4.疲労亀裂をターゲットにした維持管理の流れ
今回の調査及び分析結果等から導いた、管理橋梁を対象とした疲労亀裂に関する維持管理の流れを図‐4に示す。
図‐4 管理橋を対象とした維持管理の流れ:疲労亀裂・疲労環境等
詳細調査を行った結果、主要部材の亀裂である分類Aの場合は緊急対策を行い、同時に恒久的な対策を行うことが必要である。ここで実施する恒久対策分類と解説は次回に回すとして、緊急対策実施後に恒久対策を行うグループを動態観測Ⅰとする。恒久対策の要求性能は、残余耐用年数を50年以上とすることが必要である。緊急対策後の恒久対策を直ぐに行えない場合は、動態観測Ⅱとし、有資格者による近接目視点検を1から2カ月に1度の頻度で実施するか、もしくは疲労亀裂発生の可能性が高い箇所に亀裂センサー等を使った常時モニタリングを行うグループとした。
詳細調査の結果、主要部材の亀裂ではないが、主要部材に進展の可能性及び重要度が高いと判断した橋梁は動態観測Ⅲとした。動態観測Ⅲの橋梁は、有資格者による近接目視点検を年に1回実施するか、もしくは動態観測Ⅱと同様に常時モニタリングを行うものした。先の橋梁グループⅠ、Ⅱ、Ⅲの疲労亀裂の無い橋梁及び今回の3つのグループ以外の分類Fは、5年に1回の定期点検と塗り替え塗装時の足場等を利用して亀裂発生の高い部位を対象に重点的に近接目視点検を行うこととした。
私が今回示した流れにおいて重要なポイントとなる有資格者とは、一般社団法人鋼構造協会が認定している土木鋼構造診断士や一般社団法人日本構造物診断技術協会が認定している一級構造物診断士などを指している。これは、疲労亀裂に関する専門知識を持ち、疲労亀裂を自らの目で何度か確認し、それなりの技術力があるものと私が期待したからだ。ここにあげた資格取得者で疲労環境、疲労亀裂を未経験の技術者は、私の評価に値するよう、直ぐにでも現場に出て疲労亀裂を自分の目で確かめる行動を起こしてほしい。
図‐4の中で主要部材の亀裂以外に行うモニタリングとは、疲労亀裂を対象とする常時計測を意味する。ここで、現在使われているモニタリングの種類と計測内容を表‐9に示した。本表で分かるようにモニタリング手法としては、目視調査とデータを機械的に把握する非破壊検査に大別できる。
なお、ここで紹介した非破壊検査法には、次回説明する腐食(断面欠損等)をモニタリングする手法も含んでいるので再度次回目を通してもらいたい。以上が、鋼道路橋の耐久性向上(その1)、疲労亀裂と管理橋梁の疲労調査を考えてみようであり、これで私の説明を終えるとしよう。
5.今回示した調査のまとめと想定外の悪しき事実
供用している道路橋を対象に、疲労亀裂の調査を行う事例は国や地方自治体の一部や高速道路会社には数多くある。しかし、地方自治体の場合、疲労亀裂、特に亀裂調査に関する知識や経験のある技術者は少ないのが一般的だ。私が今回疲労亀裂、疲労環境等の調査について説明したのは、いたずらに疲労亀裂の調査委託を発注すべきでないとの意がある。図‐5は今回行った調査等のまとめとして、橋梁グループと橋梁形式を区分けし、疲労亀裂発生箇所は何処かを見える化した図解である。
過去の定期点検等で亀裂を発見したのは①の合成I桁橋・B橋、③の鋼床版I桁橋・F橋(下り)、⑤の鋼床版箱桁橋・C橋である。3つの橋梁とも主要幹線に位置する重要な橋梁であるが、①B橋の場合、載荷試験結果では疲労亀裂発生の範囲外であり、溶接部の脚長が不足していたのが主原因である。疲労亀裂の起こりやすい条件の橋梁グループ3は、②の非合成I桁橋・R橋は疲労亀裂発生の可能性は高いと考えたが、再調査したところ前述のB橋と同様に工場製作時の欠陥が数多く確認された。次に④の鋼床版I桁橋・W橋はゲルバー掛け違い部に発生した疲労亀裂であり、安全性が危惧される構造的弱点を抱えている。⑤の鋼床版箱桁橋・C橋は、鋼床版デッキに進展していた疲労亀裂で応力範囲や亀裂位置から要注意橋梁である。
