道路構造物ジャーナルNET

②(続)鋼床版

鋼橋の長寿命化をめざして

NPO法人橋守支援センター
理事長

坂野 昌弘

公開日:2023.11.01

●沖縄の橋

 さらにもう一つ。
 講習会では、見学会の報告もやりました。
 沖縄では、大阪モノレールと似てますが、一回り小さくしたような構造物を見てきました。

 交差点上等に架ける鋼桁を合成桁化したそうです。大阪モノレールでは、鋼桁は走行面(上フランジ)も鋼材なので、縦断勾配の大きい所ではスリップ防止に溝を掘るなど苦労していましたが、合成桁化することにより、走行面もコンクリートになってスリップの問題が無くなりました。当然、構造的にも合理化できます。
 また、ボルト継手部が腐食上の弱点になることから、出来るだけボルト継手部を減らすために、対傾構や横桁などを減らしています。現場継手部も含めて、全溶接にすれば、防食上も美観上も有利ですが、なかなか難しいようです(現在、架け替え工事中の北陸道手取川橋では、箱桁の外面は、ボルト接合をやめて全て現場溶接とのことでした。やる気になればできるようです)。


沖縄モノレールの合理化合成桁と鋼製脚

 他にも、幾つか海上に架かる橋を見てきましたが、腐食環境が厳しいと言っても、垂直なウェブ面や上フランジの上面など、雨に洗われる面は腐食もなく塗装も経年劣化で若干色あせてはいますが綺麗なままでした。

 よく言われるように、下フランジなど水平部材の下面や、雨に洗われない陰の部分などは腐食が進んでいるようでした。環境条件の違いも当然ありますが、それよりも構造的な特性の方が大きいようです。船底型のように、水が溜まらないように傾きをつける等、構造的な配慮は可能と思います。以前、北海道で、トラス部材の断面を菱形(箱断面を斜め)にして、水が溜まらないように工夫した橋も見たことがあります。冷間曲げの曲げ内半径を小さくするために靭性値(シャルピー値)の大きい鋼材を使ったそうですが、またその後の状況を見に行きたいと考えてます。


海上に架かる、比較的腐食も少なくきれいなランガー橋

 沖縄でもう1橋。海上に架かる一見きれいなニールセン橋です。
 遠目には、綺麗に塗り替えてあるなと思ったのですが、近づいてみて愕然としました。
 アーチリブに何か付いてる?と思って近づくと、写真のような短冊状の鋼材片がアーチリブ上に無数に溶接してありました。塗装塗替えの時に付けたと思われますが、既に錆汁が流れ出し、その他にも、下地処理が十分でなかったと思われる個所も錆々の状態でした。

 近くには滑走路建設地埋め立て用の土砂の採掘場があったり、地域的にもいろいろと事情はあったのかもしれませんが、せっかく造った橋ですので、もう少し大事に扱ってほしいと思いました(以前、高木さんも、有名な某アーチ橋の塗替え時にアーチリブに取り付けたけ吊金具溶接の顛末について書かれていましたが、溶接は、付けるのは比較的容易ですが、取るのと元に戻すのがえらい大変です)。

 その他、引張と曲げが作用する補剛桁に取り付けた様々な部材の溶接部に、写真のような主応力と直角方向の塗膜割れが多数見られ、大型車の通行台数は不明ながら、継手の疲労強度等級と経年を考えると疲労き裂の可能性も危惧される状態でした(しかも、引張力がかかるアーチ橋の下弦材なので、一応FCM(Fracture Critical Member)です)。


遠目にはきれいなニールセン橋

アーチリブ上に溶接された短冊状の鋼材片/アーチリブ上の鋼材片と添接部等の再腐食状況

補剛桁に取り付いた横桁、ラテラル、吊材等の溶接継手部/補剛桁上フランジの横桁取付け溶接部の塗膜割れ(H等級)

(左)補剛桁下フランジ付近のラテラルガセット溶接部の塗膜割れ(H等級)
(右)補剛桁上フランジの吊材取付け部材溶接端部の塗膜割れ(G等級)

