道路構造物ジャーナルNET

第76回 木橋について

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2022.05.16

1.はじめに

 最近、どうも長距離の移動が疲れる、東京に行くのでさえ、おっくうである。ちょうど委嘱期間が終了であったので、次は辞退するということを言ったたが、継続を依頼された。そもそもが、「政策参与」は名称だけの問題で、何の権限も無い。年度末にかけて非常に厄介なこともあり、退任を宣言しながら周辺の動きを観察していたところもある。(これは、私の得意の戦略である。)今回も、面白い実態が見えた。この件に関しては、非常に腹を立てているので、いずれどこかで明らかにして問題提起する。
 今回は木橋について書いてくれと言う編集者の意向があった。実は私は、富山に赴任する前、木橋にかかわっていた。「木橋技術協会」の会長でもあった。木橋は、先日、国総研の木村所長が書かれていたように維持管理においてかなり参考になるが、採用する場合、すでに管理する中に存在する場合は、十分な木材の知識も必要である。能力や経験がない者が中途半端な技術力で、公共事業に手を出すのは危険だと考えている。そういう方や企業はプロに相談し、対応すべきなのである。先の件にも関係するが、経験の無いものは、無理して関わるなと言うことである。我々は、多くの方々の命を預かっているのである。

2.木橋と私(経緯)

 平成5年、国土交通省と林野庁合同で、「木の薫る道づくり研究会」から発展した、「木橋技術基準検討委員会」(三木先生が委員長)が発足し私がその事務局を務めた。この事業は長期にわたり、大正15年に当時の内務省で制定された「木道路橋示方書(案)」以来、途絶えてしまった木橋に関する基準の改定であった。途絶えた技術基準を現代版に改定していくことは大変なことである。まずは文献整理から開始し、様々な実験や、モデル橋による実際の設計・施工を実施検討した内容を基に、策定したが、結局平成15年までの10年間を費やした。しかし、「技術資料」という位置づけから周知はされず、恐らく知らないで、木橋の事業や維持管理を実施している方々も多いと考えられる。当初の目的は、「林野庁との合同」と言うことで、お分かりと思うが木材の需要拡大である。これは、今後のカーボンニュートラルの時代背景と少し違うが、目指すところは一緒である。結局時代は繰り返す。Co2を吸着した木造の構造物を、構築していくことは、Co2の固定化につながる。

 木橋は、自然素材であり劣化の状況の判断が難易である。劣化速度も速いために、維持管理には相当な神経を使うことになる。設計時の強度が経年においてそのまま保たれるとは考え難い。「水仕舞」という排水の処理も重要であり、鋼やコンクリート以上に配慮が必要となるが、これが逆に、鋼やコンクリートの橋梁の水仕舞の工夫に役に立つと考える。


木橋の劣化の要因

 事務局を仰せつかったが、木材に関しては全くの素人であり、知識もなかったために、いわゆる専門の「協会」を探したが存在せず、個別の木材企業に対しアンケートを実施し協力者を求めたが、集まらなかった。困り果てていると、某業界新聞社の記者の方が、「JICEの植野が困っている。」と木材関連の各企業に声をかけてくださり、勉強会を立ち上げることができた。(この方には今でも感謝している。)それから数年間、実験などのお手伝いやアドバイスをいただき、何とか形づけることができた。この時集まったメンバーが後に「木橋技術協会」となるわけであるが、現在の同協会のメンバーとは異なる。蛇足ではあるが、その当時某出版社が事務局の「日本木橋協会」という同種の協会も存在したが、こちらは、諸般の事情により自然消滅した。協会運営において大いに参考になると思うが、それはまた別の話となるのでここでの記述は避ける。
 いずれにしても、平成5年からかかわってきたが、世に出せたのは平成15年であった。当初の予定では、「早急に1年程度で。」との指示であったが、結局は10年かかってしまった。この間国土交通省のモデル木橋を6橋架けている。これらは、設計から、実験、施工、維持管理と、一連の流れを実際に実施し、基準の参考にした。
私が感じている木橋に関する課題は

① 一般の土木技術者、橋梁技術者は木材の知識が不足している
② 木材関係者は構造物、橋梁に関する土木的知識が不足している(建築のイメージで対応している)ということがある。

3.現在の木橋

 我が国には、その昔「木の文化」と言われるものがあり我々の生活に密着して、木材が使われていた。山口の錦帯橋は、世界最高水準の木橋であるとの評価を得ている。しかし、社会資本である、橋は高度成長期に交通量の増加により、丈夫な鋼やコンクリートに変わり「永久橋」と言われ、木の橋は消えていってしまった。しかし、30年ほどまえから、「近代木橋」といわれるものが、世に出てきた。従来の丸太や製材を組みあわせた橋ではなく、「集成材」を利用した木橋だ。現在全国で、その数は国土交通省の調査では約2,000橋程度あると推定されている。ただしこれは、回答する側の知識不足により、一部分木橋や木床版橋、模擬木橋なども混在しており正確ではないと推測される。(結局、判断できていない)


