道路構造物ジャーナルNET

第93回 「包括管理」と「群管理」

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.10.16

点検3巡目、第2フェーズにおいて重要なのは『セカンドオピニオン』
 点検の結果が、コンサルの言いなりでは、その後の対処が危ぶまれる
 

4.診断精度「セカンドオピニオン」
 インフラ・マネジメントに関して、これまであまり議論されてこなかったが、聞くと「やっている」という答えが返ってきていたが、セカンドオピニオンによる正確で公平な診断ができているか? と言うことが、3巡目、第2フェーズにおいては重要となる。これが必要と感じている自治体の職員の方も多い。
 富山市においては当初から「セカンドオピニオン」制度を導入して、全数の診断協議を行っている。これによって診断結果の精度も向上してきたし、平準化もなされてきた。次工程である補修への移行もスムーズに行っている。ただし予算の関係から、全てが実施できるわけではないのが実情であり。その辺は政治的理解が必要な部分であると思っている。

 点検の結果が、コンサルの言いなりでは、その後の対処が危ぶまれる。自分たちで適正に判断しなければ、税金の無駄遣いをしていくことになったり、危険なものを放置したりしてしまう。富山市に例を挙げると、安易に「断面欠損」だとか、「ASR」と言えば済むと思っている。黙っていると職員もそれを信じてしまう。診断とは原因までを指定し判断できなければならないが、安易な業者も多い。おそらくは経験が乏しいのだ。そもそもが測量業務や設計も経験数が少ない者が現場で構造物を見て、判断するのは難しい。


設計不都合を是正した新設橋梁例

 ひび割れは誰でも見ればわかる。小学生でもわかる。そのひび割れの深さや出来方から現象を把握して、機材などを使わないと診断は無理である。評価がⅠの物は良いとして、Ⅱ、Ⅲの物に関しての疑わしいものに関しては、もうちょっと厳密な原因特定が必要であろう。

 なので本来は非破壊検査技術が必要であるはずなのだが、その非破壊検査技術に関して正しい知見を持っているコンサルは少ない。なので、点検と言えども、いつまでもうわべの擦り傷、ひどくて切り傷を見ているようでは、骨折やもっと奥の問題は見逃していくだろう。さらには、建設当初の計画・設計や施工に問題があるのも今のままではわかりずらい。この辺をどうしていくつもりなのか? である。

多くの知見が無ければ見誤る
 自分で、なるべく多くの橋や構造物、現場を見ること

 前に誤診の話をしたが、私が胆石の疑いで入院した際に、最初はレントゲン⇒超音波⇒CT⇒MRとやっていき、最後に内視鏡を膵臓近くまで入れて膵管を通して診ると言われたが、教授回診で教授が担当医ともめた。「なんで、この人に危険な検査をする必要があるんだ?見つからないならば、様子を見ればよいだろう。丈夫そうだし!」で避けられた。この検査法は、時々膵臓を傷つけ、命に関わるようである。また、女房が交通事故で、診断を受けた際に、担当医は簡単に「ああ、打撲ですね」でカルテを書いて終わろうとしたので、レントゲン写真に疑問を抱いた私が「先生。この肋骨に有る筋は何ですか? これは骨折ではないんですかね?」というと、慌てて見直し「はい。骨折ですね? もしかして、あなたはドクターですか?」と言われた。私は「いやあ。骨折は見慣れているもんで。」と答えたが、危うく誤診されるところであった。これは両方とも大学病院での話である。

 ということで、冷静な判断。多くの知見が無ければ見誤る。緊急なのかそうでもないのかもある。私は良く現場で、その橋が危険なのかそうではないのか?「匂いで分かる。」と言う。良くこれを言うと笑われるが、これは実際の話なのである。動物的勘と言うか?なんというか、危険かどうかは瞬時にわかる。これは地形や架橋位置構造などから感じられる。とにかく現場を知らない方々が多い。「まずは地形からよめ」と昔先輩から教え込まれた。自分で、なるべく多くの橋や構造物、現場を見ることである。