 口直しにもう1橋。
 横浜にある水道橋ですが、珍しいトレッスル橋で、在りし日の余部鉄橋を彷彿とさせるような天空に架かる橋です。和歌山の水管橋の事故もあり、見学したついでにトレッスル橋の維持管理について助言を求められました。横浜市民の命の水を供給する最も重要なインフラの一つです。
 因みに、余部鉄橋については、7月の講習会の最初に発表したとおり、最も腐食が厳しい国道上空の径間から撤去した鋼桁の疲労試験を実施し、99年間塩害環境に曝されたにもかかわらず新設時とほとんど変わらない十分な疲労耐久性を有していることを確認しています。
 北陸道を跨ぐ北陸新幹線の海浜耐候性鋼桁と同様に、潮風や海水飛沫に曝されても、雨水で洗い流されている部材はほとんど腐食しません。鋼橋が腐食するのは、維持管理もありますが、基本的に、設計時に構造的な配慮が足りないことが主要因と思います。
昔、国際会議で聞いた以下の言葉が思い出されます。

 “Good maintenance starts with Good design.”


横浜市のトレッスル水道橋(逆光ですみません)

 横浜へは、羽田からスカイブリッジを渡って入りました。スカイブリッジについては皆さんよくご存じと思います。
 羽田側の国道とスカイブリッジとの交差点にモデュラー型の伸縮継手があり、スカイブリッジ側の継手の端部付近のコンクリートに写真のようなき裂がありました。この部位は、地震時にスカイブリッジが羽田側の高架橋に干渉するのを防ぐために、スカイブリッジ側の桁を貫通させたと伺ってますが、伸縮継手は、常時、羽田側の高架橋の伸縮とともに、スカイブリッジ側からの伸縮も受けるので、複雑な挙動と推察します。


伸縮継手端部付近のスカイブリッジ側の割れ

 因みに、伸縮継手に関しては、以前、前後左右上下360°変形可能な高性能樹脂製の埋設ジョイントの耐久性試験をやったことがあり、15年分の温度伸縮試験を2回繰り返しても、継手にき裂や漏水などの変状が生じなかったので30年以上は大丈夫と思います。ただし、輸入品なので高価だったのですが、最近国産化に成功したようで、コストも下がったと聞いてます。
(参考文献:Bridge Maintenance, Safety, Management, Life-Cycle Sustainability and Innovations (Proc. of IABMAS 2020, Sapporo), pp.3637-3643, 2021年)

 横浜では、東神奈川の近くにある米軍キャンプ入口の日本最古の溶接鉄道桁(瑞穂橋梁:1934年製)を見学しました。以前、高木さんが書かれていた田端大橋は1935年製だったと思います。ほとんど同じ時期ですが、後の方は、前の方を参考にできたかもしれません。

 瑞穂大橋の中央径間は下路トラスですがこちらはリベット接合で、側径間の下路桁の方が全溶接です。リベット構造がそのまま溶接構造になった感じで、部材のプロポーションが今の溶接桁とちょっと違和感がありました。溶接も何故か断続すみ肉でした。

 初期の鉄道橋の全溶接桁は、リベット構造の名残か、補剛材が華奢で(リベット構造ではその両側にアングル材が付く)、そのまま溶接すると補剛材上端に疲労き裂が出るので、後で大きくしたようです。もちろん、今は断続すみ肉はありません。

 瑞穂埠頭は外国貿易埠頭として、1925年(大正14年)に着工し1945年(昭和20年)に完成したが、終戦後には連合国の駐留軍に接収され、1952年(昭和27年)の講和条約発効以降は、日本からの提供敷地として、在日米軍が使用している。 2021年3月31日、使用されていなかった鉄道用のレールや周辺の土地など、約1,400 平米が返還された(Wikipedia「横浜ノース・ドック」より引用)。とのことで、誰に返還されたか分かりませんが、このままだと鉄屑として捨てられるのでしょうか。今のうちでしたら見学は自由と思います。

 因みに、瑞穂橋梁もトレッスル水管橋も、日本大学の谷口望教授のご紹介ですので、詳細は谷口先生にお訊ねください。


日本最古の溶接鉄道橋(瑞穂橋梁、手前の下路桁)

 その他にも、薄型BP支承への交換工事や、珍しい「扛上」工事の事例も紹介されてますので、是非関西支部のHPをご覧ください。維持管理の「知恵」が詰まってます。
なお、次の新しい委員会のテーマは「鋼橋の長寿命化に対するインハウスエンジニアの技術力向上に関する調査研究委員会」で活動を始めています。委員長は福井大学の鈴木啓悟准教授に交代し、世代交代を図っています。
 植野さんもインハウスエンジニアについて書かれていましたが、結局何をやるにしても最初から最後まで「人」ですね。
また2年後に、講習会を予定していますのでその節はよろしくお願いいたします。

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