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第45回 連続立体交差工事など、狭隘箇所で施工する高架橋

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.05.01

2.3 高架橋の構造
 構造計画の基本方針に従い、以下のように、構造を決めていきました。

(1)線路方向をスパン15mとする
 42か所ある交差道路は10m前後の小規模のものが多く、線路方向のスパンを15mとすることで、標準高架橋で19か所の交差道路を横断できます。また、10m、12.5m、15mのスパンでの経済比較では若干15mスパンが経済的であったので15mとしました。

(2)径間数
 径間数は1日のコンクリート打設量から、施工場所が狭隘であることより400m3以下とするように考え、スラブの施工から約60m程度となることから3から4径間としました。

(3)杭の構造
 柱との接合を鋼管巻き構造とすることで、杭施工時の口元管と鋼管を兼ね、杭断面以外の土の掘削をなくす構造としました。杭と、柱の接合部の構造を図-7に示します。


図-7 杭と柱の接合部の構造と先端プレロード杭

 (4)道路から施工現場への進入口
 進入の支障にならないように柱間の幅を確保できる構造で、かつ、支承のないラーメン構造とすることとしました。そのため、スパンの大きな道路側の柱は、大きさの同じ柱を2本縦に並べる3径間のラーメン構造としました(図-8)。


図-8 スパンの大きな道路上のラーメン構造

 道路と交差するためにスパン長が25mを超える箇所が10か所ありました。表-1にその一覧を示します。


表-1 道路との交差箇所

 桁高制限を受ける9箇所の架道橋はこのスパンをPRC構造としました。また中間柱は、鋼板巻きRC柱、あるいはコンクリート充填鋼管柱を2本線路方向に並べることで、大きな反力に耐え、柱幅を大きくしないで済むようにしました。道路からの資機材の搬入が、柱間の工事用通路にスムースにできる構造としました。

(5)高架橋の接続方式
 高架橋同士の接続は、一般に張り出し式、ゲルバー式、背割り式等が使われています。施工速度などからは張り出し式が有利で、東海道新幹線はこの方式が標準です。東海道新幹線のスパンは6mで、張り出し長も3m程度で済んでいますので、張り出し式でも可能ですが、スパンが大きくなると、RC構造の張り出しで、等径間のようにするのは難しくなり、径間が張り出しの部分だけ短くなります。バランスがあまりよくないので不採用としました。張り出し部だけプレストレスを加えて等径間にした例もありますが、今回は採用しませんでした。
 ゲルバー式は山陽新幹線以降、スラブ軌道の目違い防止に有利ということで、またスパンが10m程度の山陽新幹線以降の高架橋のスパンと合わせて造られています。この構造の問題は、ゲルバーの桁受部の施工が難しく、支承部がメンテナンス上の問題を生じやすいことと、隣同士の高架橋が完成してから、間に単純桁を施工するので、工期が伸びる点があります。
 背割り式高架橋は、高架橋の接続部は1本の杭に2本の柱を施工して、それぞれの高架橋とする構造です。施工速度は桁の施工がないので早く、また張り出し構造もないので、等径間の高架橋となります。ただし、背割り部の柱を同じ杭につくるので、この配筋と施工が若干面倒です。
 スパンを15mと今までより大きくすることと、施工スピードの速いこと、等径間にそろうこと、支承のないことなどを考慮して背割り方式の接続方式としました。

2.4 地中梁をなくすため先端プレロード杭の開発
 写真-1に示すように杭の鉄筋かごの先端に固化剤を注入する袋を取り付けています。杭のコンクリート打設が終わり、コンクリートが固化したのちに先端の袋に固化剤を、圧力をかけて注入します。その圧力で、先端のスライムも押し出され、また杭先端にもプレロードがかかります。高架橋のすべての杭700本に適用しました。


写真-1 先端プレロード杭の鉄筋かごと袋

2.5 耐震性を大幅に向上させる内巻きスパイラル鉄筋の開発
 耐震設計の地震力が地震のたびに大きくなる方向で改定されてきているので、大きな地震でも耐えられる配筋が低コストでできないかの検討を行っていました。それができれば、L2地震の大きさが少々変わっても、既存不適格などの心配がなくなります。また、実際の地震の大きさが、設計基準で定められたものよりも大きくても安心です。
 柱の供試体で大変形を繰り返すと、柱の帯鉄筋は主鉄筋が降伏して伸び、それが圧縮を受けると座屈します。その時に主鉄筋が帯鉄筋を弾き飛ばすような作用をしていることが実験を観察するとわかります。帯鉄筋の中のコンクリートも飛び出して耐力を失うことになります。帯鉄筋を主鉄筋の外側でなく内側に入れて、内部のコンクリートが飛び出さないように保持しておけば。内部のコンクリート断面は大変形でも有効に働くことが想定されます。
 実験をした結果、スパイラルを柱のヒンジとなる約1Dのみに軸方向鉄筋の内側に入れておけば、大変形でも耐荷力が落ちないことが確認できました。図-9中の右に大変形時の損傷の状況が写真に示されています。かぶりが落ちてしまいますが、スパイラルとその中のコンクリートは残っています。
 図-10に柱での交番載荷実験の荷重と変位の関係を示しています。通常の帯鉄筋を目いっぱい入れた場合よりも、その2倍以上の変位でも荷重の急な低下は起きていません。この荷重-変位の囲まれた面積がほぼ耐震性能を示しますので、内巻きスパイラルを配置しておくことで、ほかの配筋が同じなら2倍以上の耐震性が得られることがわかります。設計面ではこの効果を特に考慮せずに、コスト増はほとんどないので、その後のJR東日本のすべての新設の高架橋に、この配筋を採用しました。


図-9 大変形時の損傷の状況

図-10 交番載荷試験での靭性率と荷重比

 写真-2は、柱に内巻きスパイラルを施工した時の状況です。特に近接工事のための技術開発ではないのですが、この三鷹-立川間の連続立体交差工事から、この配筋をJR東日本の高架橋に全面的に使い始めることになりました。


写真-2 柱内の内巻きスパイラルの配置状況

2.6 施工の状況
 設計時点で地中梁をなくしたり、杭と柱の接合部を地表付近にしたり、スラブは埋め殺し型枠とするなど、設計時点で配慮したことで、施工中、常に柱間を工事用の通路に利用できました。写真-3は柱施工時の工事用通路の状況です。
 写真-4はスラブと梁の施工途中の状況です。


写真-3 柱間の工事用通路

写真-4 スラブと梁の施工準備

2.7 完成時
 写真-5は完成時の状況です。中央線は高架橋の上を走っています。仮線としていた場所は、道路として高架橋沿いに整備されました。


写真-5 中央線の高架橋の完成時

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