道路構造物ジャーナルNET

第88回 維持管理は手作り

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.05.16

4.今後必要と思われるもの

世の中いろいろ言われているが、もうすでに、笹子から10年たっている。少なくとも、すでに2回ずつの点検は終了しているはずである。なので、まさに次のステージへと向かわなければならない。次のステージで何をやるべきか私の考えをここで述べる。

  あくまで、植野流の考えであるので、正攻法とは違う。まずここで言いたいのが、同じインフラ・メンテナンスを実施するにあたっても、まずは組織によって異なるということを理解してもらわなければならない。国と同じことをやっていると自治体は破綻する。
 ドローンの使用では、君津市が有名であるが、そこでも古明地さんと言う若手技術者が苦労して使用法などを確立していったから、すごいのである。さらに、熊本の玉名市では、木下さんと言うのが、やはり相当苦労して「DIY補修」と言うのをやっている。それぞれが工夫をして自らの場所に合ったやり方を導入している。
 私の場合は、安易な検討結果は厳しく否定しているので嫌われているが、それは事実を言っているのである。維持管理は非常に難しく、未だ技術が確立していないと言ってよい。どうすれば補修できるのかと言う明確な判断が難しい。コンサルやシンクタンクは職業柄、自信(?)満々の態度で説明する必要があるが、彼らが、どこまで知見が有るか?最新の情報を持っているか?と言うところも重要である。一番の欠点は自分でやった経験がないというところであろう。まがりなりにも、私は橋梁の経験が40年以上ある。そして、計画・設計・施工・維持管理さらに基準策定、システム開発・運用、非破壊検査、研究開発や審査証明、そしてPPP/PFI事業を自らやってきた経験を有する。本来は維持管理を行っていくためにはこの程度の経験が要るのは海外ならば当たり前である。残念ながら日本の技術者は偏りがちで一部分の経験しかない。


良い技術者は壊れ方を知っている/簡易なモニタリングシステム設置例

 例えば、一番の導入部の点検であるが、手引きに基づいていれば良いことにはなっているが、それで本当に良いのか?表面だけを見ていてよいのか?点検者に設計の経験があればまだよいが、そうではない者もいる。
 点検して診断するということになるのだが、この時にコンサルと役所の担当者が十分に納得のいく協議ができているか?と言うことも後々問題になるだろう。我が国における医者の誤診率については、公称で言われているのが40%と言うことである。しかし90%だという人もおり、中には99%だという人もある。つまり、非常に難しいどころか、正しい診断は無理だということである。世界的に見れば80%だろうという記述もある。なので構造物はどうか?というと、なかなかむずかしい。全数近接目視点検と言うことでやられてはいるが、そもそも現在の点検の手引きが表面のひび割れを目視で検出することになっており、表面しか見ていない。つまり、擦り傷ぐらいしか見れていないので、それで診断と言うのはおこがましと前から思っている。表面の状況しか見れずに何がわかるのか?
 かつて交通事故にあい、病院でレントゲンを診ながら医師と話したときに、医師の判断は「打撲」であったが、不審な線が骨に入っていたので「先生この線は何ですか?これって骨折じゃあないの?」というと、慌てて見直して、「確かに骨折です。」と言う。そして、「もしかして、ドクターですか?」と言うので「いえ、エンジニアです。」と答えると不思議そうだったので、「武道をやっていて骨折は見慣れているので。」と言うと納得していた。なので診断は難しい。安易に診断とは言わないでほしい。

