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-分かっていますか?何が問題なのか-
第60回 景観とメンテナンス(その1)-計画・設計時の景観は重視しても、メンテナンスの時は?-

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.12.01

2.3 現行塗膜の補修方法について
 一般的に鋼構造物の防食塗膜は、一様に劣化することはなく、種々の要因によって限られた範囲で劣化現象に差異が生じ進行する場合が多い。過去に報告されている防食機能劣化や腐食の事例から判断すると、変状が問題となるのは多くが局部的もしくは部分的であるが、対策時期を遅らせ放置すると、鋼部材の断面減少量が顕著となり、補修方法として鋼材や炭素繊維等の当て板補修が必要となる。
 当て板補修は、修繕費用が多額となるだけではなく、対策工事を原因とする騒音発生や交通規制など、周辺への影響が大となる場合がある。最悪、鋼部材が局部座屈する場合もある。また、部分的な塗膜や鋼材の変状が発生している時点で部分塗替えを行わず、全面塗替えを行うことがあるが、健全な部分も塗替えることから、TLCCや環境負荷を考えると適切とは言えないと評価もある。
 ここで、鋼構造物を対象とした塗替え、全面塗替え及び部分塗替えの特徴等について、私なりに考えてみる。鋼構造物の塗替えを考えると、一般的に塗替え費用を占める割合が最も多いのは、足場、防護、交通規制などの仮設費用である。また、塗替え後の外観は、部分塗替えの場合、塗替え箇所と未処置部分との違いが明白となる。そこで、苦肉の策、境界部分をグラデーション処理し、何とか差異を薄めようとする。しかし、苦労して行ったグラデーションした結果はあまり良くない場合が多く、採用事例は極めて少ない。それよりも、湿布薬を貼ったように、部分塗替えを意識的に行い、コスト意識を前面に打ち出す事例もある。ここで、部分塗替えと全面塗替えについて、それぞれのより細かな特徴を示す。
 
1)部分塗替え
 橋梁の塗膜は、桁端部、連結部、下フランジ下面など、特定の部位の塗膜が他の部位に比べて塗膜の劣化が著しくなる傾向がある。このようなことから、塗膜劣化の顕著な部分を適切に維持管理することによって、橋梁全体として健全性が確保でき、全面塗替えする時期を延ばすことが可能となる。劣化と対策、耐久性能を考えると、理論的には部分塗替えを適切行うことが望ましいとなる。
 構造物の景観を優先して考えると、先にも一部触れたが、部分塗替えを行うと塗替えた部分と塗替えない部分とで光沢度、色調などに相違が生じるため、景観や美観を求められる場合は、塗替え手法をグラデーション処理(徐々に色を変化させる処理)等によって差異を薄めるなどの特別な配慮が必要となる。次に、多くの公的組織で行っている全面塗替えについて説明する。

2)全面塗替え
 全面塗替えは、健全な部分も含めて塗替える方法である。全面塗替えは、塗替え不要な部分も含めて塗替えすることから、不経済と不適切との評価が多い。不経済と判断するのは、素地調整及び塗料の塗布作業に要する費用のみで判断している場合が多く、仮設費用等を含んで数値で比較する事例は少ない。さらに、部分塗替えの場合、塗替えの規模や点在する箇所から発注金額が下がり、塗替え箇所が点在し手間がかかることから、請負確定率も低くなり、不調(発注しても請負者がない)の連続となる可能性が極めて高い。
 確かに、全面塗替えよりも部分塗替えのほうが合理的とも思えるが、先に説明した部分塗替えの短所から、今主流となっている全面塗替えを一概に否定することは困難である。
 ここで、今回の塗替え対象であるパイロンについて、部分塗替えと全面塗替えについて費用を算出してみた。算出条件は、塗替え塗装仕様を環境に優しい弱溶剤タイプのRC-Ⅰとし、塗膜の耐用年数を25年として、全面塗替え3回の75 年後までの範囲とした。また、塗替え工事の多くを占める足場工は、アーチ基部付近側面部は枠組み足場、フランジ面は傾斜があるため単管傾斜足場、アーチ頂部およびケーブル部は吊り足場として算定した。
 表-1は部分塗替え、表-2が全面塗替えの算出結果である。


