道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか-
第68回 百折不撓で取り組むウルトラファインバブル -想定外の結果に心が折れそうになるが、チャレンジは続く-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.12.01

3.おわりに

 今回の連載は、2023年最後の掲載であることから、干支との関係に触れて話を進める。多くの読者にとって関心が薄いかもしれないが、関西、そして全国の阪神タイガースファンにとって今年は、正に今年の干支に相応しいシーズンではなかったかと思う。阪神タイガース日本一は1985年(昭和60年・干支は乙丑(きのと・うし))が最初である。この年の8月に、日本航空123便が機体後部の圧力隔壁が疲労で破損、垂直尾翼と補助動力装置が脱落し、油圧操縦システムを全喪失して操縦不能に陥り迷走飛行の末、御巣鷹の尾根に墜落し、520名の貴重な命が失われた。この事故で球団社長の中埜肇氏が命を落としたが、その衝撃を乗り越えて選手を含む監督やコーチが奮起し、劇的に優勝を勝ち取ったことは、阪神タイガースファンにとっても喜びが大きかった。今年の阪神タイガースは、新監督の岡田彰布の采配と「アレ」言い換え発言で一致団結し、38年ぶりの優勝を勝ち取った。確かに、阪神タイガース優勝は大きな盛り上がりをみせたことは事実で、経済的効果は969億円とWBC「侍ジャパン」の654億円を大きく超えていることからも日本中のプロ野球ファンが注目し、応援歌「六甲おろし」が大阪を中心に大合唱されたようである。

 しかし、我が国の平和的な盛り上がりとは裏腹に世界は最悪の道を辿っている。それは、欲望に歯止めがかからないロシア、中国、北朝鮮、そしてパレスチナとイスラエルなどである。未だに、ロシア・プーチンのウクライナ進行は止まらず、中国は南シナ海へ無謀な進出を進め、北朝鮮は我が国の上空を飛行するロケットや弾道ミサイルを打ち上げ、そして、イスラエルとパレスチナの戦争は先が見通せない最悪の状態が続いている。2023年、干支を考えれば、過去の努力が実を結び世界一体となって、地球温暖化等の喫緊の課題に取り組み、その道を進んでいるはずである。何か大きな何かが狂ってしまった人間を正道に戻すには何をすれば良いのか、多くの人を導く聖人が待ち望まれる。

 さて、我が国の社会基盤施設に関する状況はどうであろうか? 道路橋における業務は、建設から維持管理へと移行しつつあるのは確かであるが、それが本来の維持管理ではなく、大規模修繕と更新事業が主流である。社会の流れが大規模修繕と更新事業に移るのは止むを得ないかもしれないが、私としては何か情けない気が一杯である。
 それは、プレストレストコンクリート等において、我が国を牽引してきた池田尚治横浜国立大学教授の発言が全てである。池田先生は、「髙木さん、私が首都高速道路公団時代に苦労して設計した大師橋が架け替えられました。私は、何か物悲しい気がしてなりません。人間である私よりも先に、私が設計した貴重な橋梁が寿命を迎え、更新されるとは思いもよらなかった。設計時には、世界最新の技術と設計法で設計・施工した、私の子供のように思っている大師橋が架け替えられてしまった。髙木さん、何でこうなったのでしょうね!」との発言であった。

 池田先生が設計された高速大師橋を図‐26に示す。


図-26 高速大師橋(更新前):高速1号羽田線

 これに近い話は数多く私の耳に入っており、例えば、亡くなられた東京大学伊藤學名誉教授も同様な話(自らが設計に関与した橋梁が架け替えられてしまった)をされ、残念がっていた。我が国の道路橋、特に重交通で重要橋梁である高速道路や自動車専用道路に架かる道路橋は、日々酷使され、一時でも自動車交通を止めることが出来ない宿命を負っていることは私も十分に分かる。しかし、人の寿命よりも短い道路橋が全国各地に架かっていて、順次更新を待っているのが現状であるとするならば、我々技術者は、道路橋の耐久性をどの様に考え、設計・施工してきたのかを自問自答しなければならない。少なくとも、現在の設計基準(道路橋示方書)では、設計耐用年数100年との規定があるから100年以上の耐用年数が保証されているが、それ以前の設計基準で設計された道路橋の耐用年数は、50年程度と誰が決め、言い出したのか私は知りたいと思っている。少なくとも私が設計・施工した橋梁は、適切な維持管理と修繕(補修や補強)を行なえば、耐用年数は少なくとも200年以上は確実に供用できると私は確信し、それを願っている。そして、それが、その行為が地球温暖化(灼熱化)を抑止することに繋がるのである。

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