災害の話は終えて、今回は鉄道会社の行う工事のうち、高架橋について記します。都市部の高架化工事が中心で、狭隘な施工場所での工事となります。そのような場所での構造についての配慮すべき点について紹介します。
最近、国内の鉄道工事は新線建設は少なく、多くは連続立体交差工事や改良工事や駅の上空や地下の開発工事などです。連続立体交差工事とは、踏切を一気になくすためにある延長区間を高架化して、道路と鉄道の平面交差をなくす工事です。工事費は、鉄道側は高架下利用での収益や、施設が新しくなる分などとなっており、その他は道路側での負担となります。鉄道として必要な高架化工事は鉄道で負担します。東京駅の中央線の重層化の工事や、上野―東京ラインの工事はそれに該当します。
東京駅の中央線の重層化工事は北陸新幹線の開業に合わせて新幹線のホームを増やすことになり、そのため在来線のホームが減ることとなり、その減った分を補うためさらに1層上に中央線のホームを造った工事です。いずれの場合も今の線路とつながるために、列車の運行している線路のそばでの工事となります。施工環境が制約されるので、その環境で施工しやすい構造形式を考えないと、平地で造る場合の工事費の10倍以上もの工事費がかかることになります。そのような制約された環境下での高架橋の構造形式をどうしたらよいのかの解決事例を紹介したいと思います。
1.工事現場がウナギの寝床での構造について
私は国鉄時代から多くの構造物の設計や施工に係りました。その多くは新幹線建設を中心とした比較的施工条件に制約のない場所での、橋梁や高架橋でした。国鉄が分割されJR東日本に配属となり、新幹線の建設は鉄道運輸機構が担当となりました。
JR東日本の担当している構造物の工事は、在来線を高架化する工事や、河川改修に伴う鉄道橋の改築工事や、駅の線路上の開発工事などが中心となりました。仙台の工事事務所から、東京の工事事務所に、JRになって5年目に転勤しました。仙台での工事は、PC斜張橋の青森ベイブリッジやPC斜版橋の名取川橋梁の改築や仙石線の地下化工事など、国鉄時代の私が主にかかわった工事とあまり変わらない建設現場でした。
首都圏の担当になって、まず赤羽駅の高架化工事を見に行きました。新幹線高架橋の隣に、在来線の東北線や京浜東北線などすべての線路を順次高架化する工事でした。左右に列車が走っているスペースで高架橋を建設しています。
狭いスペースで資材を運搬して、重機を動かしての工事です。新幹線などで採用している標準的な高架橋が施工されています。杭を施工し、地中梁の施工のため土留めを施工し掘削しています。掘削した地中で鉄筋や型枠を施工します。掘削したままでは、資機材が運搬、移動できないために、掘削したうえに桟橋をかけて通路を確保するということで施工を進めていました(図-1)。
図-1 赤羽駅の高架化工事
このような大きな駅の構内の工事計画は、鉄道の技術分野では停車場屋といわれる人たちが中心に行っていました。線路を順番に一時的に変更しながら、スペースを作り出し工事を進めるので、その線路をどのような順番で列車運行に影響させないで切り替えていくのか、線路の線形をどう変えていくのか、などの専門の技術集団です。
新線建設の集団は高架橋や橋梁の計画と施工を主に行いますが、停車場の専門集団は線路の切り替え順序の検討が中心で、構造物についてはほとんど検討せずに、既存の構造を当てはめていきます。私も、停車場の改良工事は、線路の切り替え計画が面倒なこともあり、あまりその分野には国鉄時代は注意を払ってきませんでした。
国鉄の分割民営化で、JRに配属されたことで、多くの工事がこのような線路のそばや、線路に挟まれた空間での工事になるので、停車場の分野の構造物に注意を向けざるを得ないことになりました。
この赤羽駅の高架化の工事費を調べました。工事費の半分が地中梁の施工に係る工事費でした。このような狭い空間で、制約の少ない平地での高架橋と同様に、地中梁のある構造を採用したことが、工事費、工期を大きくしている大きな原因でした。
狭隘区間での高架橋から地中梁をなくそうと思い、鉄道の先輩の先生方などを集めて意見を聞きました。松本嘉司先生からは、場所打ち杭は施工の信頼性がないので地中梁をやめると、軌道変位が生じてしまう恐れがあるという心配を言われました。泥水での場所打ち杭の先端のスライムの処理はかなり怪しいのは事実です。
東北新幹線の工事で都市部をシールドで施工したとき、既設の場所打ち杭先端を掘り出したときに、先端に1m近くのスライムがあったとの事例も聞いていました。池田俊雄先生からは、場所打ち杭の先端の信頼度を高めるなら地中梁をやめても良いでしょうと言われました。