表-1 対象パイロンの塗替え費用:部分塗装

表-2 対象パイロンの塗替え費用:全面塗装

 表-1と表-2で明らかなように、部分塗替えはTLCCが1億8,800万円、全面塗装は1億2,600万円と6,200万円ほど全面塗装のほうが経済的となる。この資料から判断すると、全面塗替えが適切となる。しかしここで注意が必要なのは、全面塗替えでは鋼材の断面欠損部分に必要な当て板等の対策費用が加算されていないこと、部分塗替えの利点となる延命効果が加算されていないことがある。私が全面塗替えを優位とするために、作為的に2つの表を作成したのではないことを理解されたい。次に、塗替えを全面的に行うことを条件にして、パイロン防食法の比較検討及び結果について説明しよう。

3)パイロンの防食法検討について
 鋼構造物の主要な防食法は、被覆による防食、耐候性材料を使う防食、環境改善による防食、電気防食がある。
 今回対象となるパイロンは、当初、防食法として塗料による被覆、塗装を採用していることから補修方法も限られてくる。一般的な塗膜の補修工法を考えると、より防食性能に優れた塗料、若しくは塗装仕様の採用となる。しかし、近年鋼部材を対象に多くの防食法の研究、開発が進んでいることから、パイロンに採用が可能な防食法を選別し、相対比較を行ってみた。
 比較する防食方法は、素地調整(ブラストが基本)によってすべての鋼肌を露出するRc-Ⅰ、素地調整(動力工具が基本)によって鋼材の腐食部分のみを除去するRc-Ⅲ、素地調整を軽微とするさび転換型防食処理・エポガードシステム、塗布作業の省略化を目的とする厚膜型ふっ素樹脂塗料、本州四国連絡橋で採用している高耐久性ふっ素樹脂塗料仕様の5つである。図-18に5つの防食法について比較した表を示す。


図-18 鋼製大アーチ形状パイロン塗替え方法の比較

 TLCCで優位となったのは、さび転換型防食処理のエポガードシステムである。しかし、東京国際空港のランドマークであり、失敗の許されない環境、条件であることから、過去に多くの実績があり、外観がある程度保証され、環境に優しい弱溶剤型Rc-Ⅰ塗替え仕様を選択し、工事発注することになった。
 ここで、私の個人的な意見を述べさせてもらう。比較検討した防食法の中には、より耐久性の高い塗料を使った塗装仕様である高耐久性ふっ素樹脂塗料があるのに、今回なぜ採用しなかったかである。確かに高耐久性ふっ素樹脂塗料は色彩限定の面はあるが、光沢度や色彩低下進展度を考えると、塗料メーカの協力によって色彩限定を外し、チャレンジする絶好のチャンスであったと思う。さらにより深く考えると、素地調整方法を短縮できるエポガードシステムや新たなブラスト法と塗膜剥離剤併用などを、先行投資的な判断で採用が可能ではなかったか、と思う。
 より深く担当行政技術者として考えると、2020東京オリンピック開催日までに工事完了とランドマークとしての機能確保は担保となると、信頼でき、実績も多い弱溶剤型Rc-Ⅰ塗替え仕様の採用が最適判断であったのかもしれない。いずれにしても、東京国際空港のランドマーク、鋼製大アーチ・パイロンの塗替え工事は始まった。ここまで読み進めてきた今回の話題提供は、説明してきた内容が想定範囲内で大きな問題もなかったことから読者は、いつもと違っているなと思ったのではないだろうか。しかし、私が話題提供に取り上げたからには、必ず何か裏がある。

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