道路構造物ジャーナルNET

第41回 U型の地下構造物の浮き上がりの復旧(武蔵野線新小平駅)

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2023.01.01

 あけましておめでとうございます。
 
 以前、篠原修先生が主宰していた「景観デザイン研究会」で、主な鉄道のコンサルタンツと建設会社のメンバーや佐々木葉先生などにも参加してもらい「鉄道部会」をつくり、1999(平成11)年にその成果を 『鉄道高架橋の景観デザイン』 という報告書にまとめました。この活動をしたのは、篠原先生が鉄道高架橋は景観について無配慮、無頓着だとどこかに書いていたのを目にしたことからです。この報告書を会員に配って終わったことで、広く知らしめなかったことが心残りでした。
 今回、建設図書から、土木学会の景観デザイン委員会 鉄道橋小委員会による『鉄道高架橋のデザイン』 が出版されました。
 23年前の報告書をさらに発展させて、鉄道高架橋の構造計画に必要な技術情報を、高架橋の初期から現在に至るまで事例を交えて丁寧に説明しています。誰でも手に取れる出版となったので、鉄道高架橋に係る技術者はぜひ一度、目を通してみてください。

 地震被害と復旧について書いてきたので、他の災害の復旧についての経験も紹介します。セメントコンクリート1)にも以前に紹介しているので、そちらも参考にしていただければと思います。

 近年、降雨量が今までの経験を超える事例が増えています。降雨が原因で被害を受けた鉄道施設で私が係わった復旧事例のうち、大きな災害であったものを紹介します。
 1991(平成3)年には武蔵野線新小平駅が地下水位の上昇で浮き上がり、1993(平成5)年8月には御茶ノ水駅の線路陥没が起こりました。1997(平成9)年9月3日に花輪線 東大館~大舘間にある長木川橋梁の橋脚が洗堀による転倒、1998(平成10)年8月28日 には東北線黒磯付近の盛土崩壊がありました。
 これらはJRに分かれた後での災害で、私も直接復旧に係わりました。国鉄時代も雨による災害は多く、全国が担当で線路も多かったので毎年どこかで生じていました。民営分割の後のJR東日本に配属になってからは、雨に対する災害を生じにくくする対策が強化されてきました。今ではその効果により降雨による災害は少なくなってきています。
 しかし、最近になり異常に降雨量が多いことがしばしば生じることになり、河川の水位が想定を超えるようなことも増えているようで、古い橋脚の傾斜や転倒あるいは桁の流失などが起こっています。

 今回は地下水の急激な上昇により、駅として利用していたU型の構造物が浮き上がった災害と復旧について紹介します。この復旧は、それまでの災害復旧とは幾分異なっています。通常の復旧は、構造物が壊れた状況で、それをどう直すかということで、事前に方針を決めて設計図がつくられます。
 このU型の構造物は浮き上がったので、壊して直すのであれば通常復旧と同じように設計図がすぐに作れます。再構築には工事環境が厳しく、工期、工事費もかかることからできるだけ浮き上がったU型の構造物を活用する方針としました。そのため、浮き上がった構造物を、地下水を下げて元の位置近くまで沈下させることを計画しました。沈下量によって、利用できる既存構造物の範囲が変わるので、沈下の結果に応じて復旧設計をしなくてはなりません。施工の状況で、設計を変える柔軟な対応が必要な方法です。

地下水の上昇による新小平駅浮き上がり

1.被害状況

 1991(平成3)年10月11日(金)23時15分頃、武蔵野線の新小平駅の線路とホームが、延長100mにわたり最大1.3m隆起しました。写真-1は、駅付近の上空からの写真です。この駅の構造はU型の鉄筋コンクリート擁壁の構造で、地下水が著しく上昇したため、その浮力により持ち上がったものでした(写真-2)。


写真-1/写真-2 浮き上がり直後の水没した線路とホーム

 図-1は擁壁の構造一般図です。この駅の建設時は、地下水はU型擁壁の床面スラブより下で、水の処理をしないで施工できたものです。図-2は地質図と駅の位置を示しています。この駅の前後はトンネルとなっています。駅舎は地平レベルにあり、ホームには階段で地平から降りる構造になっています。


図-1

図-2 U型擁壁の新小平駅と地質の関係

 武蔵野台地に降った雨は10月6日からその時までの連続降雨量は227mmでした。また8月1日から9月末までの累積雨量も724㎜となっており、例年の2倍強の値でした。そのため地下水が上昇しGL-2.5mの位置まで上昇していました。
 図-3は消防科学総合センター細野義純氏資料である小平市仲町の地下水位測定結果です


図-3 小平市仲町の地下水位計測データー

 図-4は擁壁の浮き上がりの状況図です。


図-4 U型擁壁の浮き上がりの形状

2.復旧

(1)地下水低下工法
 現場は、工事用に利用できる用地が少なく、駅に隣接してマンションがあり、造りなおすには周辺の用地が必要で、その交渉など考えたら造りなおすのは、制約条件が多すぎました。そこで、今のU型擁壁の壁をそのまま使うほうが、周囲に与える影響が少なく、早い復旧が可能と判断しました。まずは既設のU型擁壁を可能な限り利用する方針としました。
 復旧工事はまず地下水を低下させることに全力を挙げました。近くでボーリングを行い、地下の水の通りやすさを知る透水係数を測定し井戸の数を決めましたが、なかなか低下しない状況でした。水をくみ上げるための井戸を掘ったので、井戸同士を使って再度透水係数を測定したら,2桁ほど違う結果が得られ、揚水量を大幅に増やすことが必要となりました(図-5)。


図-5

 排水先が問題で、水が多すぎて、下水では呑み込めないので、鉄道のトンネルの中を流して、河川の空堀川に排水することとしました。U型擁壁の床スラブにも穴をあけ、ここからも水を排出することとしました(写真-3)。まだ水位が高く、穴から水が噴き上げました(写真-4)。
 下スラブに穴をあけて水を抜くということを最初にしなかったのは、一気に水が抜けると、下スラブ下からの反力がなくなってしまい、スラブが下におれて、U型擁壁の側壁が内側に拝んでしまう心配があったからです。ですから、スラブに穴を開ける前には、側壁が倒れこまないように梁を渡しています。写真-4の上のほうに渡した梁の様子が見えます。


写真-3 下床板RCにBG7で水抜き用の穴をあけている/写真-4 床スラブにあけた穴から水が噴き出している状況

 排水は東村山トンネルの中を通して、図-6に示すルートで空堀川に流しました。


図-6

 図-7は東村山トンネル内の排水管の配置図です。写真-5は空堀川に排水している状況です。


図-7/写真-5

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