道路構造物ジャーナルNET

㊵機関車でありたい

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.03.16

4.職員教育の難しさ

 職員教育に関してよく相談される。これがなかなか難しい。県民性もあるし、個人の資質によるところが大きい。
 各所で、やはり課題になるのが職員の教育問題である。質問されても答えようがない。個人の資質が大きく、わかる奴は、言わなくても分かっている。よく、「富山で植野塾をやっているが、何人ぐらいが変わったか?」と聞かれる。数人かな? と答えると、納得する方と怪訝な顔をする方が居る。納得される方は、良く理解されている方だと思う。理想論を追う方は納得しない。
 しかし、では何処で成功事例があるかと言うと、おそらくは無いだろう。だから着目されている。やっているほうとしては正直結構大変なのだ。通常のセミナーや講習会もそうだが、聞くだけの人間はそれが分からない。聞いて分かったつもりになり、理想論を語りだす。
 土木技術者で大切なのは、まずは実績である。様々な経験特に現場の経験が重要である。そして、勉強しなければならない。簡単なところでは、土木業界の実態や動き、企業の状況など、役所の人間としても学ぶべきものは多い。しかし、どうも診ていると、淡白である。変なところにこだわったりするがマルチで物事を見れない。今の時期は皆さん議会に夢中であり何事も進まない。これでは年間4回の議会で疲弊してしまう。

 私は、ここ(富山市)というよりも、関わる全ての人に、自分の経験から得た物を、すこしでも、感じて欲しいのだ。自分で言うのはおこがましいが、これまで様々な経験をしてきた。
 また、順調に来たわけではないのでその失敗論も聞き取って欲しい。ある先生に「植野さんは波が有るよね」と言われたが、脚光を浴びる時期と、消える時期が交互に来るということだと理解した。
 まさにそうなのだ。これは、実は私が、世の中の先が見えるのでというと、いささか宗教がかってしまうが、だいたい想像でき、少し考えれば動きが読めるのである。これは、幼いころに、爺さんに叩き込まれた、「兵法」「戦略」などの教えの結果である。だから、他人よりも先に取り組み、みんなが参入してきたころには、飽きてしまっている。飽きるというとまた批判されると思うが、興味が薄れて、みんながやりたいならば、他の人に譲ろうと思ってしまい、自分では次に行く。その次に移って、エネルギーを蓄える期間が、波の底になるのだ。
 出来るだけ、せめて数人には今後取り組むべき課題を伝えたいが、それはどうなるか分からない。別の組織の人間になるかもしれない。

5.補修オリンピック

 現在世の中では、第一ステージが終了し、いよいよ補修が本格化するはずである。補修設計の業務もコンサルさんに出されつつあり、ここではすでに多くの補修工事が始まっている。ここで問題なのが、補修技術に関しては、明確な評価がなされていないことである。

 そこで、近隣の大学の先生方と「補修オリンピック」と銘打って、実証試験を行うこととした。第一回の募集は締め切り、4社が参加されることになった。15日に合同説明会を開催する。評価に参加される先生は、金沢工業大学の宮里教授、田中准教授、金沢大学の深田教授、富山県立大学の伊藤教授 プラスアルファーである。
 今回の募集技術は、コンクリートの断面修復及びひび割れ注入であったが、少ない応募でガッカリしたしだいであるが、逆に安心もした。やはり、ほとんどの企業が何らかの形で評価されることに懸念を示した結果であろう。こちら側としては数が少ないほうが手間が省けるのだが。
 予定としては試験施工を行い、施工状況や精度に関して評価し、経年劣化を見ていくことになる。引き続き他の工法に関してもみていき、どういう技術が今後の補修工事で役立っていくかを見極めていきたい。
 「実装のための実証」という事が、やられていないので、これをやりたいと考えている。今回は第一次募集であるが引き続き行いたいと考えている。この結果は、1考察として公表していきたいので、補修工法の選定に悩む、自治体さんの参考になれば幸いである。

6.まとめ

 前回、どうも体調が良くない。と書いたら、多くの方から、ご心配をいただいた。お守りまで届いた。ありがたいことである。人間ドックの結果は最悪であった。しかし、余命宣告を受けたわけではない。が、自分の中で、任期の余命は考え出したというのが本音である。
 物事には、時間の制約というものがある。これを考えないと何も出来ない全て未完に終わる。
 インフラのメンテナンスで重要なのは「しくみ」+「ツール」+「人財」であると思う。ここをきちんとしないと、自治体はいつまでも、旧態依然とした、これまで同様の仕事のやり方をしていくことになる。「しくみ」として、残すのが重要である。これが、「富山市橋梁マネジメント基本計画」であり個別の施策なのである。あとは、どう考えるか? 何を利用していくかである。

 残りの期間で、何を伝え残せるかという事が最近の私の課題である。何も伝えられないかもしれない。けれど何か残したい。残った課題は、次の場所があればそちらで試したい。何処に行くか? 何をするのか? 分からないが。インフラメンテナンスは、終わりなき戦いであり、何処に言ってもある課題であるので、あとは、真剣に解決しようと言う気持ちだけなのである。

 これまでの業績(富山だけではない)を振り返ってみると、私の経歴では「まとめる」という事が多かった。マネジメントである。そして「先進性」世の中の新たな課題に常に取り組んでいく運命に合った。しかも、タイミングが、いつも早すぎるのである。だから、世の中が理解せずついてこない。おそらく宿命であろう。世の中が気づいたころには次に行っている。
 「システム開発」「データベース」「自動運転」「AI(エキスパートシステム)」「CIM(3D図化)」「3D計測」「モニタリングシステム」などであるが、これは実際に取り組んだ強みがあるので、上辺だけの提案では、私のところはクリアできない。
 しかし、それも自分自身では楽しい。新たに課題を切り開いていく快感は私にとって最高である。それで、多くの方々が参入してくると、私自身はつまらなくなって面白みがなくなってしまう。私がよく言うのは、「客車は直に集まるが、客車だけでは動かない。機関車が要る。機関車もスピードを出し、重たい物を運ぶのには、さらに何両か機関車が要る」という事だ。世の中、なんと客車の多いことか? 私は常に機関車でありたい。
(2019年3月16日掲載、次回は4月中旬掲載予定です)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム