道路構造物ジャーナルNET

⑧塩害(海砂、飛来塩分)

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.04.01

1.3 B橋梁(羽越本線府屋~鼠ヶ関間)
 本橋梁は延長149m38のPC橋梁で、既設の鋼桁の、上流側に造られ上り線として使われています。本橋梁は羽越本線府屋~鼠ヶ関間の、PCI型3主桁スパン19.0m×5連、PCI型4主桁スパン31.3m×1連、PCホロー桁スパン19.0m×1連です。  本橋梁と、海岸線までの間には、下り線(鋼橋)と道路橋(PC桁)があります。上下線の橋梁の中心間隔は15mであり、下り線は1924年に供用開始されましたが、これまで塩害による腐食のため、1966年に架け替えが行われています。
 本PC橋梁は、海岸線から150mに位置し、1974年に建設された橋梁です。この橋梁で変状が生じていたのは1~6連のPCI型桁の、主に下フランジコーナー部のかぶりコンクリートの剥離、剥落や鉄筋の腐食であり、PC鋼材の腐食にはいたっていません。

 図-2に3主桁の横断方向の含有塩化物の分布を示します。図中、左側端が海側の桁表面であり、右側端は、山側桁の山側表面です。かぶり20~40mmの位置で最大6.4kg/m3程度の塩化物(Cl-)を含有していることがわかります。


図-2 含有塩化物量調査結果(B橋梁)

 1998年に、これらの PC桁を補修することとしました。工法としては、できるだけ恒久対策に近い工法として、電気防食工法を採用することとしました。前述した橋梁で、断面修復では、すぐに再劣化が生じることから、短期間での再補修が必要となるコストと、電気防食工法の種類も増え、コストも以前より大幅に安くなってきたことでの判断によります。
 ここでは、今後の塩害対策のために、電気防食工法を本格的に採用していくことを考えて、追跡調査も行うことを考え、5工法をそれぞれの桁に採用しました。採用した5工法は写真-4に示すとおりです。
 施工年は1998年で、今年で経年22年になり、定期的に点検しながらですが、特に問題は生じていないようです。 


写真-4 採用した電気防食工法

1.4 まとめ
 飛来塩分による塩害は、断面修復などの補修では無理で、被害が生じた時点ではコンクリート内部に塩分が入っており、さらに年とともに塩分が加わってくるので、電気防食以外での対応は難しいと思っています。防錆剤と断面修復では数年で再劣化が生じてしまいます。
 飛来塩分での桁の損傷は、発見された場合に対応は、基本的には電気防食としています。それほどひどくない塩害環境の橋脚などの部分補修には、鉄道総研の開発したSSI工法も採用しています。いずれの工法も時々調査して効果が持続していることを確認しながら使っています。施工後20年程度経過していますが、今のところいずれの工法も効果は持続しているようです。

2.海砂を用いたことによる塩害

 コンクリートに用いる砂は、関東では陸からとれますが、関西地区では陸からの砂がないため海からの砂が使われていました。海砂は除塩をして使うというルールになってはいましたが、山積みにした砂に水をかけて除塩をしますが、水量が足らず、上の方だけ塩分が少なく、下の方は多いままの状況で、上のサンプルを検査して合格としていたこともあったようです。
 山陽新幹線の高架橋から、開業後しばらくしてから、鉄筋の腐食が原因で、コンクリートの剥落が始まりました(写真-5)。


写真-5 山陽新幹線高架橋のスラブの下面の状況

 海砂による塩分の影響と言われましたが、それだけでなくコンクリートの中性化も異常に早いことがわかりました。コンクリートのポンプ施工は東海道新幹線の開業の1964(昭和39)年頃までは使用されてなく、バケットでの運搬でした。1965(昭和40)年代からポンプ施工が本格的に始まり、コンクリートが硬いとポンプが詰まるので、しばしば水を加えて柔らかくするということが行われたようです。そのため、W/Cの異常に大きいコンクリートが施工され中性化が早く進み、塩分は中性化の境界面付近に集まる傾向があり、中性化が鉄筋まで達すると、塩分も鉄筋近くに集まり、鉄筋の腐食を進行させたようです。
 当初は断面修復での対策を行っていましたが、すぐに鉄筋の腐食が再度進行して、断面修復部が剥落するという状況でした。鉄筋周辺のコンクリートを完全に除去できなかったため、塩分が鉄筋周辺に残ってしまっていたためと思われます。今では、補修は鉄筋の奥まで斫り、鉄筋周面から塩分を確実に除去して断面修復をする対応が中心に行われています。スラブは設計的には安全余裕度が高く、鉄筋の腐食で断面が少々減少しても耐荷力面では大丈夫な部材です。
 新設にあたっては、今では生コンの塩分を直接測ることが義務化されているので、塩分の多いコンクリートはなくなっています。またポンプの性能も向上したので、ポンプが詰まるということは少なくなっています。それゆえ、ポンプのつまりを避けるために水を加えるということは少なくなったと思われます。ただし、現場でのコンクリート施工は、柔らかいコンクリートのほうが、施工が楽であるので、そのために水を多めに入れるということはしばしばやられているようです。受け入れ検査で単位水量を測定することは、品質確保に大切なことと考えています。

3.新設構造物への対応

 海砂の除塩の不十分なものは、生コンの受け入れ時の塩分検査が義務づけられたことからなくなっています。
 塩害地区の構造物には鋼材に塩分が届かないような処置が必要です。あるいは、塩分の影響を受けない補強材(新素材など)を用いるかの対応が必要です。コストからは新素材よりも鋼材を使うほうが安いので、一般には鋼材を使うことが多くなると思われます。その場合は、鉄筋でしたら被覆したものを、PC鋼材にはシースなどをプラスチックとし、グラウトキャップもプラスチックとしてそのまま残し、定着具付近も完全に被覆した構造にするなどの対策や、被覆鋼材の使用が必要です。鋼材を樹脂で覆うなどして、コンクリートに塩分が浸透しても、鋼材に塩分が達しないようにしておけば、鋼材の錆びは防げます。
 始めから対応しておけば塩害の損傷もなくすことが可能です。コンクリートの表面被覆はあまり薦めません。有機材料は紫外線で劣化しますし、コンクリートのひび割れなどがあると、ひびわれの開閉で被覆材は疲労破断してしまいます。コンクリートの中で有機材(エポキシ樹脂など)が紫外線から守られた状況で、鋼材を守るほうが確実です。

4.終わりに

 塩害による被害がこれほどひどいとは、建設時点で想定していなかったと思われます。コンクリートの中に塩分が容易に入ってしまうことの認識もなかったと思われます。日本海沿岸の環境がこれほど厳しいことも、構造物の損傷を見て認識させられました。
 塩分によるコンクリート構造物の被害は、これら以外にも時々経験します。かつて漬物工場のあった土地に造られた構造物が、地中に塩分が多く存在し、地表付近で鉄筋がひどく腐食した例や、以前も紹介しましたが、寒い地方でのモルタルなどに塩分が入っており、それが原因で鋼材が切れたりということも起きたりしています。鋼材に塩分が近寄らない対策をすることで、これから造るものは損傷を防げますので、確実な対応を望みます。
(2020年4月1日掲載。次回は5月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策

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