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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊿高齢橋梁の性能と健全度推移について(その7) ‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2019.06.01

2.構造の違いが健全度に影響するのか(その3)

 第一の分析対象はトラス橋である。今回分析したトラス橋の総数は22橋で、分析総数の0.9%にあたる。当初の定期点検では、健全なAランク評価が4橋の18.2%、ほぼ健全なBランク評価が同数の4橋の18.2%、やや注意のCランク評価が12橋の54.5%、注意のDランク評価が2橋の9.1%、危険のEランク評価は0橋であった。10年経過した定期点検においては、健全なAランク評価となった箇所は0橋、ほぼ健全なBランク評価となった箇所は、7橋の31.8%、やや注意のCランク評価となった箇所は、12橋の54.6%、注意のDランク評価となった箇所は、3橋の13.6%、危険のEランク評価となった橋梁は0であった。トラス橋の場合は、国内外で落橋事故が多発していることから危惧していたが、危険のEランク評価のトラス橋が無かったことは良かったと思っている。

 トラス橋の変状で多かった箇所は、写真‐7に示す、主構と床版の接触部、写真‐8に示す主構の添接部、写真‐9に示すトラスを構成する主構部材などであった。トラス橋は、点検や維持補修作業を行うのに上路形式、中路形式、下路形式を問わず、主構部分が鉛直方向に立ち上がり、上弦材や上横構などが輻輳した面をなすことから、3次元的な仮設が必要となる。トラス橋に足場や朝顔等の設置は経験者であれば十分お分かりと思うが、容易ではなく、箱部材の多い、斜材、端柱、上・下弦材においては、内部の変状が確認されても放置されがちな事例が多い。また、写真‐10に示すような斜材が床版を貫通する部分は、歩行者等の安全性確保は分かるが埋め込み形式が多く、『木曽川大橋』等の鋼材破断事故で学んだように、鋼材が破断に至るまで確認が出来ないタイプと判断でき、要注意箇所である。

 トラス橋の健全度推移グラフを図‐1に示したが、最も数が多かったのは、やや注意Cランクの状態のまま10年間経過したグループで31.82%であった。2番目が健全なAランクからほぼ健全なBランクに推移し、最終まで同ランクであったグループが9.09%であった。同様に、健全なAランクからほぼ健全なBランクに推移、最終やや注意のCランクに推移したグループ、ほぼ健全なBランクからやや注意のCランクに推移し、最終がほぼ健全なBランクに戻ったグループ、やや注意のCランクから始まり、Cランク状態を保ち、10年後に注意のDランクに推移したグループ、注意のDランクから始まり、ほぼ健全なBランクに性能が回復し、10年後がやや注意のCランクに推移した、以上の4つのグループが同様な9.09%であった。トラス橋の傾向としては、やや注意のCランクを中心に展開するグループが多く、先に説明した、点検や維持管理が容易でない特徴が推移傾向にも表れているのかとも感じた。

 次の対象はアーチ橋である。トラス橋の場合は、全てが鋼製であったが、アーチ橋の場合は、鋼製、コンクリート製の2種類である。今回分析したアーチ橋の総数は102橋で、分析総数の4.3%である。私の感覚では、トラス橋とアーチ橋の数がこれほどの違いがあるとは思っていなかったが、東京都の場合は、山間部の橋梁にアーチ橋が多いだけではなく、市街地においても優美な外観等の理由から好まれ、敢えて採用する事例が多いのでこのような結果となったと理解した。

 当初の定期点検では、健全なAランク評価が9橋の8.8%、ほぼ健全なBランク評価が同数の30橋の29.4%、やや注意のCランク評価が39橋の38.3%、注意のDランク評価が23橋の22.5%、危険のEランク評価は1橋の1.0%であった。10年経過した定期点検においては、健全なAランク評価となった箇所は4橋の3.9%、ほぼ健全なBランク評価となった箇所は、21橋の20.6%、やや注意のCランク評価となった箇所は、58橋の56.9%、注意のDランク評価となった箇所は、19箇所の18.6%、危険のEランク評価となった箇所は0となった。傾向としては、中位のBランク、Cランク、Dランクにバランスよく評価されており、私の個人的なメンテナンス感覚で述べると、管理レベルの平均的な表情を表すグループとの感がした。

 アーチ橋の健全度推移グラフを図‐2に示したが、最も多いのは、当初やや注意Cランクの状態から、10年間同レベルを保ったグループで16.67%であった。2番目が当初からほぼ健全なBランクのまま経過し、10年目にやや注意のCランクに推移したグループが8.82%であった。3番目は、注意のDランクからやや注意のCランクに回復し、そのままの状態で10年目を迎えたグループが7.84%であった。4番目は、当初注意のDランクから、5年目、10年目と注意のDランクのまま、言い方は悪いが3度の定期点検の間、注意ランクであるDランクで放置された?状態であったグループが6.86%であった。5番目は、ほぼ健全なBランクからやや注意のCランクに推移し、同ランクを保ったグループが5.88%であった。推移グラフの中では、最後の6番目は、5番目と同じ割合で、当初やや注意のCランクから、ほぼ健全なBランクに回復し、10年目に最終やや注意のCランクに戻ったグループが5.88%であった。アーチ橋の場合は、全体として健全度があまり良くない傾向と変状事例が目立った。
 理由として、鋼アーチの場合、外観としては目視外観調査によって確認し易いが、アーチ内の部材は輻輳していることから修繕し難いタイプと言える。写真‐11にコンクリート系アーチ橋で変状が多い、アーチ躯体下面および天然石等で化粧された境界部を示した。写真‐12には、鋼アーチでアーチ主構や吊材が床版を貫通する場合、当該箇所に腐食事例が多かったので、トラス構造と同様なので読者もお分かりとは思ったが、状況を示した。写真‐13は、アーチ橋において、前述したような部材が混み入った状態とはどのようなことか、読者が分かるように示した。写真を見て分かるように、内側の変状は何とか確認できるが、変状部材を修繕するとなると、施工の支障となる部材を外さなければならない。このような、部材が混み入った狭隘個所は、アーチ橋だけでなく、他の構造にもよく見られるメンテナンス困難箇所と言える。

 3番目の対象は、ラーメン橋である。ラーメン橋の場合は、トラス橋と同様に今回分析した対象は全てが鋼製であった。分析したラーメン橋の総数は213橋で、分析総数の8.9%である。分析総数がラーメン橋の倍にあたる数量となったことは、何度も言うが、構造特性でも述べたように市街地において、主要幹線道路の桁下空間を少しでも広く確保したいがためである。
 当初の定期点検では、健全なAランク評価が62橋の29.1%、ほぼ健全なBランク評価が同数の49橋の23.0%、やや注意のCランク評価が77橋の36.1%、注意のDランク評価が18橋の8.5%、危険のEランク評価は7橋の3.3%であった。10年経過した定期点検で、健全なAランク評価となった箇所は33橋の15.5%、ほぼ健全なBランク評価となった箇所は、46橋の21.6%、やや注意のCランク評価となった箇所は、95橋の44.6%、注意のDランク評価となった箇所は、39箇所の18.3%、危険のEランク評価となった箇所は0となった。

 ラーメン橋の健全度推移グラフを図‐3に示したが、最も多いのは、やや注意Cランクの状態を10年間保ったグループで7.84%であった。2番目が健全なAランクを10年間保ったグループで6.10%であった。同様な推移パーセンテージを示したグループは、健全なAランクから、10年目にやや注意のCランクに推移したグループ、健全なAランクからほぼ健全なBランクに推移し、10年目にやや注意のCランクに推移したグループ、当初ほぼ健全なBランクで保ち、10年目にやや注意のCランクに推移した4グループである。次が、グラフ上は同じパーセンテージとなっているが、詳細は違い、6番目にあたるのが、当初健全なAランクから、ほぼ健全なBランクに推移し、そのまま状態を保ったグループと、当初やや注意のCランクからほぼ健全なBランクに回復し、10年目にCランクに戻った2つのグループが5.63%であった。以上が健全度ランク推移のパーセンテージ上位のみを絞って説明した。
 ラーメン橋の健全度推移の傾向としては、健全なAランクやほぼほぼ健全なBランクから、やや注意のCランクに推移したグループの総パーセンテージが23.93%と1/4に近かった。しかし、下位パーセンテージも含めて分析してみたところ、注意のDランクに推移したパーセンテージが結構多かった。そこで、その理由を考えてみた。脚部のヒンジ支承以外に支承がある場合やゲルバー構造の吊桁部を端部に持った場合は、桁端やゲルバーヒンジ箇所において床版からの漏水や遊離石灰析出によって腐食が著しい事例が多く、修繕し難いからとも考えられる。写真‐14に鋼ラーメン橋の主構と鉄筋コンクリート床版の状況、写真‐15に先に説明したゲルバー部の著しい腐食状況を事例として示した。また、写真‐16には、ラーメン橋の点検チェックポイントとして重要なヒンジ支承部の外観を示したので参照されたい。



 4番目の対象は、吊橋である。分析した吊橋の総数は6橋で、分析総数の僅か0.3%である。今回の対象となった吊橋は、一般的にイメージする支間長が長いケーブル系の吊橋ではない、古き良き時代のアーバーチェーンを使った吊橋である。対象となった吊橋の建設年次が古いこともあり、健全度は、対象橋全てがやや注意のCランクであった。健全度も分析対象期間中なんら措置を行わなかったことから、当初はやや注意のCランク、5年後、10年後も同様な状態であった。変化が無いので見栄えはしないが、図‐4に健全度ランクの推移グラフを示した。

 吊橋の変状としては、自らの経験が限られていることから多くは説明できない。限られた経験からアーバーチェーンタイプの吊橋を事例に説明すると、写真‐17は、吊橋構造として重要な、ケーブルをイメージして見てほしいアイバーチェーンを使った自碇式吊橋の外観である。私がここで言いたかったのは、アイバーチェーンをケーブルに置き換えて考えてもらえば、ケーブル系の吊橋も同様との趣旨である。

 写真‐18は、アイバーチェーンの定着部であるが、路面からの遊離石灰析出で腐食が始まっている。この写真も一般的アンカーレイジのある吊橋に置き換えて考えれば、アンカーレイジスプレー室のケーブル定着部・アンカーフレームの腐食と考えてもらえば良い。

 写真‐19は、床桁(主構)を吊っている吊材の定着部と主構を示している。ここに示した吊橋の詳細ディテールは、重要な点検ポイントであることを理解されたい。

 図‐5は、自碇式吊橋の吊材定着部の溶接部に疲労亀裂が発生した箇所である。写真‐20は、上記の疲労亀裂発生箇所部分を磁粉探傷し、亀裂の規模を計測した状況である。前述した吊橋の概要で説明したポイント、ケーブルバンド、ハンガー定着部を上げた理由はここにある。引張材アイバーチェーンにも米国・シルバーブリッジのように疲労亀裂発生の可能性はあるがケーブルとなると聞いたことは無く、多くは、吊材定着部(ケーブルバンドなど)や補剛桁の格点部などである。現在国内外で行なわれている吊橋の補修・補強は、今回説明した箇所の事例が多い。


 分析の最後は、斜張橋である。分析総数2橋で吊橋よりも少なく、分析総数の0.1%である。分析対象となった2橋とも隅田川に架かっている。建設年次が新しいこともあり、いずれも健全なAランクであり、5年後、10年後もAランクの状態を保持している。建設年次が他の形式と比較して新しい橋梁が多いのが斜張橋であるが、点検のポイントは、写真‐21、写真‐22に示す斜張橋の要とも言えるケーブルの主塔や床構造の定着部である。他に考えるとすれば、ケーブルのゆるみ、桁のねじれなど斜張橋の構造系に関わる異常を調べる目的の張力測定、弾性拘束ケーブルの張力測定があげられる。近年建設された斜張橋を観察して思ったことは、先にあげた以外に、主ケーブルや弾性拘束ケーブルのソケット抜け出しにも注意を払うべきと思った。いずれにしても、吊橋と構造は異なるが、変状は似通ったものが多いのは事実である。

 以上が、今回分析した5つの構造形式別の健全度および健全度推移の解説である。それでは、今回の最終章に移るとしよう。

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