端からひび割れが発生しやすい傾向があるからで、そうした構造物は打設したロッド天端が高品質であれば全体が高品質である事が多いです。そうした視点で見た場合ですと、梁天端は勾配があることから、十分締固められず品質低下する傾向です。ですから勾配のある梁天端で調査すると品質の優劣が分かり易いのですが、足場がないことから柱天端での観察としております。スランプ12cmの現場では、ブリーディングを大量に廃棄して硬いコンクリートに入れ替えようと努力されたようですが、あまりに多いブリーディングだったため、途中で廃棄・入替えを諦めたようです。スランプ8cm以下であればそうした入替えも容易ですが、スランプ12cmでは時間も労力も3倍以上かけないと難しいと思います。
 両者丁寧な施工でしたが、スランプ6cmではひび割れがなく、スランプ12cmでは天端からひび割れが多く発生しております。スランプ6cmにおいては写真以外の所で再振動が遅れた箇所のみ僅かにひび割れが生じていましたが、もし再振動が適正に実施されていたらひび割れは皆無であったか極めて小さかったのではないかと推測しております。ここでスランプ12cmの駆体(写真-1)のひび割れ幅は無害とされる事から問題ないと判断される事があるかと思います。しかし、経験上、高スランプや杜撰な施工においては、例え完成時にひび割れが全く無かったとしても、供用開始直後までに0.2㎜を超えるひび割れが多く発生することも少なくなく、一見綺麗な駆体においても完成から半年後にひび割れ幅0.5㎜を超えるような駆体もありました。付け加えますと、緻密な駆体と比較して高スランプまたは杜撰な施工において特徴的なのは、横方向のひび割れが極端に多い事もあるように感じております。よって、工事完成時のひび割れ幅が例え無害だったとしても、高スランプでの施工や杜撰な施工では近い将来、有害なひび割れに進展する可能性が高い事は言えますので注意が必要です。
 これから高スランプで施工するとなれば、極めて高い技術を有している国内の数少ない技術者を除いては、耐久性を考えると簡単に手を出すのは危険だと思います。これから高スランプのリスクに対する議論は完成した駆体の追跡調査で明確化するであろう横割れがデータ集積された後に何かしらの動きがあるだろうと思います。何事も経験ですし失敗は成功の元と考えれば、いま推進されている高スランプ化ですが、廣井勇博士が追求されたように、ストック効果が高い材料や施工方法が見直されて、一部の技術者は原点回帰するのではないかと期待します。

高スランプへの依存はとても心配
 材料分離が生じるとブリーディングが上層に累積

 ここでコンクリートの効率化について、私の住む九州においても多くの発注者においてスランプ12cmが標準化していると聞いております。おそらく全国でも似たような状況とではないでしょうか。そうした高スランプ化については、高密度配筋の場合に採用するのは理解できるのですが、それ以外に高スランプとするのはとても心配です。高スランプを選択する技術者の傾向として個人的に感じるのは、技術者個人がマニュアル絶対(思考停止)、技術力が低い、技術者倫理が低い、成功体験がない等の条件の1つもしくは複数が見られます。それとは別に、技術力が高い場合であっても会社の理解が得られないと高スランプに依存する傾向ですので、事実上高スランプで利益追求するといった目先の利益を追求せざるを得ない状況があります。それに加えて人手不足もあって、高スランプを締め固めずに充填するだけの施工がなされている事がとても多いです。高スランプは白く仕上がる傾向ですので不具合が目立ちにくい事に加えて、表面の気泡を抜いてしまえば見た目は均一で綺麗(高品質)に見えてしまいます。ですから工事完成時に耐久性を追求されない現状において、施工者には都合が良いかと思います。

