道路構造物ジャーナルNET

㉝豪雨災害と橋梁

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.08.16

3.富山での取り組み(その1)

 まず、今回は「地元コンサルの実態の把握」である。
 4月1日に赴任し、早々4月11日に会計検査が入った。副市長から「対応を頼む」といわれたが、まず、3件指摘された。そのうち2件は、説明を加え納得していただいた。しかし、1件は明らかに設計ミスだった。
 担当したコンサルを何度か呼び、話を聞いたが、埒が明かなかった。驚いたのは、設計の考え方を聞くと、「ソフトでやった」と答え続けることだった。「ソフトとはなにか?」と聞くと、協会のソフトだという。中身は理解しているのか? ということになっていき、散々考えたが、まず手計算で追えないのか? ということであるが、そういう教育を受けていないのであろう。
 まあ、いろいろ手を使い検査院には納得してもらったのだが、一番腹が立つのは、反省の色がないことである。市長からは「来て早々、3年分働いてもらった」と言われた。
 その教訓を基に、発注の状況を聞き込むと、地元企業優先であり、技術者の資格要件が何も考えられていなかった。「これでは、いくらなんでもまずいのではないか?」ということで、各コンサルに対し、コンサルタントの登録部門と有資格技術者リストの提出を求めた。すると、半年間出てこなかったのである。通常であれば、各企業のHPで調べられるのだが、HPにはそれが載っておらず、調べるしかなかった。
 そうしていると、やっと半年後に一応出てきたのだが、業者間で、「あの会社の○○の、保険証を確認しろ」とか、チクリ合戦が展開された。そこで私は、「コンサルへの能力別発注」を実施するように検討を進めた。当たり前のことだと思われる方も多いと思うが、そんな状況なのである。つまり、委託業者に無免許運転をさせていたのである。「負の遺産」も増えるわけである。
 コンサルへの能力別発注を実施する旨を、職員や上司に話をすると、「地元発注という原則があるので難しい」という。「何でだ? コンサルの成果に満足しているのか?」と言うと、「いや、毎回ひどい目にあっている」ということであった。「では、なぜだめなんだ?」と言うと、「災害時や、除雪の際に協力してもらわなければならないので、仕事を出さなければならない」と言う。


コンサルへの能力別発注

「全部なくすというのではない。能力にあった仕事に選別しだすということだ」ということで、やっと部内は納得してもらったのだが、自治体の委託の裁量は各課長にある。そのために、現在でも、それが実施されているのは、「橋梁保全対策課」だけである。他の課は未だに地元優先である。そのため問題も多い。
 当然、何で実施しないのか聞くと「上司が……。議員が……」という話になる。しかし、実は何度か議員さんに呼ばれて話はしており、納得していただいている。私の最後の決め台詞は「分かりました、ダメであるならば仕方がありません。しかし、なにかあれば責任は当然取られるんですよね!」である。
 しかしこれで、これまでよりも仕事量を減らしている地元コンサルは、4年数ヶ月経った今でも、私の悪口を、街の中や議員さんに言っている(これは確認をとっている)。なんとも情け無い。好きで、ここにいるわけではない。追い出すなら追い出せばよい。
 当然、この能力別発注と合わせて、業者の評価も行っている。これは全課の担当ごと、業務ごとに出させているが、その内容を見ると滑稽である。100点マンテンで、40点や30点というものがある。「これって不合格だろう」と言うのだが、「それが気持ちです」という者すらいる。コメントも書かせているが、「二度と一緒にやりたくない」「二度と付き合いたくない」というのがある。しかしまた発注している。業務の成果が悪かったらどうするのか? というと、やり直さなければならないだろう、と。これって、時間と税金の無駄遣いではないのだろうか?
 次回以降は、さらに
① 橋梁トリアージ思想
② 富山市橋梁マネジメント基本計画の策定
③ セカンドオピニオン制度
④ 架け替えのマンジメント
⑤ 官学連携体制の確保
⑥ 試験フィールドの積極提供
⑦ 官民連携体制の検討
⑧ 職員教育「植野塾」
 ――等について書いていく。

4.まとめ

 最近、本連載を読んだり、「植野塾」の情報、CAESARの講演会、郡山での講演資料を見たというのでの講演依頼が多い。講演を聴き、多くの方に賛同していただくのは非常にありがたい。
 インフラの老朽化の問題は、非常に大きな危機である。災害よりも大きなインパクトを持っている。災害は一瞬(復興には時間もかかるが)。老朽化の問題は、負の遺産を含め、着実にじわじわと毎日効いてくる。この危機感がない者が多い。民間は、商売になれば良いと思うかもしれないが、管理者はそうではない。
 国民や市民を護るという使命があるのであるが、どうも悠長に構えている気がする。
 某所(複数)から、老朽化対策の連携を促進する試みをして欲しいと言う課題があり、いくつかの自治体に声をかけさせていただいている。しかし、私は改めて資料を作成する気はない。「それではわからない」だろうが、話したときに、直感で感じてくれないということは危機感が無いか? 自分のところで事足りている、ということだと思い、その後は声をかけない。時間がもったいない。
 老朽化問題は、「終わりなき戦い」であり、「先が見えない」。そして、「まじめに対応すれば何とかなる」ものでもない。だから、厄介なのである。
(2018年8月16日掲載)

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