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-分かっていますか?何が問題なのか-
第68回 百折不撓で取り組むウルトラファインバブル -想定外の結果に心が折れそうになるが、チャレンジは続く-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2023.12.01

2.百折不撓で取り組むウルトラファインバブル

 ウルトラファインバブル水による構造物洗浄の連載は、前々回(第1回)、前回(第2回)と2回に渡って、私自身が肝いりで進めたウルトラファインバブル(以降、UFB)の洗浄効果を検証する試験施工について話題提供してきた。土木系の技術者や研究者にとって、UFBは化学系分野の対象物であることから、UFBを対象に種々な研究等を行っている人は非常に少ない。そこで、学協会の資料を調べたところ、私の身近に学の研究者がいることが分かった。私と同様にUFBに着目して研究を行った土木系技術者には、九州大学の貝沼重信教授(写真‐1参照)がいる。

 UFBに着目したポイントは同じではあるが、貝沼先生が私に対して話したことは「髙木さん、私も同様なUFBの洗浄効果について種々な検証を行っていましたが、実験等を行っている途中でスポンサーから資金を打ち切られ、結論は出せなかった。非常に残念です」とのコメントであった。貝沼先生の発言を聞いて私は、「いつも明瞭に種々な実験結果や分析結果を説明する貝沼先生がUFBについて中途半端な発言をすることは、UFBの洗浄効果を定量的に示すことは容易ではなく、かなり多くの実験と推論が必要であるな」と思った。ここで本論とは離れるが、何時も感心している貝沼先生の研究範囲の広さに関するコメントを紹介しよう。貝沼先生の持論でもあり、私は何度も聞いているが「髙木さん、私は土木分野を超えた他分野に広げた種々な研究を行っています。限定した範囲での研究や分析は、研究者としての視野を狭くします。少なくとも私は視野を広げ、多くの論文を複数の学協会や社会に出しています。我が九州大学における私としては、他の教授、准教授等を大きく引き離しています」との発言がある。UFBにもチャレンジしていたことや研究概要を聞いて私は、貝沼先生への私の評価が正しかったことを実感した。貝沼先生と私は、レベルは大きく違うが鋼構造の腐食に関する課題に取り組んでいることは同じではある。しかし私自身が常にポジティブに取り組む貝沼先生に対しての思いは、羨望の念を抱き続け、私が尊敬する研究者の一人でもある。因みに貝沼先生の公開論文数は、私の知り得る範囲で280編を超えているが、これほど多くの査読論文を社会に出している研究者を私は知らない。話しが横道に反れたがここで本題に戻すとしよう。

 前回の連載で、第2回目の実証実験を行った結果、想像以上のUFB水の洗浄効果を確認したことを報告した。しかし私は、第2回の試験施工を行っている過程や実証実験で得た結論を詳細に確認した時点で一抹の不安を覚えた。その原因は、あまりにも事が上手く行き過ぎたことにある。第1回目の試験施工と第2回目の試験施工の結果は、真逆、180度異なった結論を得たことになる。確かにM氏の提供した生成装置には種々な問題はあるかもしれないが、UFBが装置Bによって生成され、UFB水が排出されているはずである。試験施工した対象フィールドは、同一橋梁で、場所こそ違うが塗装も同じで、目視ではあるが汚れもほぼ同じである。それが、M氏の装置Bから排出したUFB水による洗浄結果は、一般水と同じで差異はない結果となった。ところが、西日本高速道路エンジニアリング関西の『BUVITAS HYK-32』で生成したUFB水は、付着した塩分をほぼ完ぺきに除去する結果を得ている。第1回の試験施工が期待した結果には程遠い結果であったことから、余計に第2回の結果に驚愕したとも思える。また、第2回試験結果が劇的な成果を得られずに、「差異はある」程度であれば、私自身満足し、試験施工を打ち切った可能性も高い。試験施工を進めたもう一つの要因に、UFB水による構造物洗浄に関する論文作成がある。先に紹介した貝沼先生ではないが、新たにチャレンジしたことは社会に出すことが必要であり、その一つが学協会等への査読付き論文の提出し、認められることである。そこで、第2回試験結果を論文作成する場合、第2回まででは対象試験数が少ないこと、限定した実橋における試験結果のみから導いた結論であることなどから、定量的な正しい結論を導いたとするには困難であり、査読結果も同様な評価となる可能性が高い。以上の理由から私は、自分自身が抱いた不安を払拭するために第3回の試験施工を行うことを決め、更なる検証を行うこととした。

