道路構造物ジャーナルNET

第84回 「たかが伸縮、されど伸縮」

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.01.16

3.笹子から10年で、どうなった?

 また言う、「そもそも、我々の目的は何なのか?」。「ひび割れを拾うこと。」が目的なのか?
 目的を見極め、どうしていけばよいのかを考えることが重要である。これは、それぞれの役割に応じて違って当然なのだ。また、自治体の状況が進んでいないと言われるが、3無い状態で(ヒト・モノ・カネが無い)困っているということである。おそらく、東京やから見ていても理解はしがたいと思う。
 私もそうであったので、富山に行く前から調べていたし、行ってからも半年間は、観察していた。

 結論から言えば、やはり「ヒト」が重要だと思う。判断できる「ヒト」だ。これは官にも民にも、国にも自治体にも、産・官・学にもそれぞれ必要なのだ。ここで求められるのは、「技術力」と「職業倫理」である。
 インフラは、我々の生活を根底から支え、防災や減殺の役割も担っている。日常生活の中で当たり前のように存在しているが、何もしなくても安全に維持され、いつまでも使い続けられるわけではない。
 我が国においては、この維持管理、メンテナンスと言う考え方が、あまり重要視されてこなかった。経済性評価をする場合に、イニシャルコストのみに目を向けてしまい、メンテナンスコストの検討はおろそかであった。なので剛性の低い、脆弱な構造物を作ってしまい、それが善のような評価を受けていた。これが全国には結構存在し、維持管理が大変になる。まあ、これは設計・施工が、仕様に合っているという前提だが、どうもそうではないものが多く存在する。これがさらに財政を圧迫する。
 例えば伸縮装置は現在、新設、交換に限らず、二次製品となっている。おそらくコンサルの方々は設計の経験もなく、図面も業者任せと言うのが通常だろう。二次製品化しているのでそれはそれでよいとは思うが、この設計フィーはどこに行っているのだろうか? いわゆる仕様の検討を設計と言うのであれば、そこのところを十分に議論すべきである。比較表を作成してはいるが、中身を完全に理解して納得しているのだろうか?特に維持管理に関しては伸縮装置ならば伸縮装置の性能とともに耐久性、止水性が重要な基準となるがカタログ値だけを信用していると問題が起きかねない。
 前にも書いたが、「公物管理法」や「国家賠償法」という物があることはご存じだと思うが、発注者の方々は、これを考えておないと、罰せられる可能性がある。日本ではまだあまり例を見ないが、この辺も気にかけていないと、枕を高くして眠れない日々が続くことになる。業者の方にも責任はある。


伸縮装置の輪荷重載荷試験状況

 自分たちが、実際には、とてもできないような作業などは、責任をもって専門業者に任せるということも今後重要であろう。2次製品やドローン、BIM/CIMなどは、コンサル自身がやっていると効率が悪い倍がある、生産性を上げるために専門業者にキチンと依頼するのは、良いと思う。特にこれからは、建設産業の生産性向上効率化を上げていくためには、単なる「下請け」と言う発想ではなく「専門業者に委託する。」と言うことが重要なカギであろう。ただし、専門業者の方も下請けとは違い、責任を明確にして、職業倫理に基づく仕事をしていくことである。
 あまり議論にはならないし今後も不都合なので、言われないとは思うが、これまでの「造る時代」では、コスト最優先であった。それが故に、板厚の薄い鋼構造物、鉄筋の不足したRC構造物などが大量に作られた。基準の解釈や常識を備えた設計であれば、問題は少ないが、そうでないものも多々ある。
 さらには施工時に必ず設計通りに再現できていないものもあり、自然現象なども加わり、完璧な施工は、なかなか困難である。経験が浅いと、補強板や補強鉄筋を入れなかったり、補強が十分でないものもある。製作、施工途中での残留応力の影響、コンクリート打設中のコンクリートの浮力による鉄筋の浮き上がり……と枚挙にいとまは無いが、施工の難しさ。などが多く存在し、計算通りのも尾はできていないと考えるのが普通である。
 さらに、これまでで申し上げてきたが、なかなか受け入れられなかった、「再劣化」の問題がやっと、言われだした。中には否定していた方々も居たが、建設の実際を理解し、現場を見れば、必ず気づくことである。さらには、補修材料や補修工法の実態という物もある。細かい話は今回は書かないが、結構無駄な補修を行っている。私は、「試す」「試行する」「実証する」と言う意味合いで認めてきたものがあるが、そろそろ本音を言わねばなるまい。こういったことを考えるのも人間であり、管理していかねばならないのである。しかも大量なものを。


意味不明な補修例

 考えれば考えるほど、実態を見れば見るほど課題は増えていく。それぞれの自治体それぞれの地方で課題の質も変わると思うが、多くの課題を持っているのが維持管理の世界である。我が国では「永久構造物」と言うことが言われ、またイニシャルコスト最小が善であるということが言われてきた。そういう思想で長年多くのものを造ってきたので、今後の課題は大きい。競争設計の時代は、1gでも鋼重を軽くしコストを下げることが競われた、それが今どうなっているだろうか? さらに現役のコンサルさんは、伸縮継ぎ手の設計や支承の設計を自分でやったことがあるか? 桁のウエブとフランジを溶接したらどうなるか? 鉄筋を配筋しコンクリートを打設したらどうなるのか? 実際に経験しているだろうか? まあ、これは時代の要求流れなので仕方がない。それをどう対応していくか? が今後に課せられた課題である。(次回は2023年2月16日に掲載予定です)

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