 コンクリートは高スランプ低スランプ何れも締固め時間が長い程に強度・緻密性は高まります。ただし、注意点として材料分離が生じるとブリーディングが上層に累積されますので、そうした上層の強度はゼロに近く、それを廃棄しない場合においては駆体にエアモルタル状のブリーディング痕(写真-3・4)が初期欠陥として残ってしまいます。そうした初期欠陥は、高スランプである程に大きな層として残りやすく横割れ(写真-3・4)となる事が多いです。また、低スランプの場合はブリーディング自体が少ないので、横割れに進展しても高スランプと比較すると微細な傾向です。そこで高スランプのコンクリートを使用するときのブリーディング対策として、材料分離する前に締固めを終えるような施工がなされていると思いますが、締固め時間を短くするよりは丁寧に締固めてブリーディングを廃棄するか、最初から材料分離抵抗性の高いコンクリートを選択すべきですので、ストック効果を考えるのであれば短い締固め時間では初期欠陥リスクを回避できないと思うことから費用対効果・耐久性については不利ですのでお勧めできません。


(写真-3)ブリーディング痕 / (写真-4)ブリーディング痕の横割れ

効率化すると緻密なコンクリートの構築は不可能
 費用対効果の高いモノ造りこそがLCCが最適化される最善の道

 ここで効率化について話を戻しますが、私個人の経験において効率化すると緻密なコンクリートの構築は不可能だった事に加えて、周りの構造物が手間不足と思われる初期欠陥で壊れていると思っております。そうしたレベルにある我が国の技術で効率化してしまうとストック効果は今までより下がるだろうと懸念しております。

 時代は違いますが、明治時代の廣井勇博士やお弟子さんの施工は【効率化】と真逆で、硬いコンクリートを多くの人をかけて締固めておりました。そうした時代においても、軟らかいコンクリートを使えば効率化できる事は知られていたはずですが、何故効率化しなかったのか、私たちは考えるべきだと思うのです。いま挙げました偉大な先生方が遺した構造物は、ほぼ建設当時のまま残っているモノがありますので、現代においてどのような施工や材料が良いかについて、これから試行を重ねて議論するべきだと思っております。

 ただ、明治と現代では条件が大きく変化しており、具体的に材料は川で採取されていた良質な骨材は枯渇により使えない事に加えて、施工においてはポンプ車の出現によって圧倒的な効率化がなされた事によって施工技術は長年低下の一途でもあります。これは、何度かこのサイトで申し上げましたが、誰が悪いと言う事ではなく、早く安く造る事が要求された時代が半世紀以上も続いてきたことから、そうした施工が標準化した事で技術の継承が一部途絶えた事もあると思います。そのような品質に不利な状況が標準とされている事から、今まで以上に効率化がなされるとストック効果は圧倒的スピードで低下するだろうと想像しております。

 明治時代から様々な条件が変わりつつも長きにわたって造り続けられたコンクリート構造物ですが、そうした構造物の寿命は近年まで半永久と信じられてきました。ところが、主に高度経済成長期以降に構築された構造物において、私達が現役の間に劣化損傷するなど想定していなかったと思うのですが、こうしたコンクリート構造物のライフサイクルコストは悪化の一途を辿っているかと思います。
 長年早く安く造る事が追求されて、そこに人手不足が深刻化した今、どのようにインフラを構築・維持するかを考えると効率化も一つの道として考え、もう一つの道として、両者を比較した上で維持費が安価でLCCが最適であろう選択をしていくことがあっても良いと思います。
 そして偉人達の遺されたコンクリートと現代の効率化したコンクリートを比較検証できる機会と捉えてPDCAを回す事ができたなら、この国のコンクリート構築に大きな飛躍が待っていると思うのですが皆さんはどう考えるでしょう。

 維持費が少なければ国民はストック効果や供用中の安全等の恩恵を得られる訳ですが、効率化したコンクリートでストック効果は今のところ期待は薄いと思います。コンクリートのストック効果と効率化は現時点の技術で相反する可能性が極めて高く、我が国の厳しい現状でコンクリートについてどうのように考えるか大きな分岐点かと思います。

 効率化と反対側の基本原則的な緻密なコンクリート構築の融合があるのか、あれば試してみたいと思いますが、我が国の関係者の底力と技術者倫理に期待したいと思います。

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