 再検証試験施工は、UFB生成装置、UFB個数濃度の確認方法、UFB水による構造物洗浄、UFB水洗浄マニュアル作成に必要な要素の確認を行い、結論を導くために行うこととした。今回の話題提供では、読者の関心度が高い、UFB生成装置とUFB水による構造物洗浄の2点に絞って説明する。

驚きの洗浄効果を示した『BUVITAS HYK-32』
 第3回では別に認証されたUFB生成装置を使って試験施工
 

2.1 ウルトラファインバブル生成装置
 UFB生成装置は市場に数多くあり、使用目的によって生成装置を使い分ける必要がある。第1回の連載では、採用した生成装置によるUFBが十分に機能を果たすことが出来ず、洗浄効果が得られなかった結果を説明した。
 第2回は、第1回で行った試験施工結果を分析した結果UFB個数濃度が十分ではなかったとの結論から、UFBに関連する資料を紐解き、市場にあるUFB生成装置から実績のある生成装置を選択した。幸いに、選択、採用した生成装置を使ってUFB水を生成し、試験施工を行ったところ、期待した効果を超える大きな成果を得ることが出来た。

 ここでキーポイントとなるUFB生成装置についておさらいすると、UFBを生成する方法としては,静電気,超音波,振動子,膜,繊維,およびノズルなどを使う様々な手法がある.また、UFB生成装置の種類としては,超音波によるバブル生成装置,静電気を利用したバブル生成装置,ノズル式バブル生成装置,フラッシュ混合法によるバブル生成装置,旋回液流方式によるバブル生成装置などがある.第1回と第2回でUFBによる洗浄で得た結論は、多種ある生成装置から生成されるUFBの個数濃度がキーポイントであり、個数濃度を対象物の表面等の特性を捉えコントロールすることが必要であるということである。前回の試験施工で驚きの洗浄効果を示したウルトラファインバブル生成装置は、旋回液流方式に区部される西日本高速道路エンジニアリング関西が保有する『BUVITAS HYK-32』で、UFB個数濃度を目標値2億個/㎖とした。一般的には、第2回目の試験施工結果からUFB水による構造物洗浄に使用する生成装置は『BUVITAS HYK-32』が最適との結論を出し、生成装置を限定してマニュアル化するのが常道である。

 しかし、私の判断としては、UFB水構造物洗浄を公的組織の業務で使えるようにマニュアル化した場合、UFB生成装置を限定することには問題があるとの結論に至った。その理由を示すと、公的機関が発注する業務で使用する種々な装置は、公平・公正の理念の基、生成装置を1社限定する場合、洗浄効果について他の装置との明確な差異を物理的に証明できなければ困難となる。特に、UFB水による構造物洗浄が一般化すると、多くの公的組織がUFB水洗浄業務を発注する可能性が想定でき、業務を受託した業者に対してUFB生成装置メーカーのUFB生成装置の売り込み合戦となる。そうなると、第1回目で説明したM氏の装置Bのように期待した洗浄効果が得られない生成装置を使用して請負業務を行う業者が出る可能性が高い。その結果は明白で、洗浄効果にはUSB水と一般水と差異が無いとの結論が多くの公的組織で導かれることになる。最終的には、ここで作成・公開したUSB水構造物洗浄マニュアルは、私がUFB生成装置製作・販売会社を忖度して売り込み、まやかしのUFB洗浄技術論を進めたとの悪しき評価となる。ここで問題となるUFB洗浄のキーポイント、生成装置の選定について私は、公的機関の性能保証に頼ることが望ましいとの判断に至り、一般社団法人ファインバブル産業会(略称:FBIA)が進めている認定制度で認めた装置を基本とし、第3回で認証されたUFB生成装置を使って試験施工することとした。

消火器トップメーカ―のUFB生成装置を用いて実験してみた
 UFB個数濃度は2,890万個/㎖と期待値を大きく下回る

 第3回試験施工で選定したUFB生成装置は、一般社団法人ファインバブル産業会認定のM社生成装置C(写真‐2参照)であり、生成原理はキャビテーション方式(図‐7参照)である。当該生成装置Cを選定した理由は、FBIA認証登録されている装置であること、『BUVITAS HYK-32』とは異なったUFB生成原理であること、過去に多くの実績があること、UFB有識者からの推薦であること、以上の4つ理由である。


