道路構造物ジャーナルNET

㊷百錬自得

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.05.16

3.維持管理は新規よりも厄介

 点検の第1ステージが終わり、第2ステージに向かう中、議論は手抜きの点検に向かっている。恐ろしいことである。今回の、いわゆる要領改訂で読み取れることは、結構点検の自由度を増やしてくれたと言うことと、評価Ⅲの、対応に幅ができたと言うことであろうか?
 しかし、自由度が上がると言うことは、責任も上がると言うことを忘れてはならない。1巡目で判断し、2順目では、物件ごとにここを見ようとか、近接目視は大変だったのでドローンでひととおりスクリーニングをし、疑問点やよく見れないところを近接で行くか! とか、別の方法を取ろうか? とか、きちんと考えて実施すると言うことである。そして、どういう方法をとっても良いが、なにか有れば責任が管理者にあるということである。

 第1ステージが終わり、新年度となり、第2ステージの点検や、第1ステージの結果から、補修には言っていくわけであるが、本格始動はこれからである。ここでよくよく考えないと、とんでもないことが起きる。コンサル任せでは非常に心もとない。詳細調査も必要であろうし、補修工法の厳選と言った問題も有る。それぞれの自治体でどう取り組んでいくかである。
 ドローンもロボットも結局は“カメラ”である。カメラで撮影する方法を用意しているだけである。判断は人間。AIもディープランニング型が主流であると言うことは、誰かの知見である。結果が正しいのかどうか? はまた判断しなければならない。つまり、ここが技術の世界なのである。結局は知見を有した技術者の判断が重要に成ってくる。

 はっきり言って、新規もできない者が、維持管理を出来るわけがない。しかし、世の中はそうなっていない。考えられていない。構造物をわかって居ない人間が、この老朽化問題と言う難題に対応できるわけが無い。簡単に言うと、どのように作るのかもわからない者が、見ても、どう直すのか分からない。
 新規の設計で「ソフトでやりました。」がこれまで良く聞く言葉だった。最近は「ソフトができていないので、できません。」である。しかし、バカとハサミは使いようでツールとしてのソフトをうまく使って、答えを出せれば、それでよしとしよう。それ以上は期待しても無理であるので。しかし、現実はそうでは無い。

 「補修材料・工法」に関しても、今の現状を見ると、本当に評価して、実施しているのか? という事が、まず言える。たとえば、ひび割れ注入は、点検でも皆、ひび割れを一生懸命拾っているが、この1本1本に注入していって、どれだけの効果があるのか? 確かに水の浸入を防ぐのであれば、一応の効果はあるのかもしれない。しかし、最劣化はむろんのこと、施工そのものの精度や効果がきちんと評価されているのだろうか? 評価までは行かなくても、施工性や耐久性の検討や、施工後の追跡調査などは十分にやられているのか? 前述しているように、コンサルが何処まで理解し、その材料や工法を選定してきているのか? 実際の効果ではなく「比較表」の作成が目的になっていないか?
 技術の世界は厳しいものである。もし仮に技術の世界に入りたいのであれば、それなりの覚悟は必要である。きちんと訓練を受け知見を磨いたもので無ければ、本当の技術者にはなれない。組織内部での仕事に追われそれだけこなしているようでは、組織内では通用しても、外部からの評価は無い。

 昔、上司から、「通勤途中に道路橋示方書を読み込め」と言われ、読んでいたが、時々同類の人間を見た。しかし最近は一切見ない。また、仕事で悩んでいると、上司から「分からないことは聞けよ。知識も経験も無い奴が悩んでいても解決しない」と言われた。まさに今の状況を見ていると、そういう状況である。私の言うこと(アドバイス)を聞かない。わからない者たちが議論? している。会議なども、経験も知識もない者が集まって会議している。これではなにも決まらない。余計なことを気にして、肝心の意思決定に時間を要している。

4.まとめ

 昔の自分を振り返ると。尊敬できる上司や先輩が居た。その方々を目指し、教えを請い、自分なりに工夫した。現場では職人さんや鳶さんにもいろいろ教えてもらった。しかし、今の自分は、その尊敬していた方々、まで行っていないのかもしれない。しかし、自分のやり方でやるしかない。私は、いちいち細かいことを言うのは嫌いだ。好きな言葉は「百錬自得」である。これは、高校時代の部活の道場に飾ってあった額に有った言葉であるが、教えてもらうのではなく、自分で技を練って、自得すると言う重要性を説いたものであるが、それにしても未知の技は、まずは教えてもらわないといけない。教えてもらい自分で考え工夫するこれが重要なのである。

 「植野塾」というものを、5年間月1回のペースでやってきた。意外と、有名になり、いろいろご意見もいただくのだが、「ならば自分でやればよい」というのが私の意見である。私なりにテーマを決め、どういう風に話したら興味を持ち、考えてくれるのか?考えてはいるが、なかなか思ったようにはいかない。まずは、「意思」が無い。「考えない」。それが、学校を卒業し数年たった公務員なのかもしれない? しかし、そういうと、反論するでしょう! それが重要なんです。反論するだけではなく、違いを見せてよ!
 次回にでも私が考える官民の違いを書こうかな? いずれ報告しなければならないし。最近、「植野塾」をここでやっているのも、だんだん馬鹿らしくなってきた。反応はないし、意外とこんな物でもやるのは大変な労力と、私の人脈を使っているので、協力してくれる方にも申し訳ない。事務局をやってくれている連中にも申し訳ない。

 某大手銀行の役員の方と話していたら、まさに私が先日吼えたことと同じことをおっしゃってた。「われわれは、逃げられない時代に居る」という事である。これまでは、様々な問題が起きても、なんとなく隠して逃げられた。しかし、もうそれも無理である。問題が起きれば責任が発生する。それを回避するには、対処していかなければならない。維持管理の問題も、結局は財政の話になり対応できないと言うことになっていく。しかし、それでは誰かが責任を取らなければ成らない。財政部長か? と言うとそうではないだろう。第三者に被害が出れば、建設部長か担当課長である。これまで隠せたものも隠せない。早めに正直に公表し出来るだけの対処をしていく必要が有る。

 仕事をしていく上で重要なことは、一番に人脈である。自分の分からないことを聞ける人間をどれだけ持っているか? これが重要である。これをどう作るか? 良く聞かれるが、そういうことを聞くこと自体が、「無理」である。私は良く「金と時間と労力」と言う。これが人脈を造る上では重要なのだ。
 そして、結局は、自分で考えて行動する実行者が必要なのだ。「機関車」である。客車ばかりの公務員組織では今後厳しい坂は、登れまい。こういう「機関車」を1人でも富山市に作りたいのである。これは、事務屋さんでも技術屋さんでもかまわない。そして、出来れば技術屋でも作りたい。

(2019年5月16日掲載、次回は6月中旬に掲載します)
【バックナンバー】
㊶どこを向いて仕事をしているのか
㊵機関車でありたい
㊴技術力の研鑽
㊳維持管理における官の役割
㊲点検は維持管理の入口
①魅力ある提案が欲しい

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