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第76回 木橋について

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2022.05.16

5.木橋の注意事項(これだけは。簡単に)

 木橋の注意事項に関して、私の経験から簡単に留意点を示す。
(1)計画
 多くの場合、木橋を計画すると、山の中や、公園などの池の上に、計画する場合が多々ある。しかし、できるだけ湿度の低い場所に設置することが望ましい。

(2)設計
 設計に関しては、まず材料の強度(ヤング率)が、地域や年次により異なる。使用する材料を確保できる、地域の林業試験場などにおいて確認することが必要である。また、当然、劣化していくのでその評価をどうするか、検討が必要である。
 さらに、水仕舞などの細部構造に対する配慮も重要である。連結構造は最重要といえるであろう。連結構造は、鋼板を使用することが多い。鋼板挿入と接手方式の大きく2種類があり、多くの実験がなされている。


部材連結の例

 床版(木目床板)に関しては、歩道橋で木材をそのまま利用した床版の場合は、居たと板の間の隙間を開けたほうが長持ちするようである。

(3)施工
 施工に関しても、木材特有の課題が多数ある。まずは、製剤を使うのか?集成材かぞの他の木質構造か? 部位などの寄って使い分ける必要もある。

(4)維持管理
 これが一番厄介である。こまめな点検と適正な保守作業が必要である。寿命無短くなることを覚悟して取り組まなければならない。錦帯橋や伊勢神宮の橋などは、架け替えのサイクルが決められている。これは、材料の劣化と技術の伝承と言う側面があるからである。我が国における近代木橋の、歴史は、30年から40年程度である。10年程度で落橋した橋梁もあるが、適切な監理さえしていれば、30年から50年程度は健全であると考える。詳しくは木橋技術協会の「木橋点検マニュアル」を参考とするのが良い。専門家に相談することも重要である。

(5)劣化(腐朽)
 木質材料を屋外で使用する研究は森林総合研究所などや民間企業で行われている。木質材料が劣化する要因は、腐朽、蟻害、紫外線劣化などが大きな要因である。
 ① 腐朽:いわゆる腐るという状況である。多くの要因は腐朽菌によるものである。腐朽菌はいわゆる、きのこの一種である。被害の多くが報告されているのは白色腐朽菌による腐朽である。一度木材の中に入り込むと除去は困難である。菌糸は最大1晩で2m以上成長すると言われている。なかなか素人には、難しい。これを防ぐには防腐剤の使用と、構造細目の工夫により構造的に配慮する必要がある。日本の温暖多湿な気候が、腐朽菌にとっては良好な気候だとろ言える。


腐朽の原因の一つ(きのこ)

 ②蟻害:いわゆる、シロアリによる被害であるが、我が国においてはさほど多く報告されていない。
今後、温暖化などの影響に入り増加する懸念はある。
 ③紫外線劣化:木材は紫外線を浴びると表面が劣化していく。これにより腐朽菌の侵入などの悪影
響が出てくると思われる。


各種木材の腐朽進行

(6)なぜ木橋は普及しないか?
 その昔、日本には木の文化があった。日本橋も木造であった。なぜ木橋が採用されないか? というと、維持管理の手間が大きいということと本音のところは、計画する時点でコンサルが良くわかっていないというところであろう。だから適切な提案ができない。官庁は、維持管理の手間を惜しみ採用はされなくなった。数十年間、積極的に採用されなくなれば技術の伝承は途切れ、理解者は少なくなる。木橋や石橋は良い例である。一部の技術者の間で細々と残っている。したがって、採用する場合は、相手を選ぶことが重要である。これはすべての技術に言える。例えば吊り橋なんかの特殊橋梁もそうである。実績のある企業、技術者も少ないはずである。

(7)その他
 木橋の場合、素材が自然材料であり腐朽等劣化に極めて弱いという弱点がある。水仕舞いの検討を十分に行い、構造的に水を滞留させないことが重要であり、防腐処理の知識も必要である。架橋後の維持管理計画にも配慮をすることが重要である。どうも近年は、デザイン偏重思考から、材料工学、力学等橋梁工学に必要な知識をないがしろにする傾向が見受けられる。橋梁は構造物の中でも、難易度の高い構造物である。安易にデザインに走り、基本的な配慮を忘れているようでは、事故につながる。かつて、施工された木橋を見ても、首をかしげるようなものが結構、架かっている。土木業者は木材の知識が足りず、木材業者は橋梁の知識が足りていない。木橋に対して本気で取り組んできた人間は少ない。そこに、デザイン偏重思考が入ってくると危険なものを平気で世の中に送り出すことになり、これは土木技術者として、産官学民のどの技術者もあってはならないことである。きちんとした経験と実績を持つ知見のある個人もしくは、「木橋技術協会」のメンバーから相手を選び相談しないと危ういものができることになる。

6.カーボンオフセット、循環型素材としての木質材料

 CO2排出問題から、木材が見直されており、木造建築物、木造橋や、木床版などを扱う場合もあるが、一般のコンサルでは木材の知識が不足しているために判断を誤る可能性が大きい。官庁職員も同様である。最近、木材関連施設の事故が続いたが、これは維持管理だけの問題ではないと感じている。今後カーボンオフセットなどの時流の流れにおいて、木材を構造物などにも多用していくことが、考えられるが、木材の特質として、屋外での風雨にさらされる条件下での使用には知識と経験が必要である。木材特有の性質や、利用方法を学んでからにしてほしい。昨今のデザインだけに気を取られた計画設計を行うと事故につながる可能性が大である。

 木質材料は、活用の仕方によっては、近年話題のカーボンオフセットやCo2削減、SDGs、循環型社会の実現など、将来の課題解決の1方策であると考えられる。木材は、長期にわたり光合成などで、Co2を固着化しており、木材を使った建造物を構築することはCO2の固着化に役立つ。最近では、建築分野での活用が盛んで、脚光を浴びている。オリンピックの国立競技場などで話題になっているが、高層ビルの木造化技術や、公共施設の木造化等、活用が推進されている。これも、製材から集成材、さらにCLVなどの新技術の活用によるものである。


木材を使った建造物を構築することはCO2の固着化に役立つ

 しかし、土木の世界では低調である。木橋、木質砂防ダムやが施工されている。そもそも、「土木」とは、土と木で表現されているのもかかわらずである。大きな理由は、腐朽(腐る)という現象が嫌われるからである。管理が大変だということである。これは自然素材の宿命である。維持管理をこまめに行うという当たり前のことを、面倒くさがりしないというのは良くない。それによってコストがかさむということは検討の余地がある。しかし、インフラノメンテナンスの問題で、皆さん簡単に、予防保全による長寿命化で100年の寿命をと言うことを言うが、そもそもが設計時にそれだけの配慮をしたのか?さらには施工時に、問題はなかったのか?その後のメンテナンスは?ということで、安易に100年は達成できない。
 「循環型社会」「サステナブル」と言うことも盛んに言われているが、究極の循環型素材は木である。
 森林の木が、加工されて、木橋や木造構造物となる。役割を果たせば、燃料となり土にかえる。また植林したものが森林となり、co2を吸着し様々なものになる。脱炭素と言って、森林を伐採し、メガソーラーなどを作るのと、どちらがサステナブルか?メンテナンスフリーと言われたコンクリートが、実際には維持管理でかなり厄介である。メタル(鋼)は溶かせば次の命が吹き込まれる。どれが一番サステナブルなのだろうか? 地方にいると、やたらコンクリートばかり使おうとする。まずはどこまでわかって使っているのか? コンクリートは、廃棄する場合の課題が起きてくるだろう。

7.まとめ

 木橋に関して話していると、意外と身近でありそうでそうでもないことに気づく。結構みんな思い込みでやられている。もともと、鋼構造が専門であったので、木橋については、さんざん悩んだ、モデル橋も実施させてもらい、10年かけ感触をつかむことができた。一番の収穫は、真剣に木橋と取り組む人たちとの人脈である。これが現在の「木橋技術協会」の前身になった。苦心している時の協力者は少なかった。しかし、その後は、「木橋の専門家」がたくさん表れてきた。
 根本的に私は、争うことが嫌いである。競争も順位をつけることも、嫌いである。ばかばかしい。時間と労力の無駄だと思っている。幼少のころから、爺さんに、兵法(戦略)を学んだ。兵法を理解するために様々な武芸も学んだ。争っても競争しても消耗するだけ。ただ、理不尽なことに関しては、徹底的に抗戦し反撃するというのが私の基本方針である。そのために、様々な戦略を使っている。だいぶ天邪鬼である。

 適切な事業を遂行するためには、やはり、本当の“プロ”に業務は依頼しないとならない。本来、構造的に厄介な吊り橋等や、特殊な構造物を実施する場合は、信頼のおける、きちんと実績のある技術者(企業)に相談、依頼すべきである。どうも、官庁の人間もその辺の考え方が、甘いので危険である。形はマネできるが中身が無い。皆さん勘違いしているのは、公平性とは言うが本来技術に公平ではない。条件は公平だが、知識や実績、能力は違う。努力したものだけが身に付けられる。どれだけ、取り組んで身に着けたかが重要なのだ。それが、実績となるのだが。

 これまで新社会人のころから上司の指導で、「外に出ること」を心がけてきた。真の一流になるためには、組織内での仕事だけでは不十分で、外の仕事、人脈を造れという指導であった。そのため、理解できない組織に行くと、浮いてしまい評価は下がる。「あいつは何をやっているんだ。会社の利益につながらない。」と言う評価である。その通りなのである。企業の利益など考えていない。
 しかし、そのおかげで、現在は様々な情報が自然に集まってくる。聞きたくもないことも来る。もともと橋の世界は狭い世界だと言われている。コンサルやゼネコン、メーカーの実績やその評価、技術者個人の評価なども入って来る。だから、その人間の評判や実績、企業の実績などは、私の頭のデータ・ベースにインプットされている。ただ100%ではないので、裏を取り確認もしている。先日ある知人に「植野さんは、必ず裏を取ってるところが、怖いよね。」と言われた。

 今回は木橋と言うこともあり、特に留意点などを書いた。詳しくは、種々の資料や知見のある方への確認が必要である。とくに、思い込みは禁物であると言いたい。わかったふりでは、うまく行かないものがあることを認識してもらいたい。デザインやソフト系の仕事では、事故は起きないが、構造物では危ういということを認識できていないと大変なことになるということも、理解していただきたいと思う。近年、木造施設の普及による踏み抜き事故なども起きている。

 経験の無い技術者は、先輩や信頼できる他社の技術者のアドバイスを受けて、適切に考える癖をつけないと、将来大きな事故を起こすことになる。瑕疵担保期間は通常10年である。どうも最近の世の中の様子を見ていると、他人のあら捜しと自己PRにおぼれ、本当に必要なことができていない。世の中に師となるべき人はたくさんいるはずである。別の会社でも組織でも、これはと言える人に教えを請えばよい。われわれは、将来を見越して、人も育てなければならない。これは、社会、土木界全体で考えていかないと、取り返しのつかないことになる(次回は2022年6月中旬に掲載予定です)

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