道路構造物ジャーナルNET

㉘インハウススーパーバイザー

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.03.15

3. しゅうニャン橋守隊

 この、中心人物、周南市の今井さんと、お会いした。実は、これまでこの「しゅうニャン橋守隊」が気になっていた。インフラメンテナンスに関しては、産官学の協力が必要である。あとは、重要なのが市民を巻き込んだ、インフラへ愛着を持たせる活動が重要である。
 現在の富山市に抜けているのはここである。この部分は、住民性県民性と言ったものが大きく影響する。これに関しては、言わないほうがよいという意見も有るが、これはどうしょうもないことである。この国では、全国一律に考えてしまう傾向がある。Aで出来たからBでもと、いう、甘い考えでやろうとすると失敗する。押し付け事業が失敗するのは、そういうところが大きい。
 私も、富山で鋼橋の塗装を、小学生や住民の方に楽しみながらやってみようとしたことがある。しかし、失敗した。住民の方から、「あの橋は錆びていて町の景観が悪い」という苦情があった際に、材料は支給し、危険な箇所はプロに参加してもらうので塗りやすい部分を遊び半分で塗ってみないか?」と代表の議員さんに打診したところ、OKとなった。これは良い傾向だと感じて、材料を手配することを準備させ、住民説明会を開いた。住民説明会と言うのも、市役所の重要な仕事である。通常は工事計画や、協力のお願いを事前にするのである。なるべく多くの方に参加していただくために、土日や夜に行う。このときも19時から行ったが、説明し始めると、どうも雰囲気がおかしい。すると、「何で、橋の塗装を自分達住民がやらなければならないのか?市役所の仕事だろう。」という意見が出て、其れが主流に成ってきたため、引き上げた。この意見も、理解できる。これまでの世の中では、インフラは作るもの使うもので、守るものでは無かった。自分達は税金を払っている。役所は何をやっているんだ!というのが、一般的な意見である。


住民と塗装イベントを行おうとした橋

 しかし、この当たり前だったことが当たり前でなくなる世の中に急激に向っている。なかなか、感じにくいと思うが、日々、インフラの状態を見ていると、腹立たしいほどの状態である。少しでも、これを緩和できるのは住民の皆さんである。過剰なことは望まない、協力できることは協力するということが、長寿命化につながる。これに対し、どう感じていただけるか? なのである。「協力したい。協力しよう」と思っていただければありがたいが、「面白そうだ」でもよいのであるが、なかなか、簡単にはいかない。この、リーダーには人望が要るので、わたしのような者は無理である。あとは、日本人は権威に従う傾向があるので、権威者がやってくれればよいのであるが、そういう方はやろうとしない。これも、ある意味、役割分担であろう。
 今回、今井さんとお会いし、想像していたとおりの、すばらしい方であった。さらに付記したいのが、日本大学工学部の岩城先生のところのマスターの、浅野和香奈さん。「橋のセルフメンテナンスふくしまモデル」という活動をやられている。学生とは思えない活動で本来は自治体のしかるべき部署としたいくらいの活動である。浅野さんは岩城先生の指導の基、学生らしい、そして女性らしい、発想と行動力を持って活動し、ある村の橋梁を住民と守っている。
 深く、お話を聞いたわけではないが、今井さんの苦労も、浅野さんの苦労も、想像が着くし、理解できる。これが、このお二人のすばらしいところである。浅野さんは学生であり、自由な発想と行動力で、今井さんは、公務員としては、私と同様、民間出身という、他の方々とは違った発想と行動力があるのだと思う。
 富山でも、そういうソフトな活動をしてみたい。「橋の話」を小学生や中学生、お母さん達にしてみたい。市役所には市民向けの出前講座と言う制度があるが、話すら上がらないのである。
 大学の同窓会で、話を頼まれて、もともと文科系の方々が多いのだが、結構地元で教員をされている方が多い。自分の経験を話しながら橋の話をした。すごく喜ばれ、楽しかったモット聞きたい、子供・生徒にも聞かせたいと言われた。結構一般の方はそういう話に興味をもってくれるのだと思う。橋を守るのにはまず、興味を持ってもらわないと成らない。
 そういう意味で、私が職員にすら興味を持ってもらえないのに、市民レベルにまで興味を持って らえる活動をしている、今井さんや浅野さんはすばらしい。苦労と努力がしのばれる。

4.まとめ

 今回は、かつてから、気になっていたソフト系の活動に関して書いた。インフラメンテナンスにおいては、ソフトとハードの活動が必須と成る。総力戦になるわけだ。なにごと、車の両輪のようにハードとソフトの対応が重要なのだが、なかなか、世の中はそうは行かず、それぞれ別々に動いている。今回、取り上げた方々は、それぞれすばらしい方々で、個人的な魅力もあり、だから、周りの人間も、一緒にやろう!協力しよう!という事になるのだろうと感じる。私のまねのできないところである。皆さん、それぞれ戦っているのである。しかし、人それぞれ、役割分担がある。私は私の役割を実行するだけ。
 先日、富山に来るきっかけの方とお会いし、2人で話した。「もう、いいんじゃないの?いつまでも迷惑をかけられないし、中央にもどり、全国に発信すべきでは」という事になった。これは、まさに今、私が悩んでいることでもある。それで正直だいぶ気が楽になった。ここに居るのは、こう見えても結構辛い。なにがか? というと、分からない方には分からないことだが、二重生活になっているので、精神面・経済面で結構辛い。やってみた者でなければ分からない。ましてや、これから先のことも考えなければならない年代にである。結局、自分の時間と生活を、供出しているのであるが、他人事の方々は、将来良い思い出になると言うのだが、どうだろうか? それは、幸せな方たちである。
 しかし、ここに居たおかげで、インフラメンテナンスの、様々な課題が実際に見えてきた。国(中央)から視ていると分からないことも、感じられた。これは、他の方には経験のできていないことであろう。自治体の実態が様々な面から見えてきた。思い描いていた、よりもかなり深刻な問題もある。自治体の抱える問題点が、如実に見えてきたので、来年度は其れを発信していく年にしたい。それが、私の義務でもある。


インフラメンテナンスは総力戦

 地方と中央では、自分が受け取るにしても、発信するにしても情報量が全然違っている。これは、戦略上認識しておくべきことである。インターネットの時代と言えども、本当に重要な情報は人から入ってくる。人脈が重要なのは、そういうところでもある。今、ここに居て言えないことも、そのうち、発信していくつもりである。(意味深でしょうが、いずれお楽しみに)(2018年3月15日掲載、次回は4月中旬に掲載予定です)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム