2.2 構造物概要と対策
図-6は、被災箇所の地質と構造物の配置図です。
被災した構造物は、1933(昭和8)年の線増工事の時に造られた、半重力式土留め擁壁です。
図-6 地質と構造物配置図
図-7に土留め擁壁の断面図を示します。
図-7 土留め擁壁断面図
この土留め擁壁を補強し、グランドアンカーにて擁壁変位を抑え、土水圧に安全な補強をすることとしました。
まずは応急的に上段のグランドアンカーを、現状の土留め擁壁の耐力と地盤の支持力の持つ範囲で施工しました。その後、土留めを補強して必要なアンカーを追加施工することとしました。補強は土留め前面(神田川側)に40cmの鉄筋コンクリートの壁を増厚しました。鉄筋は前面にD25 を250㎜ピッチに、背面にD22の鉄筋を250㎜ピッチに配置しました(図-8)。
擁壁の背面には鉄筋がほとんど入っていなかったので、削孔し、そこにφ36㎜のPC鋼棒を1000㎜間隔で挿入し、無収縮モルタルを注入して一体化させました(図-9)。
図-8 40cmの鉄筋コンクリートの増し厚補強/図-9 背面補強の断面図
2.3 施工手順
施工手順は以下のように行われました。
1)上段グランドアンカー仮緊張
2)土留め擁壁の補強
3)上段グランドアンカーの緊張、定着
4)下段グランドアンカーの緊張、定着
図-10にグランドアンカーの配置図を示します。
図-10 グランドアンカー配置図
2.4 盛土部
変状した土留め擁壁の新宿側の盛土では、沈下やはらみだしが発生していたので、H型鋼による抑止杭を施工しました。
背面の土砂流失などで、不陸や破損の生じた張りブロックの盛土ののり面工は、場所打ち格子枠工にて補修しました。
また、既存の盛土排水管(φ600)の約半数が変状し使用できないため、代わりにφ75の有孔管を設置しました(図-11)。
図-11 盛土部復旧図
2.5 排水設備
災害箇所には2箇所の線路横断排水路がありましたが、都市下水の流入する排水路には、台地側から神田川に放流するまでの間の排水路は開口部をなくし、もう1箇所の排水路は線路内雨水の専用排水路として改良しました。
2.6 運転再開
東京-新宿間の早期開通が望まれました。応急処置として仮排水路を設け、上り快速線の陥没箇所に砕石を補充し路盤を復旧しました。さらに路盤の強度が十分でないことも考え、補強桁で軌道を保持することで徐行(25km/h)運転で、災害2日後の8月29日3時10分に全線での運転を再開しました。
復旧工事は、列車運行をしながら実施し、その年度内で終えています。
盛土の崩壊は直接的に大雨でも起こりますが、排水が不十分なことが原因で水位が上がってしまい、盛土崩壊に至ることも多いです。普段から排水路が閉塞しないように管理したり、横断管路の大きさが足りない箇所は追加の管路などを造って、速やかに排水できるようにすることが大切です。
最近造られる盛土は、30cmごとに転圧しては、腐食しないネットを敷いて、また30cm盛っては転圧し、ネットを敷くことを繰り返して造るなど、かなり丈夫な盛土となっています。東海道新幹線の建設の頃までは、工事費を安くするために土を現場内で過不足なく活用することが優先され,切土や、トンネルの掘削土を盛土に流用して使っています。転圧も不十分で、使っているうちに自然に安定するのを待つような使われ方です。東海道新幹線は開業後1年間は、盛土の沈下や雨でのトラブルで、軌道の整備が追い付かず徐行運転を余儀なくされました。この頃までは盛土は安い構造物でしたが、今造られている鉄道の盛土は沈下がほどんど起きませんが、それなりに高価な構造物となっています。
【参考文献】
1)中村宏,狭田彰二、菅野洋一、加藤正二、伊藤和夫、三上正戀;東北本線174km付近高盛土災害復旧に伴う設計及び施工、SED No.12,JR東日本。1999.5
2)野澤伸一郎。八巻一幸、池田進、田光誠二、島峰徹夫,渡邊明之;御茶ノ水付近災害応急復旧工事の設計概要 SED No.2,JR東日本。1994.5
3)真壁敬、菅野洋一;御茶ノ水駅付近路盤陥没災害の原因推定と復旧工事、日本鉄道協会誌、(社)日本鉄道施設協会、1994.6
(次回は4月1日掲載予定です)