 セカンドオピニオンは重要なのである。現状として正しい点検結果が出ているかどうかというのは疑問である。そして正しい補修設計につながっているのか? その重要性に気づかないといつまでも同じことを繰り返す。地形など計画時に立ち返ることも重要である。

「新技術の導入」と「包括管理、群の管理」
 開発的思考をもって、新たな技術、新たな仕組みの導入が必要

5.まとめ
 とにかく今、「新技術の導入」と「包括管理、群の管理」は重要である。これは、当たり前の話なのである。私は「富山市橋梁マネジメント基本計画」の中に、真っ先に書いている。「橋梁トリアージ」だけではないのである。これを理解してやれば効率は上がるであろう。開発的思考をもって、新たな技術、新たな仕組みの導入が必要なのだ。これは何が正解で何がダメというものでは無く、多くの場面では失敗を繰り返しながら、自分たちに適切なやり方を模索していく必要がある。最初に自分たちの分析が必要なのだ。役所は、意外と勉強していない。これは世の中の情報をと言う意味であるがアンテナが低い。そして失敗を恐れるあまり、新たなことができない。

 インフラ・マネジメントを行っていくうえで、現在、一番抜けているものは、補修材料と補修工法であると思う。新技術のところで少し書いたが、誰も評価できていない。点検は、確認作業である。ここに予算と労力をかけているとその先が苦しくなる。診断はと言うと正確な診断は難しく、診断しても直せなければ意味はない。安易に、ひび割れ注入を行い満足しても、再劣化は始まっていく。この効果の確認ができない限りは水が浸入しないようにと言うだけである。
 最近の議論を見ているとどうも、「物を作る」と言うところからの議論が抜けている。ここをしっかり考えておけば、インフラ・マネジメントに関してもだいぶ先が見えてくる。実際に物を造ったことがない者が、いろいろ言っても真実味が無い。デザインは別世界の話である。デザインが必要なものは、それを追求すればよいのだが、本当にそんな橋はどれだけ存在するのか?

 ある所の議論で、斜角のきつい橋のことが揚げられていた。その場では、何もあえて語らなかったが、実際に仕事をしていると、おかしいほどの厳しい斜角を付けた橋が出てくる。線形もしかりである。橋梁メーカーでも、弱小橋梁メーカーに居たので、そういう橋がたくさん回ってきた。弱小メーカーには結構難しい線形や構造となるものが回っていくのが現実である。もしかしたら、そういう難しいものを作っているので、弱小メーカーの技術力の方が高いかもしれない。斜角のきつい構造では、複数の格子計算を行い比較し、さらにFEMで解析して結論を出していた。格子計算の解析ソフトはソフトによって答えが微妙に違ってくる。単純な構造では多くのソフトで同じ答えが出てくるが、特殊な構造では答えが変わってくる場合がある。鋭角な部分に力が集中するわけである。そもそもがそんなに鋭角な角度を持った橋が本当に必要なのか?といつも疑問に思っていた。まあ、やれと言われれば計算はできる。これがその後どうなっていくのかは、大体予測がつくが、わからない人たちに説明しても理解はされない。結局は事故につながったり、インフラ・マネジメントが難しくなったりするだけではなく、結局はコストを上げている。これも理解できないだろうなあ。

 某所の50周年にあたり聞き取りをされて改めて思い出したが、意外と私は、「政策的業務」に携わっていた。構造物単体ではなく、大局的に俯瞰的に見る仕事である。それがマネジメント思考の基本になっていた。インフラ・マネジメントの重要性は実は言われて久しい。物を構造物をどうマネジメントしていくかは、様々な考え方があるが、如何に簡単に単純に考え直していくかが重要である。特に自治体はそういう考え方が必要であると思うのだが。

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