4.官の改めるべきところ
やはり役所の職員も襟を正すべきだろう。つまり、興味がないかもしれないがキチンと勉強し、分からないなら、分かっている専門家に任せるということである。私が感じているのは、分からないのだが、適当に処理してしまっているということ。意外に本人はそういう感覚がないのかもしれない。また経験値も、技術力の低いコンサルに任せて、そのままということも。疑問に思わないのと、問題解決のためにどうすべきかという基本姿勢ができていない。まあ、技術者ではないので仕方がないか?
技術者の世界は厳しい世界である。上司や先輩から、きちんと教育・訓練を受け、経験を積み、一人前になっていくのであるが、そうでもないものがプロ気どりしている。わからない人たちが取り繕うためにわかったふりをしてよいことを言っている。とにかく、1巡目が終わり、真実を伝えるのが第一である。
ここで役所の最も悪いところは、隠そうとすることである。これにはいろいろ理由がある。行政としてなかなか言い辛いこともある。言うと市民の反応が……というのもあるだろう。しかし、これからは伝えないと責任問題に発展する。公表と広報が重要となる。適当に処理し、「分からなかった」ではすまない。
どうみても変な構造のものがある。何でそうしたのか理由も明確ではない。構造系としておかしい物が一番困る。これも、昔はおかしな設計をしていれば上司や先輩にこっぴどく怒られた。それは、パワハラやイジメではなく、同じ間違いをしないようにという温情なのだ。
私が覚えているのは、ラーメン部の隅角部の設計が甘かったときに、上司から「こんな設計をしてはダメだ。建築ではないんだ」と言われ、建築構造と土木構造の違いを聞かされた。それから、建築的構造と土木構造物の構造細目には注意を払っている。
とにかく、これからは隠さずに、真実を伝えることが自分達の身を守ることになる。隠すからには責任を取らなければならない。悪者に成る覚悟も必要であるし、大変な時代である。
5.まとめ
11月29日に、藤野陽三先生を富山にお迎えし「攻めるインフラメンテナンス~セカンドステージへ~」と題して講演会を実施した。藤野先生からはSIPに関連し、新技術の積極活用などの話がなされた。政・産・学・官の多くの方々に参加いただき、熱心に聞いていただいた。社会全体の興味があることを改めて感じた。
建設技術研修会での基調講演を藤野陽三先生が行った
パネルディスカッションと会場風景
12月4日には、「道路技術講演会 in兵庫」というもので講演をしてきた。会場の皆さんは熱心に聞いていた。講師は、国総研の玉越さんと、中貝豊岡市長と私であった。玉越さんの話を改めて聞いたが、考えは一緒である。ひび割れ損傷図は、誰も書けと言っていないのに、自治体側が勝手に判断し書かせている。これは労力の無駄であると昔から私は思っていた。写真でよいのである。結局なんかやったという証拠が欲しいから書いているのだろう(まあ、ひび割れ延長を出したいからというのもあるかもしれない)。機械的にできることと、(知見のある)技術者が適切に判断しなければならないことは違うのである。
12月6日~8日に、東京ビッグサイトで「社会インフラテック2018」が開催された。これはインフラメンテナンス国民会議の絡みもある展示会で、多くの参加者でにぎわっていた。
「社会インフラテック2018」の会場の様子/富山市もブースを出展した
私は7日に、トリプルヘッダーを務めたのでその感想を書いておく。まず、「新技術の官側のニーズ」ということであったが、結局、何も考えていない発注者は安易に使うか使わないかである。何の疑問も持たないだろうが、使うためには責任感が重要である。民間の開発者が最も抜けているのはニーズの読み違い。これは大学やコンサルに相談して開発していて、官側の実態が理解できていないという致命傷であるのだが気付いていない。
次に、「先進自治体の取り組み」というテーマで、府中市の「包括監理」と郡山市の「IOTを活用した施工」に関するものと、富山市の「橋梁マネジメント」であったが、それぞれ維持管理の手法として重要なテーマである。今後はこういう使えそうな手法を的確に判断し活用していかなければならない。世の中の風潮としては、何かひとつツールをそろえれば、うまく行くような話になっているが、そうではなくて、全体のしくみとツールがそろってこそうまく行くものと思う。つまり、自治体では「しくみ」と「ツール」を積極的にそろえなければ先は無い。
最後に「クロージングセッション」ということで、政策研究大学院大学・家田仁教授、東洋大学情報連携学部・渡邊朗子教授、国土交通省大臣官房・岡積敏雄技術参事官と私で、トークを行った。ここではメンテナンス産業の今後について議論したのだが、幅広い考え方があるが、社会の実態に合わせると結構難しい問題であると感じた。点検は維持管理の入口である。これの精度が悪ければ、診断をはじめ、補修とその後の管理に影響をおよぼす。今の状況を見ていて、懸念するのは、橋が分からない者が点検し、橋が分からない者が診断して、補修設計をし、補修を行っている。これでは、問題が起きて当たり前なのだが、当たり前に行っている。早期に何とかしないと、問題は大きくなる。
「先進自治体の取り組み」のテーマで講演を行う植野氏/クロージングセッションにも参加
いずれのコーナーでも、終わった後に数人がわざわざ来てくれて御意見を伺ったが、いずれも意見の相違はなく共感したというものであった。改めてありがたかった。
なお、展示物の企業のコーナーで一番良かったと思うのは、「特殊高所技術」さんのコーナーで、子供達に興味を持ってもらえるような取り組みをしていたことである。
(2018年12月16日掲載。次回は2019年1月中旬に掲載予定です)