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-分かっていますか?何が問題なのか-
第68回 百折不撓で取り組むウルトラファインバブル -想定外の結果に心が折れそうになるが、チャレンジは続く-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.12.01

4つの洗浄試験パラメータを設定
 吐出圧力、噴射角、洗浄時間(濡れ時間)の結果はおおむね想定通り

2.2隔靴掻痒(かっかそうよう)の思いで進んだ試験施工
 第3回のUFB水による構造物洗浄は、試行錯誤の結果、第2回で使用したUFB生成装置『BUVITAS HYK-32』によってUFB水生成し、再度洗浄効果がどれほどとなるか、その効果を検証するための試験施工を行うこととした。

 2.2.1試験板を使った洗浄効果確認試験
 第1回目のUFB水による構造物洗浄試験施工では、試験体を使った試験施工も行ったが設定不十分で、結論の多くは実橋を対象とした試験施工結果から導いている。第3回では、実橋で試験施工を行う前段階として、塩分を付着させた試験板を作成し、試験版にUFB水を噴射して洗浄試験を行うこととした。その理由は、実橋の場合、同一橋梁、同一部材・部位を選択しても、付着塩分量が大きく異なる場合が多く、洗浄効果を信頼できる数値で示すには膨大な量の試験施工を行う必要があるからである。試験体を使った洗浄試験施工は、実橋を対象とする洗浄と同様な、噴射ノズル、ゴム系ホース、高圧洗浄車を用いることとし、洗浄試験のパラメータは以下とした。

① 洗浄水の種類
② 吐出圧力と洗浄対象面における面圧力
③ 噴射角
④ 洗浄時間

 洗浄効果確認試験に使用した試験板の形状を図-11に、試験内容を図‐12に示す。


図-11 試験鋼板:洗浄効果確認試験/図-12 洗浄効果確認試験

 試験場を対象として行った洗浄効果確認試験においては、鋼板表面に付着している塩分の除去量に着目して試験を行った。試験鋼板は、塩水(濃度4%)に5秒間浸漬した後、自然乾燥させて塩分を表面に付着させ、その後、UFB水による高圧洗浄で付着塩分を除去し、表面塩分計を用いて付着塩分量の計測を行った。試験状況を図-13に示す。ここで問題となったのは、試験鋼板に付着させた塩分量が均等に浸漬させたにもかかわらず、ばらつきが大きかったことにある。


図-13 洗浄効果確認試験状況:試験鋼板

 (1)洗浄水の種類
 UFB水による洗浄効果を確認する目的で、UFB水と一般水(水道水)を用いて洗浄試験を行い、洗浄効果を比較した。UFB水による試験洗浄は、洗浄前に試験板の付着塩分量を計測し、その後、試験板にUFB水、UFB水(希釈2倍)、一般水、それぞれを離隔距離1.0mで3秒間噴射して洗浄を行った。洗浄水の種類による差異を確認した結果を図‐14に示した図で明らかなように、1回目の洗浄で、UFB水及び希釈UFB水は、8㎎/㎡、0㎎/㎡と塩分をほとんど洗い流し、一般水の場合は、43㎎/㎡と多少塩分が残っている。ここで問題となるのは、1回目の洗浄で塩分除去率を考えると、UFB水は当初付着量352㎎/㎡であることから、97.8%であるが、希釈UFB水は100.0%、一般水は、1,496㎎/㎡が43㎎/㎡であるので、97.1%である。2回目の洗浄結果は、UFB水の場合、完全除去は出来ていない。


図-14 洗浄水の種類と洗浄効果

(2)吐出圧力の影響
 洗浄水が試験板に衝突する強さが洗浄効果に与える影響を確認するために、吐出圧力を変化させた洗浄効果確認試験を行った。離隔距離0.5mで、吐出圧力を0.8、1.0、5.0MPaと圧力値を変化させた場合と、離隔距離4.0mで吐出圧力を1.0、3.0、5.0MPaと圧力値を変化させた場合について2回の洗浄を行った。なお、ノズルの噴射角は10°で1回の洗浄の噴射時間は3秒とした。
ノズル先端から試験板までの離隔距離が0.5mの場合は、図‐15に示すように吐出圧力1及び5MPaの場合は1回目洗浄で付着塩分を完全に除去できているのに対し、吐出圧力0.8MPaの場合は748mg/m2の塩分が残留していた。次に、ノズル先端から試験板までの離隔距離が4mの場合は、図‐16に示すように1回目洗浄後はいずれの吐出圧力とも塩分が残留する結果で、吐出圧力が大きくなるほど、467㎎/㎡、189㎎/㎡、68㎎/㎡と残留する塩分量は小さくなっている。