 実際の構造物の点検ではいわゆるX線まではやらない。と言うことは判断する情報量が少ないのである。確実な判断診断をしたいの誰葉情報量は多いほうが良い。なぜ、詳細点検まで行こうとしないのか?お金がかかると言われそうだが、必要ならばやる必要がある。安易な診断をして、安易な補修を行えば再劣化は起きる。
これまで、点検の診断協議なのでなかなか業者の方から詳細点検の提案は出てこなかったが2巡目になってやっと出てきた。良い傾向である。今後は、どう判断していくかと言うことに議論が発展すればよいと思っている。
 その時にキーとなるのは、「非破壊検査技術の知識」と「解析技術」であると考えている。何らかの方法で、構造物の内部まで診断すること、さらには、解析技術を使い、現在の状態も反映させながら、その構造物が安全な供用に耐えうるのかの判断が重要となる。評価Ⅲにおいても、保守できない状態はおそらく続く、その際に管理者としてどう判断するのか? 使ってよいのか止めるのか?の判断を責任をもってできる手法の確立が重要となると考えている。これができて新技術であるとおもうのだが。

5.まとめ

 最近、地震が多い。5月5日に石川県珠洲市にて震度6強。11日に千葉で5強とつづけさまに有った。
 珠洲市の自信は個々のところ続く群発地震で、心配していると、ある所から調査依頼が来たので6日に金沢まで入り、7日に能登町、珠洲市とみてきた。思ったより、被害は少なく、民家の方の被害が大きいのだろう。珠洲市の岸壁の液状化もさほどではなかったので安心した。何よりも、路面の状況も心配したがこれもさほどではなく、通常に通行できた。ただ、クラックは発生していた。


地震による損傷が疑われるトンネル(左、中)/岸壁付近の道路の損傷

 東日本大震災では、震源から離れた関東でも道路が波打っていた。橋梁端部では段差ができ通行できない箇所もあった。それが震度7と6の違いか?その時も聞かれたが日本の構造物は、震度いくつまで耐えるか?と言うことであるが、簡単に言うと、示方書や基準では6までは保つことになっている。当該構造物の状況や地盤状況によっても異なる。しかし、これは、適切な設計、適切な施工を行った場合である。ただ、阪神大震災の跡などは、壊れた構造物から施工不良が見つかっている。私は個人的に地方の構造物は、やばいと思っている。
 緊急地震速報という物があるが、動物のセンサーはそれ以上に優れている。ミーの様子を見ていると地震の大きさが早期に想像できた。緊急地震速報の前に察知もしている。センサーの重要性有効性も活用していく必要がある。モニタリングシステムの重要性にも皆さんそのうち気付くであろう。この時に、どの湯なものを設置するかである。実用に適したものを設置しなければ意味がない。ここでも何点か紹介してきたが、地方では、なるべく簡単な安価なものが有効である。どんな良いものでもつけられなければ意味は無く。付けても、中身が分からなければ意味は無し。よく「しきい値」にこだわる方がいるが、しきい値も実際には意味がない、研究で付けるならば意味があるが我々は実地に判断する材料にしたいのである。

 今後、我々は、老朽化対策と災害対策を同時にこなしていかなければならないのである。動物的勘で、安全性を察知して、早期に対応ができればよい。現場に行き、地形や地盤を診ながら構造物を判断するという総合的な感覚も重要である。
 役所と言うところが本来新技術に対して否定的であった。従来通りのやり方を重んずるからであるが、それでは間に合わなくなってきている。それがわかっている人たちは、様々な工夫をしているわけである。
 ここでこんな好き勝手なことを書いている私であるが、インフラ・メンテナンス、マネジメントを行っていくうえで、一番重要なものは、「協力者」であると考えている。やっと、「総力戦」と言われ始めたが、これは重要である。特に専門的知見を持った協力者は千人力であり、これまで、協力して下すった方々には感謝申し上げるとともに今後ますます協力をお願いしたい。老朽化と耐震、対災害と言うのはいつどのような形で来るかわからない。できるだけ早くできるだけ、安全な形にしておかなければならない。完全な形の補修補強と言うのはおそらく無理であるので、なるべく被害が出ないようにしていかねばならない。それぞれの役割分担も重要となってくる。造る時代の遅い判断では間に合わない可能性が高い。迅速な判断での安全確保が今後重要である。(次回は6月16日に掲載予定です)

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