道路構造物ジャーナルNET

⑤過去に実施した床版補修工事の失敗!?事例

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~マネジメントしつつ専門的知見を得ていくために~

愛知県東三河建設事務所
道路整備課(事業第三グループ)

宮川 洋一

公開日:2018.09.01

はじめに

 今年度より建設部に復帰し、久しぶりに橋梁長寿命化のシンポジウムに参加する機会があった。まだまだこの分野においてやるべきことは多いと再認識した。復帰後は橋梁担当に配属されなかったが、実務に関わっていない年月が長くなると、設計思想、最新基準の適応、現場感覚など、維持していくだけでも労力がいる。ましてや幅広い分野を扱う地方自治体の技術職員がすべての分野をマスターするのは不可能だ。とはいえ、一つの分野においてより深く追求することで「見えてくるもの」もある。試行錯誤しながら突き詰め、目指すものに近づける様は、異なる分野においても案外共通の「何か」があるように感じる。人が何かを求めていく行為には違いなく、ただフィールドが異なっているということだけなのかもしれない。そのことに気づいている人も案外いるのではないか。

 10年ほど前、地方自治体の橋梁現場の最前線で奮闘していた頃、「いったいこれからどうなっていってしまうのだろう」と不安に思っていた橋梁メンテナンスの分野において、「今すぐメンテナンスに舵を切れ」「インフラメンテナンス総力戦」などといったかけ声とともに関係各方面の方々のご尽力により、着実に流れは変わってきている。
 愛知県では橋梁点検を全橋実施し、その結果、悪いものから直していき、「事後補修から予防保全への速やかな転換」という方針のもと、点検結果の判定区分がⅢ(早期措置段階:道路橋の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態)のものは次の点検までに直すといった「ルーティンワーク」に入っていると聞く。確実に年月がたつと要補修対象橋梁が減っていく仕組みだ。
 ただ筆者が懸念しているのは、計画遂行のプレッシャーなのか、きっちり仕事を遂行する役所の几帳面さが災いしてなのか、立ち止まって計画内容を見直すことよりも、目的化された計画遂行の方が幾段か優先されているように感じることだ。

 以前筆者が他部局に転勤し、また同じ担当に戻ってきた際(当時転勤後、元の職場の同じ担当に戻ってくるケースはまれだった)、「何故そんなことに!」と思うほど方針転換されてしまっていた経験をした。賛否は私がすることではないかもしれないが、あまりにも短絡的、表面的に行われたように思われた。その時は「あいち地震対策アクションプラン」であったが、当初計画の遂行の重圧からなのか、とにかく型にはめ、その対象を「対応済」とすることが優先された結果、引き起こされたのだと思っている。そのような状況のなかで流されず、あきらめず軌道修正するモチベーションを保つのか。この経験については後の機会に紹介したい。

 橋梁メンテナンス分野において、これまで実施されてきた工法では有効な解決策が見いだせないものもある。その中でひとつふたつチャレンジしていかねばならない案件や新技術・新工法など実証が必要なものもある。これまでの実績を基本に地道に一歩ずつ、恐々確かめながら……。
 とても地味ではあるが、筆者が10年ほど前に実施した床版補修工事の報告をする。方針決定から設計、工事施工までのいきさつを当時、愛知県の技術発表会で発表した内容に加え、施工後5年、10年の経過をあわせて報告する。今となってはあまり胸を張って報告できない案件かもしれないが、何かの参考となれば幸いである。

境川橋の床板補修工事事例報告(平成19、20年度実施)

路線および橋の概要
 境川橋は、愛知県の尾張地方と三河地方との境界となる境川にかかる一般県道泉田共和線の橋である。国道23号バイパス富士松インターや主要地方道瀬戸大府東海線、一般県道今川刈谷停車場線を結ぶ、地域交通としては重要な路線の橋梁となる。当時、一部の区間が未開通であり、交通量は2,700台/日、大型車混入率は1.2%とさほど多くなかったが、付近に代替え路線はなかった。


一般県道泉田共和線、境川橋の位置

 橋長86m、3径間単純合成鋼鈑桁橋、幅員は8.8m、2車線、歩道は0.75mが両側にある。床版支間は3.0m、床版厚は200mmである。設計は昭和47年の道路橋示方書に基づいて設計されていた。
 この橋梁の床版がなんだかおかしいという話は、過去より橋梁メーカーなどからたびたび報告があり、補修提案があったことや、橋梁点検においても指摘されていた。当時昭和48年の竣工から35年程経過していた。 


境川橋の概要

床版の現況調査
(1)劣化の状況
1)目視調査
 橋面に舗装のひび割れがあり、特にA1~P1間の上流側にひび割れのひどい箇所が確認された。床版下面より調査すると橋面にみられた舗装ひび割れの直下には特に目立った剥落やひび割れは確認されなかったが、床版コンクリート表面の色および質感が明らかにおかしかった。橋面と同じA1~P1間の劣化が著しく、コンクリートの部分的な剥落片と思われる落下物が確認された。P1~P2間、P2~A2間には張り出し部などに雨水による劣化が見られるものの、目立った劣化は確認されなかった。


目視調査(左:橋面より/右:下面より)

2)詳細調査
 コアを採取し、コンクリート圧縮強度、中性化等を調査した。採取位置は、目視調査の結果を勘案し、A1~P1間で1カ所、その他P1~A2間を代表して1カ所とした。その結果、前者はコンクリート圧縮強度13N/mm2、中性化深さ約6cm、後者はコンクリート圧縮強度30N/mm2以上、中性化深さ約2cmであった。当時の合成桁におけるコンクリート設計強度が27N/mm2であったことから、後者は中性化の進行が若干見られるものの、ほぼ健全な状態であるのに対し、前者は著しく強度が不足し、中性化も進行していた。


詳細調査(左:コンクリート圧縮強度/右:コンクリート中性化)

調査結果まとめ

(2)床版劣化要因の考察
 ほぼ健全であった他径間に比べ、A1~P1間の床版コンクリートの品質が著しく悪かったのは、何らかの施工不良があったのではないかと考えられた。また、本橋の床版は一般的な床版劣化のメカニズムによっていないように思われた。

 
境川橋の床版劣化要因

 ここまでコンクリート強度が低いにも関わらず、床版の疲労劣化のメカニズムに当てはまるような破壊がみられていないのは、一部未供用の区間があり、累計の交通量が少なかったこと、とりわけ大型車の台数が少なかったことや、輪荷重の載荷位置が床版の支間中央部でなくちょうど主桁付近に存在し、床版に負担がかかりにくかったのではと推察した。
 しかし、このまま放っておくといずれは劣化が進行し、被りコンクリートの剥落による断面損傷、舗装クラックも進展し、路面陥没による被害のおそれがあり、早めに手をうちA1~P1間の床版をメインに補修することとした。


こんな状態でよく35年もよくもった!?

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