写真-2 UFB生成装置:C/図-7 UFB生成の仕組みイメージ:キャビテーション方式C

 当該製品に関するM社の技術陣による事前説明では、「当社のUFB生成装置は、1パス(装置を1回通過)で個数濃度1~2億個/㎖確保できる」とのことであった。説明を聞いた私は、先述の『BUVITAS HYK-32』でUFB生成に3時間を要したことが頭に浮かび、「循環せずに目標個数濃度のUFB水を生成できることは素晴らしい。洗浄現場のハンドリングも非常に良い」との結論に至った。M社の生成装置Cは、先に示す写真でも明らかなようにハンディタイプで現場への持ち込みも簡易であり、1パスで期待するUFB個数濃度が1億を超えることは、UFB水生成時間の短縮とUFB生成場所の確保が必要なくなる大きな利点がある。私は、M社の技術陣が自慢げに行った装置及び原理説明とセールスポイントを聞き、当該装置Cは、採用条件を十分に満たし、この装置を使えば、UFB水構造物洗浄は一般化に大きく近づくとの期待が頭一杯となった。当UFB生成装置Cを開発したM社は、我が国の消火器ではトップメーカ―でもあり、他の部門にも数多くの開発・販売を行っている一流企業である。
 M社が公開しているHPにおいて、自社が製造・販売する複数のUFB生成装置説明には、図‐8に示すように、「瞬時で高濃度に連続生成」と「億単位で生成」が装置の特徴として明記され、装置カタログにも同様な記載がある。


図-8 UFB生成装置のM社説明資料:M社HPより

 私は、M社の種々な機器の性能と販売実績、工場内の種々な施設、UFB技術陣の説明能力などから、生成装置Cの信頼度は高いと判断し、期待は大きく膨らみ、足取りも軽く性能確認試験に立ち会った。私を含め多くの人が期待した生成装置Cの性能試験がM社のフィールド内で図‐9に示す状況で開始された。


図-9 UFB生成装置CのUFB生成確認試験状況

 ところが、生成装置Cの性能確認試験結果はM社の説明とは裏腹に、期待通りとはいかなかった。性能試験結果は、先に示したM社の説明やカタログ数値とは異なり、個数濃度は2,890万個/㎖と期待値を大きく下回る結果となった。図‐10に外部試験結果がUFB個数濃度の確認試験を行った結果の報告書(一部)を示す。今回行った生成装置Cの確認試験結果は、1回の試験結果からの判断であることから、これによって装置Cの性能を決めつけることは出来ないかもしれない。


図-10 UFB測定結果報告書:生成装置C

 しかしM社の技術陣は、当該試験結果と社内試験結果から、私が要求したUFB水の期待個数濃度を装置Cが満たすには、生成UFB水を循環させることを提案した。私の結論としては、M社の技術陣はUFB生成装置の性能開発を進め、種々な分野をターゲットに生成装置の売り込みを行なってはいるが、少なくとも現段階のUFB生成装置Cはカタログ記載のUFB個数濃度確保を満たしておらず、条件を満たすためにはUFB水を循環させることが必要である、との最終判断となった。私個人としての生成装置に関する判断としては、「キャビテーション方式のUFB生成装置は、1パスでは、3千万個程度/㎖の個数濃度生成が限界値である。期待した個数濃度を確保する生成装置として装置Cを適用するには、現状では非常に厳しい。要求性能を満たすUFB 生成装置としてM社の製品を選定・採用するには、M社の技術陣がUFB生成の仕組みと原理を十分理解して更に開発を進め、確実にUFB個数濃度確保できるよう改良し、その生成装置のPR資料を作成することが必要である」以上が結論である。

 生成措置Cは、UFB個数濃度目標値を確保するために現状では、10循環以上させることが必要であり、循環時間とUFB水温度上昇マイナスポイントとなり、選択・採用とはならなかった。今回重要なポイントとなったUFB個数濃度計測は、UFB水に混入しているコンタミ(不純物)が障害となり、正確な値を求めるには高度技術が必要と思えた。

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