集成材

 木橋の復活の動きは、人々の「環境意識の高まり」「日本的風景への回帰」「やさしさ・ぬくもりを求める気持ち」があると考えられる。さらに、最近では、カーボンニュートラルでも、検討していく余地が出てくるであろう。しかし、その材料の性質上、劣化の状況が鋼やコンクリートに比べ、激しいので点検・維持管理がより重要である。材料が劣化(腐朽)しやすいため、寿命が短いと言う欠点がある。さらに、自然素材が材料であるために、材料の均質化が困難であり、大規模な構造物を建造するにも困難があった。旧来の木橋は、丸太や製材を組み合わせて造られてきたが、いわゆる「近代木橋」といわれるものは、集成材等の工業生産化され、材料としての均一性が確保される、「木質材料」を構造部材に採用した構造物である。接合部には金属(鋼)を使用し、ボルトやドリフトピンで接合している。
 従来の木橋は、丸太や製材を材料として組んだ桁橋やアーチが中心であった。近代木橋は集成材やLVL、CLV等の高度加工木材を主材料としている。

 さらに、木橋は,3つのカテゴリーに分けられる。
① 純粋に木材を主構造体としている橋梁(国産材と外国産材)
② 鋼やケーブル等で補強したハイブリッド橋梁
③ 主構造を鋼やコンクリートで構成しデザイン的に木のイメージを持たせた擬似木橋

 そして、床版や高欄を木質材料で構成するものも存在し、知識ないものは混同している。
 つまり、木橋を造るということは、より高度な技術力が本来必要なのである。

4.木橋技術基準

 木橋は、その材料が自然材料を使用していることから、材料の特性を十分に把握することが重要である。つまり、わが国の中で国産材を使用して木橋を設計する場合には、わが国の規定に準拠し、材料の持つ地域性等を含めて、検討することが必要である。実は木材は伐採年度や地域によって強度(ヤング率)が異なる。ここが厄介なところである。
 また、コスト面から輸入木材(いわゆる外材)を使用した木橋も多く存在する。おそらく素人や経験の浅い方々には見分けがつかないであろう。外国産材は、強度的(ヤング率)には優れているものが多いが、
 導入当初、メンテナンスフリーと言われていたにもかかわらず、日本の風土気候に合わなかったためか、劣化が著しくあらわれてきているものがある。国産材は外側から腐朽が進行するが、外材の中には、中心部から腐朽が始まり、腐朽の状況が把握しにくいものが存在し、メンテナンスが困難である。
 木橋の場合、そのデザインコンセプトにもよるが、本来地場産材を使用することが望ましい。これまで、コストや耐久性から、外国産材を使用した木橋が採用されてきた経緯もあるが、今後環境問題からの観点からも、国産地場産材の活用が望まれるところである。
 我が国において、現在公共構造物を設計するにあたり重要なのが、技術基準である。厳密な意味での技術基準は無く、下記「技術資料」が、現行としては公共性がある。

 「木歩道橋設計・施工に関する技術資料」(平成15年10月)財団法人国土技術研究センター
 国内における木橋に係わる技術基準としては、昭和15年に公布された内務省「木道路橋設計示方書案」があるが、それ以降国内においては、木橋としての技術基準は特に改良、発展せず整備されていない。しかしながら、建築構造物および国内での木橋においては、集成材技術の向上や防腐処理技術の改善等に応じ、大規模木造構造物の実績の増加とともに、技術基準類の整備が為されてきている。
 本編はこのような背景のもと、最近の大規模木造構造物に係わる技術の進歩を踏まえて、主に木歩道橋を対象とした設計および施工に適用するものとして、国土交通省・林野庁の合同の委員会での検討の後、公布された。
本技術資料は、「木橋技術基準検討委員会」の指導の元、モデル木橋5橋を設定し実橋の設計・施工・維持管理を実際に実施したけっかに基づき制定した技術資料である。「設計・施工編」、「実験編」、「参考資料」から構成されている。「実験編」では基準としての検討に際し実施した実験の紹介を行っており、「参考資料」では、モデル橋の追跡調査としての点検・管理について書かれている。
 中身を作成するにあたり、参考資料として、木材に関する事項は「木質構造設計規準・同解説」を使用し、海外の基準として、Eurocode ,DIN、BS 、AITC(Timber Construction Manual 、American Institute of Timber Construction)、AASHTO(Standard Specification for Highway Bridge、American Associatiation of State Highway and Transportation Officials)等、を参考としている。参考までに、Eurocode , Part 5によって,木構造の考え方が示されている。先進国の基準を見ると、一概には言えないが、橋梁全体を示しその中のパートで材料毎に記述している。つまり、鋼とコンクリートと木材は同等に記述されており、材料が違うだけのものであると言った考え方であると感じる。

 良く、最近の日本の技術者が「木だからわからない」と言うが、そうではなくて、配慮すべき内容が違うだけである。木質材料以外による各部材ならびに下部構造の設計・施工にあたっては、「道路橋示方書・同解説」に定められた規定を適用するものとするが、木質材料を主体とした橋脚構造については、「道路橋示方書・同解説(Ⅳ下部構造編)」のほか、本編に従うことが望ましい。また、本編および「道路橋示方書・同解説」に記述されていない事項については、必要に応じて関連する技術基準類等を参考に検討することが望ましい。

 ここで、技術資料を作成するために、実際に計画・実験・設計・施工・維持管理などを実施した、「モデル木橋」は、


モデル木橋

 これらの、6橋のモデル木橋を実際に、計画・設計・実験・施工・維持管理を行った、知見を基に、技術資料を作成している。(詳細に関しては、木橋技術協会資料などを参照されたい)

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