図‐5で分かることは、重大疲労亀裂が発生していない橋梁形式は、合成、非合成に関係なく鉄筋コンクリート床版箱桁構造であった。この理由は、他の橋梁形式と比較して剛性が高く、たわみ難い構造とも考えられる。
ここまで読まれた多くの方々は、本連載の題目「これでよいのか専門技術者」副題「分かっていますか?何が問題なのか」が今回の内容のどこの部分かと思われた方も多いと思う。勘の良い方は薄々感じてはいると思うが、最後の締めに苦言を呈することとしよう。
今回の現地再調査の結果、損傷発生の原因に脚長不足、製作上の欠陥等、疲労環境以外の原因で亀裂発生した事例が数多くあった。以前にも、私の経験談で主桁・グループ溶接部の破断事故を紹介し、二度とこのような恥ずべき行為が無いようにと警鐘を鳴らした。
しかし、私が指摘する技術者として本質を疑うような行為は減るどころか実は増加の一途なのだ。鋼橋を製作している会社も製作上行ってはならないこと、技術者として倫理観を疑われるような行為は避けるべきであることを承知の上で行う、もはや確信犯と思わざるを得ない。
また、工場製作製品の受け取り検査を行い、良いものを正しい金額で納入させる責務を負う行政側の技術者にも多大な瑕疵がある。大したことではないとお思いの方は、目を皿にして最悪の状況、写真‐4を見てほしい。
これは、私が塗膜割れ、亀裂確認調査で鋼箱桁内に入った際に目にした状況だ。工場で製作した鋼箱桁を現場に輸送し、現場で添接するのは良くある事例だ。しかし、写真‐4の添接部に点付け溶接された鉄製蝶番は何なのか。私は恥ずかしい、これが日本をリードする一流ファブリケータが行うことなのかと。
私に同行した民間企業(橋梁製作・架設会社)の技術者達に聞く。「継手部にあるこれは何ですか?」しばらく沈黙の時間が経過した後、彼ら曰く「見たことも無いですね! 何ですかねこれは?」。私が「私の目には、扉の蝶番に見えるのですが?」と言うと、彼らは「……」。私は「これ蝶番ですよね。疲労亀裂が起こりやすい溶接継手等級から判断するとこれは何等級だろうね?」。彼らはまたも「……」。彼らは分かっているのだ、なぜ最悪の行為を行ったかを。
行政側の技術者にも大きな過失がある。行政技術者が行う完了検査は、箱桁内の確認は行わないのか? 私が現場にいた時は、設計との差異、製作上の誤りを確認する目的で、少なくとも全線を歩いて確認し、桁内を這いずり回り、梯子をかけてでも確認している(誰が見ても気づくでしょう、蝶番の存在は)。
連載で以前指摘し説明した製作・施工上の瑕疵を抱えた橋梁は、いずれも過去の大量製作・架設した時代の橋梁であった。今回の謎の蝶番設置事例は、品質確報、機械化が進んだ現代橋梁なのだ。分かっているのか官民技術者と声を大にして言いたい。二度とこのような悪しき事例を目にしたくも無いし、聞きたくもない。猛省すべきはこれに関与した技術者、官民の専門技術者である。私は怒っている!!
ここで私ごと、私の執筆した湯気の立っている書籍のPRを話そう。34回目にあたる本連載が公開される2018年2月1日(木曜日)に、書籍『これでよいのか! インフラ専門技術者』、副題が『大修繕時代をどう生き抜くか』が出版社・ぎょうせいから出版され、書店に並ぶ。定価は、2,200円(税別)と安くはないが、本連載を基に全てを見直し、新たなとんでもない事件をプラスして取り纏めてある。自画自賛でお聞き苦しいとは思うが、本書籍の表紙も素晴らしいが、結構内容も読みごたえもある。本連載を当該NETで読まれている方には是非私の力作を購入してもらいたい。そして、SNSにでも本書籍の評価等を投稿され、読者を鼠算のように増やしてほしい。それが、我々技術者の地位及び信頼性向上と今回のような不祥事を撲滅することになるので。
次回は、今回積み残した鋼道路橋に発生した疲労亀裂の恒久的対策と腐食、および鋼道路橋の将来展望について考え方を述べるので、期待されたい。