図-15 吐出圧の差異と洗浄効果:離隔0.5m/図-16 吐出圧の差異と洗浄効果:離隔4.0m

(3)噴射角の影響
 UFB水による洗浄で、噴射角を大きくすることによって、一度に洗浄できる面積が広くなることから作業の効率が上昇する。しかし、噴射角を大きくすると洗浄水が広範囲に拡散するため、洗浄面に働く水の衝突圧が低下し、洗浄効果が低下する可能性がある。そこで、噴射角の違いが洗浄効果に与える影響について洗浄効果確認試験を行った。なお、噴射角は10、30°の2種類で、吐出圧力1Mpa、離隔距離1.0m、1回の洗浄時間3秒で行った。噴射角の影響に関する洗浄試験結果を図-17に示すが、噴射角10°、30°のいずれも1回目の洗浄で塩分を除去できており、この程度の噴射角の違いでは洗浄効果に影響しないことが確認できた。


図-17 噴射角の差異と洗浄効果

 (4) 洗浄時間
 第2回のUFB水洗浄効果確認試験において、洗浄効果に影響するパラメータとしてUFB水の洗浄面への濡れ時間が想定された。そこで、濡れ時間の効果確認試験として、洗浄水を試験板に噴射している時間を変化させて洗浄効果を確認することとした。洗浄効果確認試験は、ノズル先端から試験板までの離隔距離を1m、吐出圧力を1MPa、噴射角を30°とし、洗浄時間1、3、5秒で洗浄を行い、効果を確認した。洗浄時間の違いと洗浄効果の関係を図-18に示す。洗浄効果確認試験によって、洗浄時間1秒では49mg/m2の塩分が残留するが洗浄時間3、5秒では塩分をほぼ除去できていることが確認できた。


図-18 洗浄時間の差異と洗浄効果

 試験鋼板を対象とした試験施工結果から言えることは、UFB水(希釈無し)、UFB水(2倍希釈)、一般水の洗浄効果は、想定した通りの結果とはならなかった。しかし、吐出圧力、噴射角、洗浄時間(濡れ時間)の結果はおおむね想定通りの結果となった。

 

実橋対象の洗浄試験施工
 UFB水と一般水の差異は塩分除去率で10%程度という試験結果

2.2.2 実橋対象の洗浄試験施工
 第1回、第2回と同様に、実橋を対象にUFB水による構造物洗浄試験施工を行い、UFB水と水道水の洗浄効果の差異を検証する目的で行った。洗浄対象橋梁は、第1回、第2回で試験施工を行った同一の橋梁(鋼床版箱桁橋)を対象とし、洗浄箇所を他の範囲に移して行った。

(1) 試験施工の手順
 ①洗浄前調査(塗膜の付着塩分量)
 ②洗浄試験施工(UFB水と一般水)
 ③洗浄後確認調査(付着塩分量等)
 なお、UFB水洗浄試験施工の条件は、第2回の試験施工結果及び試験鋼板試験施工結果から、対象物までの離隔距離;1.0m、吐出圧;1.0MPa、ノズル噴射角;30°で行った。試験施工の方法と条件を表‐1に示す。


表-1 洗浄方法と洗浄条件表

(2)試験施工結果
 第3回目のUFB水による洗浄試験施工が開始された。洗浄試験は、UFB水と一般水の洗浄効果を確認することを主目的としているため、洗浄水には、UFB水、4倍に希釈したUFB水及び一般水を用いて行った。UFB水の生成には、生成時間の短い『BUVITAS HYK-32』を用い、事前にUFB水を生成し、現場に持ち込んだ。一般水を用いる洗浄前には,ホースの内部にUFB水が残っていないように一般水をあらかじめ通水している。また、洗浄箇所は、事前調査で主桁と比較して横桁に付着塩分量が多かったことから試験施工は横桁を対象とした。施工日当日の気候、気温、降水量、風速、風向を表‐2に、洗浄方法を図‐19及び図‐20に示す。また、洗浄状況を写真‐3に示す。