その意見をもらったことで、杭の先端の信頼度を上げる方法の開発を始めました。杭の鉄筋かごの先端に円形の袋を付けて掘削した後に挿入し、コンクリート打設後に袋にモルタル注入しようと考えて施工試験をしました。水中に袋をうまく沈下させることはなかなか難しく、袋の形状を下に凸にし、かつ中心に穴をあける構造にし、何度か袋を付けた鉄筋かごの、水中での上下に動かす施工の試験を繰り返し確認しました。
次に、せっかく開発するので、杭の支持力を上げることも含めて認めてもらおうと、土木と建築両分野の杭の先生や行政の技術者などを入れて委員会を作りました。特に建築は東京都の基準の先端支持力が非常に小さく規定されているので、これを国の基準まで上げてもらうことを考えました。
委員会は、実杭を作っての載荷試験で証明することが基本でした。砂礫、砂質などで実杭の載荷試験が求められました。開発をやりかけたので委員会での結果が出るまで行いました。杭の開発は実杭の載荷試験が求められるということで、非常にコストがかかるということをこの時知りました。委員の先生方の納得してもらえる試験も行い、土木、建築分野で使える先端プレロード杭の開発ができ、広く使えるルールができました。
泥水を用いて掘削する杭でも、高架橋で地中梁をなくすことが、この先端プレロード杭を使用するということで可能となりました。
この杭の開発の後に、新たに杭の支持力に関する開発をしようという意欲はわかなくなりました。実杭での載荷試験が求められ、かつ地盤ごとに、と言われると、開発コストが大変です。この先端プレロード杭の開発はかなりのコストをかけてしまいました。
この分野の、技術開発が進むような低コストの確認試験の方法が必要です。すべて実杭による載荷試験が求められる状況では開発コストがかかりすぎて、新たな杭の開発をしようと思わないでしょう。低コストで開発可能な仕組みを地盤関係の関係者は考えてほしいと思っています。この杭の開発には、非常にコストをかけましたので、多くの分野で活用していただけたらと思っています。
鉄道の連続立体交差工事などでは、構造物の幅のみ、あるいはそれ以下の用地での工事となることが多いです。その場合、工期、工事費に大きく影響するのは工事用の資機材の搬入、搬出路を施工現場内に常時確保できる構造形式を考えることができるかどうかです。
三鷹-立川間の中央線の立体交差化工事の例と、最近開業した京葉線の新駅の幕張豊砂駅の構造を紹介します
2.中央線三鷹-立川間の連続立体交差工事
2.1 工事の概要
工事区間は図-2に示す三鷹-立川間約13.1㎞です。平面と縦断を図-3に示します。
図-2・3 三鷹-立川間連続立体交差事業の概要
施工方式は仮線方式といって、最初に今の線路の脇に仮の線路をつくり、そこに列車を通すようにします。今まで走っていた線路を撤去しそこに新しい線路のための高架橋を造ります。完成したら仮の線路から、新しい高架橋の線路に戻します(図-4)。
元の線路の用地に新しい高架橋がつくられるので、新たな用地は鉄道用地としては不要です。でも仮線の用地は買収するか、借りるかで確保することは必要です。今回は仮線の用地は、都の道路として利用されることで、計画されました。
図-4 高架化工事の施工順序
2.2 構造計画の基本方針
(1)施工現場内に常時工事用道路を確保できる構造
赤羽駅の高架工事の施工のころ、計画が進められていたのが、三鷹-立川間の連続立体交差工事です。今までの地中梁のある構造では工期もコストも膨大にかかります。図-5のように線路と住宅に挟まれた工事区間での高架橋工事では、地中梁を施工するために掘削工事を行うと、工事用の通路がなくなり資機材の運搬や移動ができず、工期も大幅にかかってしまいます。
図-5 地中梁がある場合は工事用道路に支障
それを解決するためには地中梁を全面的にやめて、杭と柱の接合も地表付近にすることで、掘削を杭以外は行わない構造とすることとしました。そうすることで図-6のように左右の杭間はいつでも資機材の移動が可能となります。
柱、梁、スラブの施工中も柱の間を工事用通路として常時利用が可能な構造とすることとしました。スラブには埋設型枠を用いています。
図-6 地中梁をなくし掘削が杭以外なくなることで、常に工事用道路が使える
(2)メンテナンス上問題を生じやすい支承をすべてなくす構造形式
構造計画に当たっては、さらに、メンテナンスの問題となっている支承を一切なくすという方針としました。