道路構造物ジャーナルNET

⑧アルカリ骨材反応による鉄筋破断

山陽新幹線コンクリート構造物維持管理の20年を振り返って

西日本旅客鉄道株式会社
技術顧問

松田 好史 氏

公開日:2022.02.16

2、鉄筋破断を非破壊で調査する方法の技術開発

 ASRによる鉄筋破断は、コンクリート内部で発生する事象であるため、直接目視で確認することは困難である。そのため、鉄筋破断の有無を調査する方法としては、当時、はつり調査以外有効な方法がなかった。また、ASRによるひび割れ幅の大きな位置と重なる鉄筋が必ずしも曲げ加工部で破断している訳でもなく、かぶりコンクリートをすべてはつり取ったうえで調査するのは非効率であるとともに、鉄筋が破断していなかった場合、健全なコンクリートを大量にはつり取る行為は極力避けたいとの思いがあった。そこで、鉄筋破断の有無を非破壊で調査する方法を確立するために、実橋脚を対象に、その有効性について試行を重ね改良を加えた。

 鉄筋破断を非破壊で検査する方法として、電磁誘導によるリサージュ波形の変化を検査する電磁誘導法と着磁した鉄筋が発する磁束の変化を検査する磁気法があった。両方法とも、写真-6のようにコンクリート表面からセンサを鉄筋に沿わせて測定する。
 電磁誘導法は、かぶりが100mm以上の場合やセパレータ等の電磁波に障害をおよぼすものが付近にある場合には破断の検出が困難になることがあったが、はつり調査を補助的に用いたり、調査面が2面ある場合は、超音波斜方向透過法を併用するなどして実構造物で実績を重ね、調査速度や検出精度を実用的なレベルにまで向上させることができた。なお、超音波斜方向透過法は、梁の隅角部付近に発生したひび割れが、断面内の深い位置まで達しているかどうかを斜め方向に超音波を透過させることによって検証し、その結果から二次的に鉄筋破断の可能性を評価しようとする非破壊的な点検手法である(図-5)。

 磁気法は、鉄筋が強磁性体であることを利用し、永久磁石を内蔵した磁石ユニットを検査する鉄筋が埋設されているコンクリート表面上で鉄筋軸方向に数往復動かし鉄筋をコンクリート表面から鉄筋軸方向に着磁する。その後、コンクリート表面からコンクリート面に垂直な方向成分の磁束密度を磁気計測ユニットで測定する。測定した磁束密度分布波形から、鉄筋破断箇所付近に発生する漏洩磁束の有無を判定することで、破断の有無と破断位置を検出する方法である。磁気法は、検出精度は高いが数多くの調査数量をこなすには調査速度や調査体制の面で当時はまだ開発途上と判断された。
 電磁誘導法は、JR西日本だけでなく他機関でも用いられ実績を重ねていたことから、非破壊検査方法としては電磁誘導法と超音波斜方向透過法を併用することを基本とし、電磁誘導法で困難な測定条件の場合には磁気法を適用することとした。

3、ASRによる鉄筋破断が生じた構造物の安全性照査

 土木学会ではASRに起因する鉄筋破断が生じた構造物の事例報告が広がりを見せた2003年4月に、事態の重要性および緊急性に鑑み、コンクリート委員会内に「アルカリ骨材反応対策小委員会(委員長:宮川豊章(京都大学))」(以下、ASR小委員会という)を発足させて、①実態・メカニズムWG:ASRによる鉄筋破断の実態把握とメカニズムの解明および点検手法の検討、②評価WG:変状が生じた構造物の構造安全性に関する検討、③補修・補強WG:変状が生じた構造物の補修・補強に関する検討、の3WG構成で2年間の活動を行い、得られた成果を広くかつ迅速に情報発信することとなった。
 当時、JR西日本では、ASRによる鉄筋破断については未解明な事柄が多かったため内部扱いとしていたが、ASR小委員会に積極的に参画して、山陽新幹線コンクリート構造物の事例を通じて、鉄筋曲げ加工部に破断が生じた構造物の曲げ耐力やせん断耐力などの安全性評価に関する考え方について、幅広い議論をしていただくこととした。
 余談ではあるが、山陽新幹線コンクリート構造物のASRによる鉄筋破断について土木学会の委員会で本格的に議論されるのは初めてのことであったので、様々な分野の委員から根掘り葉掘り聞かれるのは避けたい(委員から第三者に間接的に情報が漏れるリスクを避けたい)という意見もあったが、逆にASR小委員会に参画しない場合のリスク(欠席裁判となるため、たとえば、不十分な情報で報告書が取りまとめられた場合のリスクなど)のほうがはるかに大きいことを説明し、②の評価WGにおいて私が幹事で、ASRについて詳しく勉強していたN君が協力委員という形で参画することとなった。②の評価WGでは、ASRにより鉄筋破断が生じた構造物の安全性評価に関するJR西日本の考え方や解析結果(たとえば、後述する図-6など)を説明する一方で、参画されていた名古屋大学のN先生からは最新のひび割れ解析モデルを用いた解析結果の説明があるなど、2年間の委員会活動を通じて、N君ともども大変ではあったが刺激的で貴重な経験をさせていただいた。
 ASRによる鉄筋破断の安全性照査については、限界状態設計法に基づいて設計最大荷重作用時の構造物の終局状態における安全度が、どの程度の鉄筋破断でどの程度低下するかといった検討を行った。また、極めて稀な道路橋の事例報告として、鉄筋のガス圧接部で破断している事例があったことから、ガス圧接が用いられた可能性があると想定された主鉄筋については、ガス圧接位置を特定できないために当該主鉄筋全長を無視して(主鉄筋がないものと見なして)耐力の算定を行った。なお、当該橋脚の形状と上部工の支点位置との関係から、張出し部はコーベルとして挙動すると考えられることから、曲げ耐力ではなく引張耐力について検討を行った。せん断耐力についてはトラス理論に基づき想定したひび割れ位置から鉄筋定着に必要な範囲(安全側に考慮して20φを仮定:鉄筋径φ)を考慮して、強度計算上有効となるせん断補強鉄筋量を用いて算出することとした。
 当該橋脚についての安全性照査の結果を図-6に示す。図-6は、鉄道構造物等設計標準・同解説(平成4年10月、鉄道総合技術研究所編)を用いて橋脚張出し部における主鉄筋の破断本数を仮定して耐力低下曲線を作成し、終局限界状態における断面力との比較評価を行ったものである。図-6から、引張耐力については、同一断面において主鉄筋の半数程度が破断しても発生断面力を上回っている。また、せん断耐力については、スターラップの曲げ加工部の破断がせん断耐力に与える影響は少ないこと、せん断耐力に影響を与えるのは主鉄筋の破断で、主鉄筋の7~9割が破断してもせん断耐力は設計断面力を上回っていること(せん断耐力にはかなりの余裕があること)などが分かった。詳しくは、土木学会コンクリートライブラリー124「アルカリ骨材反応対策小委員会報告書-鉄筋破断と新たなる対応-」(平成17年8月)を参考にしていただきたい。

4、ASRによる鉄筋破断が生じた構造物の補修

 当初、山陽新幹線コンクリート構造物において、ASRに起因する鉄筋破断が発生した箇所はほとんどが橋脚張出し端部の鉄筋曲げ加工部であり、列車荷重を直接支えていないために構造物の耐力に与える影響はほとんどなかった(図-7のタイプ①)。しかし、その後、ラーメン高架橋の桁受け部の主鉄筋やスターラップが曲げ加工部で破断しているケースが確認された(図-7のタイプ②、③、④)。図-7のタイプ②、③、④では、破断本数によっては構造物の耐力に影響がおよぶこととなり、鉄筋破断を放置すると構造物の耐力が低下する可能性があることから、様々な補修工法を組み合わせて補修を進めてきた。ただ、ASRに起因すると考えられる鉄筋破断が確認された構造物は10数箇所にとどまっており、コンクリート構造物全体(約12,000構造物)に占める割合は極めて少なく限定的であるといえる。

(1)破断した鉄筋の定着長の確保とひび割れ部への注入
 鉄筋の定着については、コンクリートをはつり落として鉄筋を露出させたうえで、鉄筋を添えてフレア溶接することで定着を確保した事例、鉄筋曲げ加工半径が設計基準値より小さいことや鉄筋間隔が小さくフレア溶接作業が困難であったことからスリーブ継手により接合し曲げ下げ部の定着分を鋼板に接合することで定着を確保した事例がある(写真-7)。桁受け部の鉄筋破断箇所の補修では、桁が上面に載っていることから、コンクリートのはつりが広範囲にできないためにフレア溶接は実施できない場合が多い。そのため、コンクリートのはつり範囲が比較的少ないエンクローズド溶接により鉄筋の定着を確保した事例がある(写真-8)。
 また、コンクリートをはつり取った箇所は、鉄筋の接合後は流動性の高いコンクリートを流し込んで断面修復した。一方、ASRによるひび割れ発生箇所には、ひび割れ注入を施工した(写真-9)。

(2)防水工やシラン系塗料による水の侵入防止
 ASRの抑制には、水の侵入防止が最も効果的である。しかし、水の侵入を完全に遮断することは難しいので、止水や排水、防水や遮水(撥水)を組み合わせて対策することが効果的である。シラン系塗料による表面被覆工の事例(写真-10)と桁上面の防水工の事例(写真-11)を示す。

(3)亜硝酸リチウム水溶液圧入工法
 一部の橋脚では、ASRの進行抑制を図るため亜硝酸リチウム水溶液をコンクリート内部に圧入する工法を試験施工した事例がある(写真-12)。ASRによるコンクリートの劣化過程は、骨材中の反応性鉱物とコンクリート中のアルカリ金属との化学反応でアルカリ・シリカゲルが形成される第1ステージと、アルカリ・シリカゲルが吸水膨張する第2ステージに分かれる。本工法は、リチウムイオンの存在下では第2ステージのアルカリ・シリカゲルの吸水膨張が抑制されることを応用した工法である。

おわりに

 JR西日本において、ASRにより鉄筋破断が生じた構造物の対策は、冒頭で述べたような理由から、当初は特別プロジェクトとして進められた。現時点では建設から約50年が経過していることから、ASRに起因する新たな大きな変状は生じにくいと考えて、山陽新幹線コンクリート構造物の維持管理の中に組み込んで管理している。しかし、ASRによる変状を完全に抑制することは困難であるとともに、遅延膨張性の反応を示す骨材の使用により、促進膨張試験の結果が閾値以下でも構造物の劣化が進行する可能性のあることが最近の研究で明らかになってきており、山陽新幹線コンクリート構造物でも遅延膨張性による変状と思われるひび割れが発生している構造物がある。以上のことから、ASRによる変状対策については、対策済み箇所のモニタリングを含めて、引き続き強い関心を持って取り組んでいくことが必要であると考えている。(次回は3月中旬に掲載予定です)。

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