表-2 天候状況

図-19 洗浄方法:離隔距離及び吐出圧/図-20 洗浄方法と測定位置:洗浄方向(縦及び横)

写真-3 洗浄試験施工状況:実橋

 洗浄条件は、洗浄面までの離隔距離を1.0m,吐出圧を1.0MPa、噴射角を30°とすべて共通で行っている。なお、事前に行った試験鋼板を使用した試験施工において、噴射角10°と30°洗浄効果に大きく差異が無かったことから施工効率がより良い噴射角30°を選定している。洗浄方法は、1.0m幅を5分割し、5ラインを1回として1回終了ごとに1ラインごとの付着塩分量計測を行った。なお、1ラインの洗浄時間は5秒間としている。
 洗浄試験施工の結果は、UFB水の場合を図‐21に示す。


図-21 UFB水洗浄結果:付着塩分量

 UFB水による洗浄試験結果は、洗浄前が337.3mg/㎡、第1回目終了時25.0 mg/㎡、第2回目終了時5.9 mg/㎡、第3回目終了時7.6 mg/㎡、第4回目終了時5.9 mg/㎡、第5回目終了時5.7 mg/㎡と1回目で塩分除去率92.6%ではあるが、その後は横ばい状態で完全除去とはならなかった。
 次に、4倍に希釈したUFB水の場合を図‐22に示す。


図-22 UFB水(4倍希釈)洗浄結果:付着塩分量

 4倍希釈のUFB水による試験結果は、洗浄前が280.7 mg/㎡、第1回目終了時9.5 mg/㎡、第2回目終了時5.2 mg/㎡、第3回目終了時6.2 mg/㎡、第4回目終了時6.3 mg/㎡、第5回目終了時6.2 mg/㎡と1回目で塩分除去率96.6%とUFB水より塩分除去率は高かったが、UFB水と同様にその後は横ばい状態で完全除去とはなっていない。

 最後に、一般水の場合を図‐23に示す。


図-23 一般水(水道水)洗浄結果:付着塩分量

 一般水(水道水)による試験結果は、洗浄前が179.9 mg/㎡、第1回目終了時26.9 mg/㎡、第2回目終了時13.4 mg/㎡、第3回目終了時7.1 mg/㎡、第4回目終了時7.4mg/㎡、第5回目終了時6.0 mg/㎡と1回目で塩分除去率85.0%とUFB水.4倍希釈UFB水と比較すると塩分除去率は低く、3回目以降は他の試験施工と同様に高かったが、UFB水と同様にその後は横ばい状態で完全除去とはなっていない。
 第1回、第2回、第3回と同一橋梁を対象に洗浄箇所を変えて、UFB水と一般水の洗浄試験を行ったが、第2回目はほぼ1回の洗浄で鋼材塗装面に付着した塩分を除去できる効果を示した。しかし、ほぼ同条件(UFB生成装置、洗浄方法など)で試験施工を行った第3回目の結果は、先に示したグラフで明らかなようにUFB水の場合は、個数濃度が高くなくても洗浄効果が確認でき、一般水との差異は、塩分除去率で10%程度であった。図‐24に塩分除去量、図‐25に塩分除去率の比較グラフを示す。


図-24 各種洗浄水洗浄結果:付着塩分量/図-25 各種洗浄水洗浄結果:付着塩分比率

 今回行った試験施工の結果は、第2回と比較して驚くべき洗浄効果がUFB水にあるとの結論に至らせるには程遠い結果となった。私としては、当初の意気込は持ちつつも想定外の結果に心は折れそうになったが、百折不撓でUFB水による構造物洗浄に何度でもチャレンジしたいと思っている。さて、私が取り組んでいるUFBの効果を示すチャレンジ報告が何時になるのか私自身も分からないが、読者の方々はその時を期待して待ってほしい。ひょっとしたら、無駄な取り組みであったとの最悪の結論に至る可能性もあるが、私としてはポジティブな考えでUFB洗浄に取り組み続けたいと思う。

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