道路構造物ジャーナルNET

第41回 U型の地下構造物の浮き上がりの復旧(武蔵野線新小平駅)

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.01.01

(2)U型擁壁の床スラブをホームに
 地下水位が低下するに伴い、U型擁壁は下がりましたが、元の位置までは、床スラブ下に土砂が回り込んでいて下がりきらない状況でした。ちょうど床スラブの位置がホーム高さの位置まで下がったので、このスラブをホームにし、軌道部分だけ切り開いて造りなおすことを考えました。
 まず床スラブの位置を安定させるため、床スラブ下を埋めることが必要です。流水中で固まり、あとで軌道部は掘削するので、強度のあまり高くない材料で埋めることが必要です。そこで、表-1の賓配合の水中不分離コンクリートを用いることにしました。


表-1 貧配合の水中不分離コンクリート

 図-8は、床スラブの下に水中不分離コンクリートを施工した状態です。床スラブの軌道部分を撤去して掘り下げる準備として壁の部分が倒れこまないように除去式のアンカーを施工します。その時点で、壁の倒れこみを防止していた梁も施工の邪魔になるので撤去します。


図-8 U型擁壁が下がった後に、床スラブ下にコンクリート注入

 この復旧で大変なことは、・地下水位の低下も水を汲み上げてみないと分からない、・U型擁壁もどこまで下がるかわからない、・その日の結果ですぐ次の作業を決めていかなくてはいけない、ということです。現場には100人以上の作業員がおりますので、手待ちにならないように、かつ、作業が前進するように工法を決めていくことが必要です。次の作業を決めるには、その作業の後に、たとえ予想通りにならなくても、いくつかの対応が可能な方法を選んでいくことが必要です。毎晩、施工者と次の作業を施工状況に応じて決めていく会議をしました。

(3)新たに軌道を受けるスラブの構築
 床スラブ下に、貧配合のコンクリートを施工し終えたら、軌道部分の床スラブを壊して、軌道部分の貧配合のモルタルを壊し、U型の軌道を受ける壁とスラブを造り、既設構造物と接合します(図-9)。
 写真-6は床スラブを軌道の範囲のみ壊す作業です。コンクリートのコアボーリングの器具を並べて、床スラブを壊しています。


図-9 軌道部分の床スラブを壊し、軌道を受けるU型擁壁施工/写真-6

 図-10は将来の浮き上がり防止を兼ねた鉛直アンカーの配置図です。


図-10

 図-11は旧下スラブをホームとし、新たにU型の軌道を受ける鉄筋コンクリート部材とを接合した部分です。


図-11 旧床板をホームにし、軌道を受ける新床板との接合部

(4)ホームの屋根を兼ねた本設の転倒防止の梁
 ホームの屋根の梁を兼ねた本設の梁を左右の壁が転倒しないように渡し、そのあとに転倒防止の水平のアースアンカーは撤去します(図-12、写真-7)。鉛直のアンカーは永久構造とし、将来の水位上昇に対しても浮き上がらないようにしています。今でも、定期的にアンカーの引張試験を実施しています。


図-12 転倒防止の屋根の梁を施工

写真-7 軌道が復旧し屋根の梁も施工された

(5)運転再開
 駅の再開ということで、軌道工事や電気工事のほかにも、電話の復旧などもありましたが、
列車の運転再開は12月12日のちょうど2カ月後となりました(写真-8)。


写真-8

3.技術以外の支援

 工事用の資機材を置く用地の確保などは、民間の駐車場などの車を一時的に移動してもらって貸してもらう、あるいは水を排水するのに河川に流させてもらうための自治体と協議など、関係個所との協議をスムーズに進めるスタッフが頑張ったことが早い復旧を可能にしたと思っています。特に用地に関する協議をスムーズに進めるスタッフがいることが重要です。この工事は工事を専門に行う組織の東京工事事務所が担当しました。ここにはそのような協議の専門のスタッフがそろっています。

4.工事の担当組織

 実は災害の翌朝(土曜日)に連絡があり、すぐにJR本社に行きました。武蔵野線はここ以外にも多くの箇所で盛土などに被害も生じていました。技術的に大変なのが新小平駅でした。この時、東京支社の設備部長のH氏も来ていました。一般的な災害復旧は設備を管理している支社で行うのですが、大きな災害の場合は工事事務所で行うことになります。
 私は当時、関東地区の工事を担当する東京工事事務所に所属していました。H氏と私は国鉄入社の同期です。災害復旧なので、最初はH氏が支社ですべて行うという意気込みでしたが、工事の規模と難しさから技術スタッフや、協議スタッフのそろっている工事事務所に新小平の復旧は担当させ、残りの盛土復旧などは支社で担当したほうが良いと話しあい、そのような分担としました。復旧工事の難易度に応じて担当組織を決めることも、早期復旧には大切です。

【参考文献】
1)石橋忠良;災害大国日本 鉄道の災害と復旧を通して ―明日の技術者へ
第8回「降雨災害」浮き上がり、盛土崩壊、橋脚転倒;セメントコンクリート
No882 Aug 2020 (社)セメント協会
(次回は、2月1日に掲載予定です)

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