道路構造物ジャーナルNET

③広島県でのコンクリートの品質改善についての実証実験

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.02.01

締固め時間が長い程に優位
 最大170秒の締固めに対しても全く材料分離は生じなかった

6. 締固め試験まとめ
 ① 目視評価・圧縮強度試験・透気試験
 一部を除いて締固め時間が長い程に優位となりました。なお、透気試験で事前にお断りしたいのは、ひび割れ箇所では試験自体が正確に測れないのでそれを避けて計測しており、高スランプほどひび割れが多いため結果として透気係数が良いようにみえますが、実際の透気係数は低スランプの方が優位であろう事を付け加えたいと思います。

 ② 供試体圧縮強度試験
 狭い空間である供試体での締固め間隔450㎜(振動器φ×9倍)と言う好条件であるにも関わらず、締固め時間10秒では呼び強度以下の箇所が多数確認出来た事から、締固め時間10秒では足りない事、締固め間隔450㎜では所定の強度が得られにくい事が判明しました。

③ 材料分離
 締固め時間が長い程に材料分離が懸念されますが、24-5-40においては最大170秒の締固めに対しても全く材料分離は生じなかった事から、ある一定のスランプ以下では分離しない領域が存在する事も確認できました。なお、スランプ8cm以上のコンクリートにおいては、10秒では材料分離しなかったものの60秒以上では相当の材料分離が認められた事から、材料の選定と締固め時間の組合わせは現場で確認する必要があるようです。
以上の試験結果からコンクリートのスランプは、可能であれば低スランプとして締固め時間を長くした方が初期性能は高くなる可能性が高いと考えられます。ただし、供試体での結果ですので、これを現場適用するにはハードルは上がりますが、2回の連載で誰でも実施できる事はお示しできたかと思いますので、あとは実践するかどうかだと思います。ただ、締固めを丁寧にしても、軟らかいコンクリートではブリーディングの処分を考えなくてはなりませんので、いきなり実構造物で長時間の締固めはおすすめ出来ません。できれば供試体などで締固め試験を実施して、材料の特性をつかんでから挑戦する事をおすすめいたします。コンクリートの寿命とLCCは生コン打設当日にほぼ決まりますので、皆さんの技術者倫理でストック効果を上げて公益を確保いただきたいと思います。

 今回紹介しました試験は、今まで言われている常識や示方書と違う事がいくつかありますが、実際に何度も試験をして同じ傾向となっており、地域差があっても傾向はつかめるはずです。興味のある方は是非現場で確かめてみてください。
インハウスエンジニアには、技術に対して公正な判断を下すことが求められると思いますが、そんな事は理想論であって夢物語だと思っていました。広島県でもダメ元で提案しましたが、派遣職員であった私の提案でさえ真剣に向き合っていただいた事にとても驚きましたし、品質向上の活動に取り組めて転勤して良かったと心から思いました。
この取組みは、広島県西部建設事務所廿日市支所の長谷川支所長(当時)並びに職員の皆さんに強い支持を受けて実施する事ができました。あらためて皆様に感謝申し上げます。願わくば、第1回連載でも記述しましたが、コンクリートにおいて【広島方式】なるものが認知され、大きな成果へと昇華する日がくる事を願ってやみません。

基準書を基礎として良いモノ造りへと昇華させる事こそ本分である

 良いモノ造りにおいて、示方書・基準書等を守る事は大事ですが、偉大な先人達がそれらを遺(のこ)した時の背景やどのような意図をもって定めたかを、想像しながら運用する事も必要だと思います。基準書等は前提条件が示されていない状態で厳格に示されますが、それは多くの技術者に実行可能でなければ普及しないので、容易に理解がなされるように簡潔に記されているかと思います。もし、広く認知されるべき基準書が、最高レベルを目指す秘伝書のように構成されていると、特別な技量を持つ技術者以外は読み解く事すらかなわず、誰も理解できず実行もできないので、そのような基準書は国としても意味がありません。

 そこで、全国で読まれている基準書について考えなくてはならないのは、何を目的として定まっているかを理解または想像して運用する事が求められているのではないかということです。基準書をそのまま運用する事も時にはあるでしょうが、「基準書を基礎として良いモノ造りへと昇華させる事こそ本分である」と私は学生時代に恩師から教わりましたので、今もってそのように考えて行動しております。結果は言うまでもなく基準書の在り方を考えて行動する方が大きな成果が得られると身をもって体験しております。基準書は全国標準であること、コンクリートは使用材料、製造プラント、配合、運搬、打設、養生で異なるモノとなることから、最低限の品質を確保する、または過去の失敗を繰り返さないよう必要最小限が記載されていると思います。その定め以下の事をして悪いモノとなれば当然ペナルティが科されるべきですが、それ以上の事をして良いモノとする事に制約はないはずですから、発注者は不適合が無いように基準書を守る指導をしていると考えて良いでしょう。

 実際、基準書を知らなくても良いモノを造れば良いのですが、ほとんどの不具合は基準書を知っていながら知らぬふり、または抜け道から手抜きをして結果が悪くなるので後々問題となるのだと感じています。もし、内容を理解した上で基準書と違う事をする場合は発注者に説明する事と、今までの実績もしくは事例などを示して、目指す到達点のようなモノに対して理解を得る事が大切だと思います。説明するには、発注者が納得する材料が必要なので大変ですが、そこで認められて公に協力してもらえるとなると偉業となる可能性もあります。広く公益を求める活動として発注者と協働すればきっと良い結果となるように思うのですが、皆さんならどう考えるでしょうか。ただし、良いモノに対する評価がわかり難い現状では、入札時の技術提案にて、提案の妥当性など確認し、さらには事後検証いただけたら効果の薄い提案は根絶され、品質が保証されるようなものなので三方良しとなるかと思いますがどうでしょう。
 最後となりましたが、協力いただきました皆さんにこの場を借りて厚く御礼申し上げて筆を置きたいと思います。
 実は私も基準書の隠された意図を考えず、大変な失敗をした事がありますが、その反省から皆さんを驚かせるような圧倒的な成功も経験しております。ただ残念な事に職を転々としていて資料が残っておりません。よって執筆も一苦労ですが、次回もつぶやけるよう考えたいと思います。

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